親子喧嘩
次の日、旅の疲れがあったのか、僕らは昼前まで眠っていたみたいだ。
サラーネ様も使用人の方々も僕らがぐっすり眠っていたから起こさなかったらしい。
なので起きて着替えや身支度を済ませた頃には丁度お昼ご飯の時間になっていた。
昨日の夕食同様にサラーネ様と一緒に食べる事になった。
ご飯を食べながら今日のこれからの予定を話し合っていると、ノックの音がして執事のブルトンさんが入ってきた。
「只今、門番から報告があり、オズワルド様がお帰りなられました。もう少しで屋敷に着くと思いますが、お出迎えはなさいますか?」
「あんな馬鹿息子に出迎えてなんていりませんわよ!ブルトン一人で出迎えて頂戴!その時にここに来るように言って頂戴!」
サラーネ様は少し怒気をはらんだ声で告げた。
「かしこまりました」
ブルトンさんはそう言うと部屋を後にした。
「ご飯中にごめんなさいね。聞いていたと思うけどもうすぐここに馬鹿息子が来るんだけど、もしかしたら少し言い合いになっちゃうかもしれないから先に謝っておきますね」
馬鹿息子ってオズ先生は王宮では凄く有能で次期宰相間違いなしと言われている人だ。
やっぱり未だに結婚していない事が影響しているのかな?
そして、少しすると、再びノックの音がした後に一人の男性が入ってきた。
「母上、久しぶりに帰ってきた息子に出迎えもないとはどういう事ですか? しかも今回は母上がどうしても帰ってこいと言ってきたではありませんか?」
久しぶりに見たオズ先生は全く変わっていなかった。
口調以外は。
僕と一緒に居た時はもっとくだけた口調だったからこれがマアサが言っていた外面モードなのかもしれない。
「なんですか! 帰ってそうそうに情けない! これが我が公爵家の跡取りと思うと私は悲しい。周りを見なさい」
サラーネ様の声でオズ先生は周りを見渡し、やっと僕らの存在を視認したようだ。
そして、僕と目線が合い、オズ先生は驚いた顔を見せながら言った。
「ト・・・・。カルロスじゃないか!元気にしていたか。周りの子供達は友達か?」
オズ先生は『ト』と言ってから少し悩んでからカルロスの名前を呼んだ。
僕とオズ先生の師弟関係は公にはなっていないから気を使ってくれたんだろうか?
「お義父様、お久しぶりでございます。とても楽しく学園生活を送っています。沢山の友達も出来ました。左からリディアナ、トーラス、アンジェリカ、イザベラ、アレックス、ロイスです」
僕らは名前が呼ばれる度にオズ先生にお辞儀をした。
「そうか。楽しいなら何よりだ。友達も大切にしなさい」
「はい。もちろんです」
「それで母上、ご用は何でしょうか? お見合いならしませんよ」
「安心しなさい。あなたの結婚に関しては私はもう諦めました。我が公爵家にはカルロスという素晴らしい後継者がいますのであなたはどうぞご自由にしてください」
「それはそれはありがたいですね。やっと諦めていただけたなんて! カルロスを養子に取った甲斐がありますね。もしかして用事はそれだけですか? それならば私は王都に帰らせていただきます」
「違います。私があなたを呼んだのはこの子達に街を案内して欲しいと思ったからです」
「何で私がそんな事をしなくてはいけないんですか!」
「そんな事とは何ですか! カルロスはあなたの息子でしょう。たまには息子のために何かしたらどうなの」
サラーネ様の言葉に何かを思ったのか、少し考えた後にオズ先生は『わかった。案内します』と言った。
こうして午後からの予定はオズ先生と行くロンダークの街の観光となった。
「そういえばあの人とは一緒ではないのですか?」
「父上ですか? 何が悲しくて一緒に帰ってこないといけないのですか。父上は夕方には着くんじゃないですか」
オズ先生の言葉にサラーネ様は呆れを通り越してもうどうでもいいって感じだった。
「それじゃあ君達、一時間後に玄関に集合だからよろしくな」
オズ先生はそう言うと部屋を後にした。
「はぁ。ごめんなさいね。見苦しい所を見せてしまって。そういう事だから滞在中はオズワルドにいろいろと案内してもらって頂戴。ご飯は一緒に食べましょうね。もちろんオズワルド抜きでね。」
終始お二人に圧倒されながらも昼食を終え、一旦部屋に戻り準備をして、予定の時間に玄関に向かった。
今回は公爵家所有の大型の馬車一台で行く事になった。
馬車に乗り、まずはオズ先生の指示で街の中心街に向かった。
馬車の中には僕の正体を知っている人ばかりだったのでオズ先生に話しかける事にした。
「オズ先生、お久しぶりです。お元気そうで良かったです」
オズ先生は周りを見渡して何かを察したのか砕けた口調で言った。
「何だよ。もしかしてお前らトーラスの正体知ってるのかよ。気を使って損したわ」
いきなり変わったオズ先生の口調に僕以外は皆驚いていた。
「はい。知ってます。だからいつも通りでいいですよ」
「助かるわ。街でもずっとあの口調で話さないといけないと思っていたからな。お前らもあまり緊張するなよ。とりあえず楽しめ。俺に気を使わなくていい。カルロスの友人であるお前らは俺にとっても大切な存在だ。ロンダークの街を満喫しようぜ!」
オズ先生の言葉にカルロスは少し目をうるわせていた。
多分、オズ先生の言葉に感動したんだろうな。
「オズ先生、カルロスから聞きましたよ。カルロスに僕に学力試験で勝ったら認めてやるとか言ったらしいじゃないですか!」
僕の言葉にオズ先生は少し動揺していた。
「あれは……カルロスはトーラスと良きライバルになると思ったんだよ。二人は俺が認めた奴らだからな」
カルロスはもうオズ先生が何を言っているのかわからないという顔をしていた。
「オズ先生、人は言葉にしないとわかりませんよ。オズ先生にとってカルロスは大切な存在ですか?」
「当たり前だ! 何だってカルロスを養子に選んだのは俺だからな」
カルロスはオズ先生を見つめていた。
「えっ! お義父様が僕を選んでくれたんですか? 本当に!! でもどうして?」
「そんなの勘に決まってるだろ」
「勘……」
「お前は覚えているか。あの集まりの事を」
「もちろんです」
集まりとはマークウェル公爵家の分家を含めて一同に集まる茶会の事らしい。
「あの集まりは極秘裏に俺の養子を見つけるためのものだったんだ。実をいうと、候補は四人くらいに絞られていてその中にお前は入っていなかったんだ。だけど俺はお前を見てビビってきたんだ。本当になぜだかわからないがお前なら俺の後にマークウェル公爵家を託せるんじゃないかって思ったんだよ」
もうカルロスの涙腺は限界だった。
「男だろ。泣くんじゃねぇよ」
「はい。お義父様の期待に答えられるように頑張ります」
「くれぐれも無理はするなよ。周りにこんなに沢山いるんだから頼れよ」
「はい」
僕はカルロスから僕に勝ったら認めてやるって話を聞いていた時からずっと思っていたんだ。
オズ先生は自分がどうでもいいと思っている人には何も言わないんだ。
だからカルロスに言ったって事は裏を返せば最初からカルロスの事を認めているんじゃないかって
そんなこんなで馬車の中は凄く暖かい雰囲気に満たされていた。
馬車はとっくの昔に目的地に着いていたが、誰も言う者はいなかった。
ただただカルロスよかったね! という気持ちでいっぱいだったから




