王子様がいる料理店
「どうしたもこうしたもないだろう。皆腹を空かせて俺の料理を求めてやってくるんだ。開けねぇ訳にはいかねぇよ。何とか店を回すぞ。ロイス、こっちに来てくれ。緊急事態だ!」
ベンツさんの声にロイスは慌てて駆け寄った。
「どうしたの父さん?」
「ネルソンとラヴィが体調を崩して来れなくなった。悪いんだが店を手伝ってほしいんだ」
「ラーニャさんとユウノさんは?」
「二人は用事があるらしい。来れるとしても夜だろう」
「わかった手伝うよ。ごめん皆、緊急事態が起きて店を手伝う事になったから明日の出発まで別行動っていう事でもいいかな?」
旅の行程では今日はロイスの実家の宿屋に泊まって明日、ロンベスター子爵領に出発する予定だ。
「別行動ってその間、俺達は何をしたらいいんだよ。ロイスにここら辺案内してもらう予定だっただろう。ロイスがいないなら街を回る意味がないぜ。俺達暇人になったな」
「そうね。何だか私接客というものを体験してみたくなってきたわ」
「私もアンジェと同じ気持ちだわ。イザベルもよね!」
「どうしてもっていうなら手伝って差し上げてもよろしくてよ」
「僕も何か手伝いたいな。計算には自信があるからお会計とかなら任して!」
「ロイス皆気持ちは一緒だよ。友達の家のピンチを見過ごす事なんて出来ないよ。僕らも手伝うよ。何でも言って!」
「皆……」
「そういう事ですのでベンツさん、力になれるかはわかりませんが、僕らも手伝わせていただけますか?」
「俺は貴族の坊っちゃん嬢ちゃんだからって優しくするような人間じゃねぇぞ! それでもいいのか?」
「問題ありません。僕らは貴族の人間である前にロイスの友人です。友人のピンチを助けるのは当たり前の事です。そこに貴族も平民も関係ありません」
「あははははは! 気に入った! こちらこそよろしく頼む。実際相当ピンチだったんだ。お前らがロイスの友人になってくれた事を心の底から嬉しく思う」
「こら! 皆さんごめんなさいね。主人は普段からこういう人なのよ。でも本当にありがとう」
手伝う事が決まり、とりあえず誰が何をするか話し合うことになった。
そして、接客は僕・アンジェリカ・リディアナ・イザベルの四人。
カルロスは会計を担当。
ロイスは料理補助。
アレックスは何でも屋。
ロイスの話ではピーク時間になると行列も出来るくらい繁盛するみたいだ。
普段は熟練された従業員達が見事な連携で乗り切るらしいけど、今日は素人だらけだ。
なので質より量でいくため接客には大人数で挑む事になった。
その後は軽く接客の仕方をコロナさんから指南してもらったりメニューを暗記したりとあっという間に時間が過ぎていった。
そして、開店10分前、準備を終わらせコロナさんを除く全員が集まっていた。
なぜコロナさんがいないかというと、運悪く宿屋を利用するお客さんがたくさん来ているからだ。
まぁ宿屋的には最高なんだけど、タイミングが少し悪かったかな。
「お前ら心の準備はいいか? もうすぐ開店だ! 俺が言うことは一つだけだ。どんなに辛くても笑顔でいろ。それだけ心掛けとけば大丈夫だ。お前らならやれる。よろしく頼む!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
そして、ついに開店の時間になった。
僕はドキドキしていた。
でも周りには頼りになる仲間がいる。
大丈夫。僕らならやれる!
「「「いらっしゃいませ!」」」
開店と同時にたくさんの人が来店してきた。
僕らは落ち着いて順番にお客様を席に案内していく。
注文を取り、オーダーを厨房に通す。
出来上がった料理をテーブルに持っていく。
それらを何度も何度も繰り返す。
もちろん笑顔は忘れずに!
お客様は入れ替わり立ち替わり、次々に入ってくる。
想像以上の人だ。
外を見に行ったアレックスから報告が来た。
すごい行列が出来てるみたいだ。
女性客が特に多いらしい。
それをベンツさんに伝えると少し驚いていた。
行列は出来るのは珍しくないが、数が尋常ではないらしい。
食材は十分足りるみたいなので、どんどんお客様を入れていった。
数をこなしていく内に余裕も少しずつ生まれてきた。
そういう時にミスを犯しやすいとコロナさんから言われていたので、より一層、気を引き締めた。
そして、開店から三時間。
ピークタイムが終了した。
普段なら開店して二時間したら客足も緩やかになるらしいんだけどね。
店も落ち着き、やっと力を抜く事が出来た。
すごく疲れた!
でも何だろう? すごく気持ちのいい疲れだ!
この時間帯は店は開けているけど、食事をされる方はまばらだ。
ベンツさんいわく、周りの店の奴らが休憩しに来てるんだよ! との事だ。
「皆お疲れ様。本当にありがとう」
「すごい人だったわね。びっくりしたわ!」
「僕もこんなにお客様が来たのは始めて見たよ。特に女性客が多かったよ。何でだろう?」
話をしていると、厨房からベンツさんがやってきた。
「お前らよく頑張ったな。本当に助かったよ。それにしてもすごい人だったな。今日祭りでもあったっけか?」
ベンツさんにもわからないみたいだった。
そんな時、一人の女性が店に入ってきた。
「ベンツ、見に来たわよ。噂の王子様はどこかしら?」
「ナージャじゃねぇか!何だよ噂の王子様って」
「知らないの? 今街ではすごい話題になっているわよ。王子様がいる料理店だって」
「何だよそれは」
僕は王子という言葉に反応した。
でも僕が第三王子だとばれる訳はないし、どういう事だ?
そんな事を考えていると、皆が僕の方を見てこそこそ話をしていた。
何?
「いたいた。本当に王子様みたいね。こりゃあ街の女の子達が店に押し寄せるのはわかるわ」
先程店に入ってきたナージャさんが僕の所に来てそう言った。
僕は何がなんだかわからなかった。
「トーラス混乱してるわね」
「リディアナ何が何だかわからないんだけど」
「簡単な事よ。多分、店に来たお客様(女性)がトーラスの絶世の美貌を見て衝撃を受けて、この店に王子様が働いてるって言いふらしたんじゃないかな」
リディアナの言葉に衝撃を受けていると、再びナージャさんが声をかけてきた。
「トーラス君だったわね。君が一番の要因ではあるけど、他の子達もよ。皆美少年美少女揃だからね。あなた達は誰? ロイスの友人かしら?」
「はい」
「やっぱりそうなのね。自己紹介がまだだったわね。私はナージャって言います。そこにいるベンツの妹です。ロイスの叔母っていう事になるわね。よろしくね!」
僕はもう深く考えるのを止める事にした。
この世界に転生して自分の顔が整っている事はすごく痛感している。
格好よく生まれたのはラッキーな事だし、人間は中身の方が大事だし
その後はナージャさんやお店にいた近所の人からロイスの昔話をたくさん聞くことが出来た。
コロナさんから夜にはラーニャさんとユウノさんが来てくれる事になったと聞き、僕らは一安心した。
ネルソンさんとラヴィさんの体調も快方に向かっており、明日は 出勤出来るそうなので思う存分旅を楽しんできてねと言ってもらえた。
夜は昼同様にベンツさんの美味しい料理をいただき、一日の疲れが出たのか早い時間に眠りについた。
今日一日大変だったけど、楽しかった。
とても良い経験が出来た。
明日からはどんな事が僕らを待ち構えているんだろうか




