噂とはねじ曲がるもの
あの日から、二ヶ月の時が過ぎた。
僕は今までと同じように学園生活を過ごしている。
その一方で、あの日以来、劇的に学園生活が変化した人がいる。
その人とは、ルミエールお姉様だ。
あの日、アルバート先輩からの突然の告白。
ルミエールお姉様だけではなく、あそこにいた全員が驚いたに違いない。
あの場でアルバート先輩はルミエールお姉様に弟のような存在ではなく、一人の男なんだと認識させた。
あれからアルバート先輩のルミエール先輩への態度が180度、変わった。
これまでは本当に端から見ても姉弟のような感じだった。
でも今はアルバート先輩はルミエールお姉様を一人の女性として、接している。
言葉でも行動でも示している。
自分はあなたが大好きですということをだ。
アルバート先輩は生徒会の時だけではなく、普段の学園生活でも積極的にアプローチをしている。
アルバート先輩は女子生徒から凄まじい人気がある。
当然だ。家は名家で文武ともに優秀で気さくで人当たりも良く性格も素晴らしい人なのだから。
なので、最初の頃、アルバート先輩の猛烈なルミエールお姉様へのアプローチを見た、アルバート先輩を狙っていた女子生徒達はショックを受けたみたいだ。
中には、普段とは違う肉食感もたまらない! という生徒もいたみたいだ。
しかし、あまり大事にならなかったのは、相手がルミエールお姉様だったからだ。
ルミエールお姉様は生徒会ではいつも暴走ぎみだけど、普段は優秀な人だ。
数少ない第一王子のクライブ先輩を止められる人だということもあり、クラスメイトからとても尊敬され、頼られ、好かれている存在らしい。
ルミエールお姉様のエストアール伯爵家は代々文官を多く輩出する家柄で現エストアール家当主、ルミエールお姉様のお父様は王宮で外務大臣の地位にある方だ。
なので、周囲は財務大臣のヴェストリア家、外務大臣のエストアール家の二人に口をはさめる者はいないのだ。
しかし、そんな中、事件は起きた。
それはアルバート先輩の猛烈なアプローチが始まって一ヶ月が経った頃に起こった。
その頃には学園中に二人の噂は広がっていた。
噂とは、いろいろとねじ曲がって伝わっていくものだ。
その噂とは、ルミエールお姉様には、アルバート先輩以外の親が決めた婚約者がいる。
アルバート先輩の事が大好きだけど、ルミエールお姉様は家のため、その人と結婚するつもりだと。
しかし、アルバート先輩はそれを知りながらミエールお姉様にアプローチを続ける。
ルミエールお姉様は拒み続けているというものだ。
本当は、ルミエールお姉様に親の決めた婚約者なんていないし、ルミエールお姉様が拒み続けているのは、ずっと、アルバート先輩の事を弟のようだと思っていたからだ。
その噂が学園内だけでおさまれば良かったんだけど、どうしてかわからないけど、その噂が王宮に務めているお二人のお父様達に伝わったのだ。
その噂も更にねじ曲がっていた。
二人は愛し合っていて、今すぐにでも婚約したいのに、認めてもらえない。それどころかルミエールお姉様にアルバート先輩以外の婚約者をあてがおうとしていると。
翌日、噂を聞き付け、ルミエールお姉様のお父様が学園にやってきた。
立会人にノアールお姉様、何故か僕、リディアナが部屋に同席する事になった。
ルミエールお姉様にどうしても同席してほしいと懇願されたのだ。
「ルミエール、久しぶりだね。元気にしてたかい!」
「はい、お父様!お父様もお変わりなく、安心しました」
「アルバート君も久しぶりだね」
「ルシア様、お久しぶりです」
「ロバートは仕事があって、今日、来れなくて相当、悔しがってたぞ」
「そうですか……」
「それでなぜ私が学園に来たか、もちろん二人はわかっているな!」
「はい」
「はい」
「噂によると、二人は愛し合っていて、今すぐにでも婚約したい。しかし、私やロバートがそれを許さないらしいな」
「その噂はでたらめですわお父様!」
「なら、ルミエールにアルバート君と婚約したいという意志は無いということでいいのかい?」
「……」
ルミエールお姉様は肯定も否定もすることなく黙ったままだった。
「アルバート君はどうなんだい? 君はルミエールと婚約したいという気持ちはあるのかい?」
「あります!」
逆にアルバート先輩は即答だった。
「なるほど。僕としては、二人が結婚してくれると嬉しいんだけど、ルミエールは気持ちがはっきりしてないみたいだね」
「お父様!」
「そんなに驚く事かい? 私とロバートは昔からの親友だ。昔から家同士で交流が多かったからルミエールも小さい頃からアルバート君と接していただろ。そういう感情は無いのかい?」
「私はアルバートの事は好きですわ。でもそれは、男性としてでは無いです。昔からアルバートの事を実の弟のように思っていました」
「だそうだけど、アルバート君は諦められるの?」
「無理です。僕自身もわかっていました。ずっと、ルミエールにとって僕は弟でしかないという事は、でも僕はずっと、ルミエールの事を姉としてではなく、一人の女性として、大好きでした。数ヵ月前にあることがきっかけでルミエールに僕の気持ちを伝えました。そこからずっと、想いを伝えてきました。ルミエールが例え、僕以外の男を好きになったとしても、絶対に僕の方を振り向かせて見せます。それほどに僕にとってルミエールはかけがえのない存在なんです」
「アルバート君の気持ちはわかった。親として、ルミエールの事をそこまで好きでいてくれてありがとう。婚約はまだ待とう。ルミエールがいつか自分の気持ちに気付くまで。ルミエールが婚約したくなったら、二人で報告に来なさい」
「お父様、何でそうなりますの?」
「ルミエール、少しは自分の気持ちに正直になりなさい」
「正直になってますわ!」
「ならなぜ、最初に婚約する意志があるか聞いた時、黙ったんだい。あそこで婚約したくありませんと言っていれば、私はルミエールの意思を尊重したよ」
「……」
ルミエールお姉様は何とも言えない表情を見せた。
「ルミエール、改めて言うよ。僕はルミエールが好きだ! 僕はいつまでだって待つから。ルミエールが僕の事を好きになってくれるまでずっと! だから少しでいいから考えて欲しい。僕という男の事を!」
「わかったわ。考えてみる」
ルミエールお姉様は少し顔を赤くしながら言った。
それを見て、僕、リディアナ、ノアールお姉様は顔を見合わせて微笑んだ。
僕は知ってるよ。本当はルミエールお姉様がアルバート先輩の事を好きな事を。
なぜ、知ってるかって?
本人から聞いたからね。
僕とリディアナは最近、ルミエールお姉様からよく相談を受けている。
そこでルミエールお姉様がポロっとこぼしたんだよ。
今はまだ、素直になれてないだけなんだ。
学園生活はまだまだ長い。
いつかルミエールお姉様が素直になれる日が来ればいいなぁと僕は切に願っている。




