恋に落ちる瞬間
「そういえば、アレックスとイザベルはあれからどうなの?」
僕の言葉にイザベルが動揺を見せる。
「何の事ですの?」
「もう、トーラスってば、アレックスとイザベルを使ってリディアナから目をそらさせる作戦ね! その手には乗らないわよと言いたい所だけど、私も興味があったのよ。それでイザベル、あの時、アレックスに抱き締められてたじゃない。あれからどうなの? 告白されたの?」
もちろん、あの時とは、武術大会の準決勝で負けて姿が見えないアレックスを探しに言った時である。
あの時、イザベルの言葉によってアレックスが立ち直る事が出来た。
最後はアレックスがイザベルを抱き締めて端から見たら告白としか思えない言葉を言っていた。
あれから何も無いとは思えない。
二人には本当に申し訳ないけど、目論み通り、アンジェリカの興味が二人に移った。
作戦はバレバレだったけどね。
「アンジェ、あれは誤解だとあの時、言いましたわよね」
「ええ、聞いたわ。イザベルがつまずいたのをアレックスが助けてくれたのだったわね」
「その通りですわ」
「アレックス、今ので合ってる?」
「違う! 俺がイザベルを抱き締めたんだ!」
イザベルはものすごく慌てて小声でアレックスに『何、本当の事、言ってますの』と言っていた。
僕の場所でも聞こえたからアンジェリカが聞こえていないはずがない。
イザベルにはまだ、アンジェリカの恐ろしさを理解していないみたいだ。
少し前のリディアナを見ていただろうに。
「何だか話が食い違ってるわね。アレックスとイザベル、一体、どっちの話が本当なのかしら?」
「俺の話が正しい。あの時、俺はそこにいるアルバート先輩に負けてすごく落ち込んでいたんだ。自分の不甲斐なさを痛感していたんだ。そんな俺にイザベルは沢山の言葉をかけてくれた。嬉しかった。今までの俺の努力は無駄では無かったんだと思えたんだ。それでその時、イザベルがいつも以上に可愛く見えて、気が付いたら抱き締めていたんだ」
イザベルはしゃがみこんで顔を手で押さえて悶えていた。
その状態を確認したアンジェリカは止めを刺しにかかった。
「そうなの。いつも以上に可愛くって事はアレックスは普段もイザベルの事、可愛いと思ってるの?」
「もちろん! 昔は性格が悪くてまったくそんな事、思わなかったんだけど、今の変わったイザベルを見ると、本当に可愛いなぁって思うんだよ」
しゃがみこみながらアレックスの言葉を聞いていたイザベルはとどめを刺されたようで、顔を真っ赤にして、アレックスを見つめていた。
その瞳はこれまでとは明らかに何かが違っていた。
今の僕にならわかる。リディアナに恋した僕なら。
イザベルは今、この瞬間、アレックスに恋したんだ。
アレックスはまだまだ、無自覚だろうけど、気付くのは時間の問題だろう。
気付かなくてもアンジェリカがどうにかしてしまう気がする。
そして、今日、皆は実感しただろう。アンジェリカを敵に回してはいけない事を!
「青春してるね」
「何、言ってるのよ。アルバート君も青春時代、真っ最中なのよ。人気者のあなたなら引く手あまたでしょ」
「会長、止めてください。人気者じゃないですよ。僕は只の小心者ですよ。皆に嫌われないように振る舞ってるだけですよ」
「そんな事、無いわよ。ねぇ、皆!」
「はい。クラスメイトも武術大会を見てアルバート先輩に憧れを持った人はたくさんいますよ! 僕もその一人です。先輩の家は武門の名家とかでは無いのに、努力を重ねてあそこまでの力を手にして、とても憧れました」
「カルロス君、ありがとう! そんな風に思ってくれるのは本当に嬉しいよ」
カルロスの言葉で場の雰囲気も穏やかになったのも束の間、またしてもアンジェリカが爆弾を投下した。
「アルバート先輩は好きな人とかいないんですか?」
「さぁ、どうかな?」
アンジェリカの言葉にアルバート先輩は意味深な笑顔で答えた。
怪しい。
「後輩達がこんなに恥ずかしい思いをしたんですよ。先輩も少しくらい恥ずかしい思いをしたって問題ないですよ」
アンジェリカ、怖いな! 誰が二人をそんな目に合わせたんだっけ?
「そうだね。僕も行動に出てみようかな」
アルバート先輩はそう言うと、ある人物の方向に向かって歩き始めた。
「ルミエール先輩、少しお時間、よろしいですか?」
まさかのルミエールお姉様!
アルバート先輩の行動にその場にいた全員が驚いたに違いない。
別にルミエールお姉様が相手だとおかしいと思った訳ではない。
ルミエールお姉様はとても綺麗な人だし、能力もすごく高い。可愛い物が関わらなければ素晴らしい人だ。
しかし、生徒会メンバーの僕はルミエールお姉様がアルバート先輩を実の弟のように、可愛がってるのを知っている。
「何?」
ルミエールお姉様はアルバート先輩の言葉にしっかりと反応した。
やっと正常な状態に回復したみたいだ。
「あなたが僕の事を弟のようにしか思っていないのは知っています。しかし、私は貴方の事を姉のようには決して、思えません。私はあなたの事を一人の女性として、愛しています。ずっと、好きでした」
アルバート先輩の告白を聞き、ルミエールお姉様は固まっていた。
「今は返事はいりません。いつか、あなたに僕の事を愛してると言わせてみせますから、覚悟してください!」
その時のアルバート先輩は本当に格好良かった。
こうして、この日、三人目の犠牲者がアルバート先輩の手によって、生まれたのだった。




