想像以上の反響
あれから僕はノアールお姉様に抱きしめられながらたくさん泣いてしまった。
でもいっぱい泣いて、今は心の中がすっきりしている。
「そういえば、トーラスの試合はすごかったわね。強いとは聞いていたけど、まさか、あんなに強いなんて思ってなかったわ。瞬殺だったものね」
「ありがとうお姉様。あの試合では、僕は相当ムカついていたから、手加減出来ませんでした。本当は最後の拳の一撃ももう少し手加減しようと思っていましまから」
「見ててすっきりしたわよ。あれくらいは当然の報いよ。二戦目は相手の剣を華麗に避けて最後は投げ技、トーラスは本当に何でも出来るのね」
「二戦目の先輩は拳のダメージが残っていましたからね。動きが鈍かったので簡単に避けれました。投げ技は初めて人相手に使ったから決まって本当によかったです」
「トーラスはいろんな技を知っているけど、誰から習ったの?武術の基本はウィルフリート様からだって聞いたけど、他のもそうなの?」
お姉様は僕の武術の師匠がウィル先生だと知っているみたいだ。
「独学です。護衛のフロースと侍女のリネットと一緒に練習しました」
僕は前世ではベットの上にいる事が多かった。
ベットの上ではやることが限られるから僕はずっと様々なジャンルの本を読んでいた。
その中に様々な格闘技が書かれている本があった。
僕はずっと、夢見ていた。
病気が治って、自由に外で体を動かせるようになったら実践しようと思っていた。
両親に頼んで格闘技の試合の映像なども見て、勉強した。柔道、柔術、合気道、ボクシング、中国拳法、果てはプロレス技まで。
前世ではそれを生かす機会はなかったけど、今世で存分に活用出来ている。
「そうなの。護衛と侍女の二人とはうまくやっているのね。安心したわ」
「はい。フロースもリネットもかけがえのない人です」
「あらあら、そこまで言われるなんて二人に妬いちゃうわね」
「お姉様は二人以上の存在ですよ」
「ありがとう。お話出来て良かったわ。もうそろそろ、友達の所に帰った方がいいわよね。心配してるだろうし。何かあったらいつでも私を頼ってね」
「はい。ありがとうお姉様! 大好きです! それでは行きます。失礼します」
僕はそう言うと、部屋を後にした。
観客席に向かって歩きながら僕は思った。
これから、普段の学園生活で姉と弟の関係として、振る舞う事は出来ないけど、お姉様が学園にいると考えるだけでとても安心感がある。
僕は今日という日を決して忘れないだろう。
少し歩くと、人が多くなってきた。
なぜだか視線を感じる。
僕は気のせいだと思い、皆の元に向かった。
「お疲れ!トーラス、帰ってこないから心配したぜ。リディアナから話は聞いて安心したが」
「ごめん、アレックス、皆。生徒会長と話が弾んちゃってね」
「もう、大変だったのよ。私たちがトーラスと友達だと聞いてトーラスはどこにいるのか、聞かれまくったわ。トーラス狙いのお姉様たちやお礼を言いに来た平民の生徒達にね」
アンジェリカはプンプンしながら言った。
「僕、そんな大層な事、してないんだけどな」
「何、言ってるの。あなたの言葉を聞いて、心に響かなかった人はほとんどいないはずよ。あなたはそれだけの事をしたのよ。自覚しなさい。あなたのおかげで、今まで肩身の狭い思いをしていた平民の生徒達は救われるかもしれないのよ。私からも言わせてちょうだい。良くやったわ、トーラス! 最高の試合だったわ。そして、感動したわ。皆もきっと、同じ気持ちよ」
皆は『うん。うん』と頷いている。
確かに、僕は今後一切、学園の平民の生徒が貴族から虐げられる事が無いように画策した。
でも最後はノアールお姉様にうまく締めてもらったし、皆、ノアールお姉様の考えた事だと思ってくれると思ったんだけどな。
やはり、僕の立場的に目立ちすぎるのも良くないだろうし。
少しやりすぎたかもしれない。
「ありがとう。それで、僕、目当てのお姉様方って何?」
「言葉通りの意味よ。あなたは知らないと思うけど、あなたの完璧すぎる顔は全校生徒の女子生徒の間で噂になっていたのよ。元々、生徒会に入った事で更に評価が上がっていたのに、あれだけの強さまで持っている完全無欠の王子様なのだという事を大観衆の前で証明してしまったのよ。これから恐ろしい目に合うわよ。自業自得ね」
アンジェリカは呆れた顔をしていた。
他の3人を見ても苦笑いしていた。
僕は自分の想像以上にとんでもない事をしてしまったみたいだ。
悪い事をしたわけではないし、良しとしよう。
この日の出来事により、武術大会終了後、『トーラス君を愛でる会』が上級生の女子生徒を中心に結成されたのだった。




