正体を明かす時
先輩は担架で運ばれていった。
僕も観客席に戻ろうとした。
「トーラス、お前、普段の俺の授業、手を抜いてるな!」
ガイウス先生だった。
「そんな訳ないじゃないですか。今日の試合は負けられない闘いでしたから、いつも以上の力が出ただけですよ」
ガイウス先生は『本当か!』と僕を見てきた。
僕がそわそわしていると、『わかった。そういう事にしといてやる。引き留めて悪かったな。観客席に帰っていいぞ!』と言われた。
僕はガイウス先生に一言、言ってリングを後にした。
裏に下がると、そこにはリディアナがいた。
「お疲れ様。かっこよかったよ」
「ありがとう。借りは返したよ」
リディアナから労いの言葉をもらった。でもなんだかいつものリディアナとは雰囲気が違う。何か言いたそうだ。
「どうしたのリディアナ。何か言いたそうだね」
僕の言葉にリディアナの体はびくっとなり、こちらを見つめて悩んだ顔をしていた。
少ししてからリディアナは何かを決めたかのような顔をして、僕に言った。
「トーラスは第三王子様なの?」
リディアナから思わぬ言葉が出た。
僕は動揺が隠しきれない。
どうして、リディアナは知っているんだ。
頭の中に様々な事が巡った。
認めるべきか認めないべきか。
出来れば、リディアナには嘘をつきたくない。
僕がそんな事を思っていると、最悪な人物が現れた。
「リディアナさん、トーラス君、面白い話をしてるわね」
そこにいたのはノアールお姉様だった。
一番、聞かれたらまずい人だろう。
僕は王宮でノアールお姉様と会った事はない。
だからノアールお姉様も僕が第三王子だと知らないはずだ。
「ノアールお姉様、どうしたんですか?」
「あら。トーラス君のこんなに動揺した姿なんて貴重ね。まぁ立ち話もなんだから部屋に行って話さないかしら」
僕は渋々、了承して三人で部屋に向かった。
部屋につくと、ノアールお姉様が単刀直入に聞いてきた。
「リディアナさんはトーラス君にトーラス君は第三王子なの? って聞いていたけど、それはなぜかしら?」
やはり聞かれていた。
絶体絶命だ。
「第一王女様であるノアールお姉様はご存知かもしれませんが、私の母、マアサは1年間、第三王子様の専属侍女の任に付いておりました」
「えぇ、その事なら知ってるわよ」
「私は父や母から王宮で第三王子が置かれている状況を小さい頃に聞きました。そして、王宮から帰って来た母から第三王子様はお元気になったと聞かされてとても嬉しかったんです。でも母は第三王子様については、名前や容姿、性格など詳しい事は教えてくれませんでした。ただ、私と同じ年だから学園で出会えると」
ここにも第三王子である僕の事を心配してくれた人がいた。僕はとても嬉しかった。
「しかし、学園に入学しても、第三王子には会えませんでした。最初はもしかしたら、入学していないのかもしれないと思いました。でも、もしかしたら身分を変えて通ってるかもしれないとある時に思いました」
「それはいつかしら?」
「トーラスに出会った時です」
僕と始めて出会った時?
「トーラスを初めて見た時、私は思いました。王子様がいるって! その時、王子様は身分を変えて学園に通ってるのではないのかとふと、思いました。もちろん、最初はトーラスが第三王子様だとは考えていませんでした。しかし、トーラスと友達になって、学園生活を送って、トーラスを近くで見続けて思うようになりました。トーラスが第三王子であればいいのにと」
リディアナの言葉を聞いて、僕の心は決まった。
正体を明かそう。父や宰相から何かあるかもしれないが、僕には黙るという選択肢は無くなった。
「なるほどね。理由はわかったわ。それでトーラス君、答えは?」
ノアールお姉様は微笑みながら僕に問うてきた。
「はい。リディアナのいう通りです。僕の本当の身分は第三王子です」
僕がそう言うと、リディアナの目から涙がこぼれていた。
「やっぱりトーラスだったのね。やっと出会えた!」
リディアナはそう言うと、僕に抱きついてきた。
少し恥ずかしかったけど、僕もリディアナを抱きしめた。
「ありがとうリディアナ。僕の事を探してくれて。そして心配してくれて! 本当に僕は君達親子には顔が上がらないよ。マアサには本当によくしてもらったんだ。僕の恩人なんだ。だから、最初にリディアナがマアサの娘だと聞いて本当に嬉しかったんだ」
僕はこの瞬間、今まで理解していなかったリディアナへの気持ちを理解した。
僕はリディアナに恋をしているんだ。
ついに、リディアナにトーラスが第三王子だとバレました。そしてノアール王女にも。
そして、トーラスはリディアナへの恋心に気づきました。
ジャンルを異世界恋愛にしているのに、これまでほとんど、恋愛要素がありませんでした。
これからは頑張ります。




