模範になるべき存在
僕はノアールお姉様に1つ頼んだことがある。
それは僕たちが試合を行う時、他の試合は行わない事だ。
つまり、全ての観客が僕らの試合を注視するようにしてもらったのだ。
この試合は特別だ。
勝ち負けで先輩の処分も決まるし、何より、先輩のような考え方を持っている貴族の生徒は少なからず存在するのだ。
ロイスと先輩の試合は生徒の間でいろんな意見が飛び交っている。
先輩はいくらなんでもやりすぎだという意見。
平民が貴族に逆らったから当然だという意見など様々だ。
試合前までにこの試合で先輩の処分の沙汰が決まるかもしれないという噂を流して貰った。
もし、先輩が勝てば、今回の件は不問となる。つまり、貴族が平民を痛め付ける行為を生徒会が認めたという事になってしまう。
逆に僕が勝てば、先輩は生徒会に裁かれ、何らかの処分が下るだろう。
先輩のような考え方を持った人もこれからは易々と行動は起こせないはずだ。
僕は決して許す事が出来ない。
貴族であるから何をやっても許されるなんて事があってはならない。
その先頭に立つのが第一王子なのだからたまったものではない。
あの義兄の言動はひどい。王族の身分を笠にきて、やりたい放題。
生徒会に入ってからたくさん見てきた。
だから、この試合で僕は先輩をもう一生、平民の事を蔑む事がないようにするつもりだ。
この大観衆に見せつけるんだ。
「それでは試合を始めます。今回は特例として、1試合のみ行います。まずは選手入場です」
アナウンスからノアールお姉様の声がした。
普段、ノアールお姉様がアナウンスする事はない。
「一学年、トーラス・ロンベスター君の入場です」
僕はリングに上がった。
すると、観客席から歓声が聞こえた。
「続いて、三学年、セベラス・トスティード君の入場です」
ノアールお姉様がそうアナウンスをすると、先輩はリングに上がってきた。
それと同時に観客席からブーイングと少しの歓声が起こる。
「皆さん落ち着いてください。私は生徒会長のノアールです。皆さん、もう噂を聞いてると、思いますが、この試合によってセベラス・トスティード君の処分が決まります」
ノアールお姉様がそう言うと、観客席からザワザワし始めた。
「これはとても異例な事です。しかし、一つだけお願いがあります。冷静に試合を見守ってください」
ノアールお姉様はアナウンスを終了した。
「では、両者、何か言うことはあるか?」
ガイウス先生の問いに僕は大声で観客にも聞こえるように言った。
「先輩、あなたはロイスをひどい目に合わせました。それはなぜですか?」
「今さら何を言い出すんだ。平民が貴族である俺様に歯向かったんだ。当然の報いだろ。なぁ皆もそう思うだろ」
先輩の言葉に一部の観客から『そうだ!』とか『平民が貴族に立て付くのが悪いんだ!』とかほざいていた。他の観客は静かに見守っていた。
「そうですか。僕はそうは思いません。なぜならば、国とは貴族だけでは成り立たないからです。平民の方たちが国を支えてくれているから国として成り立っているのです。もちろん貴族は身分的には平民の方たちより上です。しかし、それは、平民の方たちを蔑ろにしていい理由にはなりません。僕は貴族とは模範になるべき存在だと思います。国民の人々から敬われて憧れる存在、それこそ、貴族です。あなたの考えは間違っている」
僕は自分の気持ちを言った。観客席は少しざわついていた。
「元平民の分際で大層な事を言うな。お前がどんな考えを持とうがどうでもいい。俺が勝てば俺が正しいのだから」
僕の言葉は少しも届かなかった。
「ガイウス先生、すみません。試合を始めてください」
僕がそう言うと、ガイウス先生は先輩に確認を取り、先輩も頷いたので
「それでは試合を始める。始め!」
こうして、試合が始まった。
そして試合は一瞬で終了を迎える事になった。
試合開始早々、僕は全力で先輩の間合いに入り、剣を弾き飛ばし、先輩の腹に一撃拳で加えた。
先輩は声を上げ、膝から崩れ落ちた。
「そこまで、勝者トーラス・ロンベスター!」
この一瞬の出来事に観客席は静まりかえっていた。
先輩はいまだに腹を押さえて悶えている。
当然だ。この試合、手加減なしで臨んだ。
僕は先輩の回復を待った。
少ししてから先輩は何とか立ち上がり僕を睨み付ける。
まだそんな余裕があるんだな。
「痛いですか先輩? でもね、ロイスの痛みはそんなものじゃないんですよ。そしてあなたが今まで傷付けてきたたくさんの人達もね。あんなに啖呵をきったのに先輩、弱いですね」
僕は先輩を憐れみながら言った。
「ふざけるな! 少し油断していただけだ。次、やれば俺が勝つ。たまたま勝ったからっていい気になるなよ」
「ならもう一戦しますか? 僕なら大丈夫ですよ。ガイウス先生、いいですか?」
僕の言葉に再び観客席がざわついた。
「セベラス、もう一戦やるか?」
ガイウス先生は先輩に問うた。
先輩は『もちろんだ。』と言った。
「わかった。それでは両者、剣を持て。」
剣を持ち、両者、位置についた。
「始め!」
今回は試合早々に先輩が猛然と攻めてきた。
僕は軽く、先輩の剣を受け流す。
先輩の剣はとても鈍かった。多分、僕の一撃が回復しきってないのだろう。
僕は間合いを取り、持っている剣を投げ捨てた。
「何のつもりだ!」
「今の先輩の力量だと、こちらも剣を持つと弱いものいじめみたいだなと思いまして」
先輩は僕の言葉に激昂して突進してきた。
本当に単純だなと呆れながら先輩を待ち構え、剣を避け、先輩の腕を取り、一本背負いの要領で投げた。
そして、先輩の剣を拾い、剣を突きつけて言った。
「先輩、降参しますか?」
その言葉に怯えた表情を浮かべた先輩は小さな声で「降参だ」と言った。
「試合終了! 勝者、トーラス・ロンベスター!」
ガイウス先生の言葉に観客席から歓声が上がった。続いてアナウンスが入った。
「試合が終了しました。それにより、セベラス・トスティード君には相応の処分を下します。皆さん、この試合を見てどう思いましたか? 最初にトーラス・ロンベスター君が言った事、皆さん、どう思いましたか? 私は彼の意見に賛成です。セベラス・トスティード君が一回戦で行った行為は決して許される事ではありません。貴族の皆さんは貴族の誇りを持ってより良い人間になるように努力してください。平民の皆さん、中には愚かな貴族もいるでしょう。でもトーラス君のような貴族もたくさんいます。だから、あまり気を使わずに学園生活を楽しんでください。以上、これからも闘いは続きます。皆さん、正々堂々、おのれの力を出し切って試合を行うことを切に願います」
ノアールお姉様の言葉に今日一番の歓声と拍手が沸き起こった。
なんだか全部、持っていかれちゃったなと思ったけど、全てうまく纏まって僕は安堵した。




