胸の奥がモヤモヤする(リディアナ視点)
リディアナ視点です。
私の名前はリディアナ・アシュレー。
アシュレー伯爵家の長女として生まれました。
小さい頃から両親や兄にとても大切にされて育ちました。
しかし私が10歳を迎えた時、お母様が王宮に行くから1年間会えなくなると言ったのです。
当然私は寂しくて行かないでと言いました。しかし、お母様は王宮でやらなければならない事があると言いました。お母様でないと出来ないことがあると。
私は尋ねました。それは何なのか。
すると、お母様は真剣な顔で私に言いました。
「王宮に助けなければいけない子がいるの。私にしか出来ないの。私もリディアナに会えないのはもちろん寂しいわ。でもわかってほしいの。お願いよリディアナ」
お母様の思いはとてもすごく私は否定することが出来なかった。
そしてお母様は王宮へ行ってしまった。
最初は私は寂しくて寂しくて仕方がなかった。しかし次第にお母様が王宮に誰を救いに行ったのか気になった。
なので、私はお父様に聞いてみることにした。
「お父様、お母様は王宮に誰のために行ったの?」
「王子殿下の所に行ったんだよ」
私は意味がわからなかった。私も第一王子クライブ様、第二王子メルクリオ様には子供が集まる茶会などで会ったことがあるけど、お二人共、妃様にとても愛されているようだった。
「第一王子も第二王子にもお母様は必要ないわ。お二人にはちゃんといるでしょ。それなのにどうしてなの?」
私はもう訳がわからなくなっていた。
「もちろんそのお二人にはマアサは必要ではないよ。リディアナは知らないのは当然なんだけど、王家にはもう一人王子様がいるんだよ」
私はえっ! と思った。だって聞いた事がないもん。
「じゃあその王子様の所にお母様は行ったの?」
「そうだよ。リディアナには難しい話になるけどその王子様は王宮で居ないような扱いを受けているんだ。誰からも相手にされない一人ぼっちの生活を送っているんだ。年はリディアナと同じだよ」
お父様の話を聞いて私はとても悲しくなった。
私と同じ年の男の子が大きい王宮で一人ぼっちだなんて。
「だからマアサは助けに行ったんだよ。その王子様の母親である三妃はマアサの親友でね。ほっとけなかったんだよ。だからリディアナ、お母さんを責めないで上げて」
私はお父様からお母様が王宮に行った理由を聞いてから泣かなくなった。
私は誓った。お母様が帰ってくるその時まで良い子で待とうって。お母様がびっくりするくらいいろんな事を出来るようになっておこうって思った。
お母様からは頻繁に手紙が送られてきた。
いろんな事が書いてあったけど決まって最後は王子様の事だった。素晴らしいお方だからリディアナはきっと気に入るわとか王子様に負けないようにリディアナも勉強頑張ってねとか少しお母様が王子様、王子様で少し悔しかった。でも私は手紙を見るたびにその王子様の事を考えるようになっていた。
こうして期限の1年が過ぎてお母様は家に帰って来た。
私はお母様が帰って来た事は本当に嬉しかったけど私は手紙の中の王子様のことも気になっていた。
「お母様、王子様はもう大丈夫なの? 一人ぼっちじゃない?」
母は微笑みながら私を抱き締めながら言ってくれた。
「もう大丈夫よ。お元気になられたわ。とても素晴らしい方よ。リディアナとは同じ年だからきっと学園で会えるわ。そこであなたの目で見て判断しなさい」
お母様は王子様の事を詳しく教えてくれなかった。名前もどんな容姿かも。教えてくれたのはただ一つ、『素晴らしい方』という言葉だけだった。
でもきっと会えるわ。予感がするの。
私はその日から学園に入る日を待ち遠しく感じていた。
そしてついに学園に入学する時がやってきた。
学園に到着すると寮に向かい荷物を置いて私はクラス決めのテストを受けるため教室に向かった。
教室には顔見知りもたくさん居てとても安心した。
席に着き回りを見渡すと後ろの席に王子様を発見した。
髪は金髪で瞳はエメラルドのような碧。まさに今女の子の間で流行っている恋愛小説に出てきそうな王子様がそこにいた。
同世代でこんなに整った容姿の子は見たことがなかった。更に回りを見ると皆の視線は彼に釘付けだった。
女の子は皆、見惚れていたし、男の子は嫉妬の眼差しで見ていた。
そんな状況の中心人物である男の子はその視線に気付いていないようだった。
私は彼に話しかけてみる事にした。
話し掛けてみると地方から出て知り合いもいないから話し掛けてくれて嬉しいと言われた。その時の笑顔は破壊力抜群ですごかった。
それからいろいろ話をして名前はトーラスであること。子爵家の子息であることなどを聞いた。あまり子供っぽさがなく真面目で優しい男の子だった。
クラスも同じになった。トーラスは自分が絶世の美男子である自覚がないようでクラスの女の子を無自覚に陥落させていった。
それからたくさんの事があった。気づけばトーラスはいつも私の中心にいた。イザベルの時もそうだった。イザベルは公爵令嬢ということもあり昔からすごく我が儘な子だった。いつも私に敵対心を向けてきて面倒だった。
だけどその反面気づいていたんだ。イザベルの苦悩を。私は見て見ぬふりをしていた。しかしトーラスの後押しもあり、仲良くなることが出来た。
その後もアレックスやカルロスの事。トーラスは本当に人の気持ちがわかる人だ。二人の心を溶かしていった。時々、ブラック状態になるけどね。
最近私はトーラスを見ると胸の奥がモヤモヤする。一緒に町に出掛けた時も馬車乗り場で上級生に絡まれかばってくれた時も。この気持ちは一体、何だろうか?
私は不覚にもあんなに会いたかった第三王子の事を忘れてもう一人の王子様に夢中になっていた。
長期休みに入り、皆と離れるのは寂しかったけどお母様とお父様に会えるのはとても嬉しかった。
家に着くとお母様が出迎えてくれた。
「リディアナお帰りなさい。学園は楽しい? 友達はたくさん出来たかしら?」
「ただいま戻りました。学園はお母様のいう通りとても楽しいわ。友達もたくさん出来たわ。特にトーラスって子いるんだけどね、見た目が完全に王子様でね。性格も良くて頭も良くて運動も出来てまさに完全無欠の王子様なの」
お母様は私の言葉に意味深な笑みを浮かべた。
「リディアナはトーラス君が本当に好きなのね」
「大好きよ。トーラスは人の痛みをわかる人なの。すごく尊敬できるしトーラスのようになりたいと思うわ。最近はトーラスを見ると胸の奥がモヤモヤするのよ。お母様、なぜだかわかる?」
私の言葉にお母様はクスクス笑いながら言った。
「リディアナ、そのモヤモヤの理由はいつかわかる時がくるわ。その時にあなたがどうするか私は今からワクワクしているわ。さぁ疲れたでしょ。家に入りましょう」
私は少し府に落ちない気持ちではあったけど家の中に向かった。
なんだか今、無性にトーラスの顔が見たくなっちゃったわ。




