僕の帰る場所
僕らは次の町に向かうために馬車に乗り、町の入り口に向かった。
すると、そこにはたくさんの人々が待ち構えていた。僕は人々に馬車の中から別れの挨拶をした。
「リムロスの皆さん、短い間でしたがお世話になりました。またお会いすることがありましたらよろしくお願いします」
「セバス様からお聞きしました!この町はトーラス様のおかげで救われました。この御恩はリムロスの町民一同決して忘れません。我々はより一層、努力してこの町を素晴らしい町に出来るようにがんばります。また遊びにいらしてください。本当にありがとうございました!」
カイルさんがそう言うとそこに駆けつけていた人々は皆、頭を下げ『トーラス様、ありがとうございました!』と言ってくれた。
僕は皆に手を振り『またいつか必ず来ます!』と言って、そのまま馬車はリムロスの町を後にした。僕の心の中はとても暖かいもので満たされていた。
「トーラス、あなたのしたことは本当に素晴らしい事です。だからこそ今の気持ちを忘れないでください。その気持ちを忘れなければあなたは素晴らしい大人になれますよ」
エマお母様の言葉に僕は『わかりました』と答えた。
その後の視察も沢山の村や町を回った。
たくさんの人々と出会い、たくさんの場所を訪れた。ワイン畑も村によって様々で一つ一つに生産者の人たちの思いを感じられた。僕の年齢ではまだお酒が飲めないからブドウジュースを飲んだけど本当に美味しかった。皆、特産品であるワインを誇りに思っており、視察に訪れたセバスお父様、エマお母様といろんな事を話されていた。セバスお父様はこの子爵領の長として領民の人からとても信頼されていた。僕は領地運営で大切な事を今回の視察でたくさん学ぶ事が出来たと思う。
こうして僕らの領内視察は全日程を終了して子爵邸に戻ってきた。
その日の夜、僕はセバスお父様に執務室に呼ばれた。
「トーラスです。入ります」
僕はノックをして中に入った。
「呼び出してすまない。今回の視察では迷惑をかけてしまったからね。どうだったか聞こうと思って呼んだんだ」
僕は執務室のソファーに座った。
「すごく楽しかったです。とても勉強になりました。セバスお父様の領民との交流の仕方。特産品であるワインの品質管理や流通の仕方などとても興味深くてあっという間の時間でした」
「そうか。それならよかったよ。私は少し不安だったのだよ。第三王子であるトーラスを預かる身として私は模範となることが出来るのかと。マークウェル公爵閣下から頼まれた事だったけど私はトーラスに出会わせていただいた事にとても感謝しているよ」
セバスお父様の言葉に僕は今まで疑問に思っていた事を聞いてみた。
「セバスお父様はなぜ、宰相の頼みを聞き入れ僕を子爵家に招き入れてくれたのですか? 僕の置かれている立場はご存知ですのに?」
セバスお父様は席を立ち僕の正面のソファーに腰かけ話始めた。
「実は私がこのロンベスター子爵家当主になったのは15年前の事なんだよ。私はそれまでマークウェル家で執事をしていたんだ。そもそもロンベスター子爵領は元々マークウェル公爵家の領土だったんだよ。マークウェル公爵家は昔からたくさんの功績を上げたくさんの爵位を国から賜っておられる。ロンベスター子爵はその一つだ。この国は複数持つ爵位を自分の子供以外にも継承する事が出きるんだ。昔から公爵家の方々は自分の信頼する者に領土を託されてきたんだ。もちろん、審査は厳しく生半可な人間では無理だ。爵位を継承するということは、貴族になるということだからね。公爵家から爵位を継承した人達は皆、とても良く各々の領土を運営していたんだ。しかし15年前1つの領地がとても荒れているという情報が公爵様の耳に入ったんだ。調べてみるとその者は不当に税を上げ、領民からお金をむしり取り散財を繰り返していた事がわかったんだ。もちろん、その領主は公爵様が対処して追放した。その領地こそがこのロンベスター子爵領なんだ。公爵様はずっと自分を責めていらした。どうしようもない人間を任命した事に。公爵様はその後、ロンベスター子爵領を自分で運営されるか人に任せるか迷われていたそうだ。その時、公爵様のお役に立ちかった私は、私に任せていただけませんか? と言いました。公爵様は私を信頼してくださり私はロンベスター子爵となりました。私は荒れていた領内を懸命に立て直しました。そんなある日、私は公爵様に呼ばれました。お前に託してよかったよ。と言っていただいた。その言葉だけで私は本当によかったと思ったよ。そして今回、公爵様からお話があった時、私に迷いはありませんでした」
セバスお父様の言葉一つ一つに宰相を尊敬しているというのが伝わってきた。
「セバスお父様は本当に宰相の事を尊敬なさっているのですね」
「心の底から尊敬しているよ。私は執事としてずっと側で公爵様を見ていたからね。あと、最後に第三王子であるトーラス様に言わせてください。あなたは素晴らしいお方です。まだ短い間しか一緒にいませんが私はそう思います。これからもたくさんの出来事があなたには訪れると思います。楽しい事ばかりではないでしょう。しかし今の気持ちを忘れなければ必ず乗り越える事が出来ると思います。リムロスの町を救ったようにトーラス様には誰かを救える人間になってほしいと思います」
僕は言葉を胸に刻んだ。
それから毎日、様々な事を学び、様々な事を行った。あっという間に時は流れ学園に戻る日となった。
屋敷の前で僕は別れの挨拶をした。
「セバスお父様、エマお母様、お世話になりました。本当に充実した毎日で楽しかったです。体に気をつけてください。また来年会いにきてもいいですか?」
僕がそう言うと二人は僕を引き寄せ抱き締めてくれた。
「当たり前じゃない。あなたは私たちの息子なのだから。この家はもうあなたの家なのですから。体に気をつけてね。いってらっしゃい! トーラス」
「たまには手紙を書いておくれ。学園生活を楽しんでおいで。いってらっしゃい! トーラス」
二人の言葉に僕は『いってきます!』と言い馬車に乗り屋敷をあとして学園に向かった。
次はリディアナ視点になります。




