念願の料理
あれから屋敷での生活にも慣れてのんびりとした生活を送っている。
そして、最近では僕は調理場に入り浸っていた。
「こんにちは。今日もよろしくね」
僕は調理場の二人に挨拶をした。
一人目は料理長のサムだ。年は40代前半で若い頃から料理一筋の料理人だ。料理の腕前は高く、毎日美味しい料理を食べられて幸せだ。
もう一人はサムの弟子のゲイルだ。年は10代後半の青年だ。子爵領にある、とある村の出身で料理人になりたくてはるばる屋敷まで弟子入りを志願しにくるほどにやる気に満ち溢れた人だ。
僕がなぜ調理場に入り浸るようになったかというと、前世で大好きだった料理を再現してもらおうと思ったからだ。その料理とは『トンカツ』だ。
トンカツくらいどこにでもあるだろといわれるかもしれないが、なぜかこの国には無いのだ。
肉の調理は焼く、炒める、煮る、蒸すものが多く揚げる場合も粉をまぶして揚げるものしかない。パン粉をまぶして揚げる料理がなぜか無い。いろんな人に聞いたり、書庫で料理の本を見てもやはり存在しないみたいだった。
僕は前世で体調が良いときに母が作ってくれるトンカツが本当に大好物だった。入院する事が多くなってからは全然食べられなかった。
だから健康な今世ではたくさん食べたいと思っていたのにまさかの存在しない料理だった。
王宮では無理を言える立場では無かったし、学園でも同じだった。
だから今回、この屋敷に来て使用人の人達と仲良くなったのを機に悲願を達成するために二人に協力をしてもらうことになった。
「トーラス坊っちゃん、昨日言われた物は用意しときましたよ」
サムにはトンカツの材料を用意してもらった。
「坊っちゃんの考えられた料理はとても興味深いですねぇ。肉にパンをつけて揚げるっていうのは斬新ですね」
僕は料理に関しては素人だ。いかにうまく説明出来るかが勝負だ。
「パンを細かくして肉につけるんだけどパンを細かくするにはどうしたらいいかな?」
「固めのパンをすりおろしてはどうでしょうか師匠」
「いいアイディアじゃねぇか。それでいこう。パンはお前に任した。出来たら見せに来い」
ゲイルは『はい。わかりました!』と言い器具を取りに倉庫に走っていった。
「坊っちゃん、次は何をしますか?」
サムの言葉に作り方を頭の中で整理した。
「次は豚肉を分厚く切って筋を切ってから塩とコショウをして粉をまぶしてください」
僕は知識のみで言っているが、さすがに熟練の料理人。すぐに理解して言ってる通りにしてくれた。
「出来ましたよ。次はどうしますか?」
「あとはボウルに卵を溶いてそこにくぐらせてパンを細かくしたものを回りにつけたら準備完了です」
僕がそう言うと、丁度パン粉が出来上がったみたいでゲイルがパン粉を持って戻ってきた。
「坊っちゃん、出来ましたよ。これくらいでよろしいですか?」
ゲイルが持ってきたのはまさしくパン粉そのものでとても良い出来映えだった。
「はい。完璧です。ありがとうゲイル.あとはこれを肉につけて油で揚げるだけです」
そう言うと、サムは油を準備して揚げ始めた。
「中に火がとおって色がついたら完成です」
そしてついにトンカツが完成した。
僕の目の前にはまさしくトンカツがそこにはあった。
「二人とも試食しましょう! カットお願いします」
サムにカットしてもらい、僕は念願のトンカツを口に運んだ。
あまりの美味しさに涙が出そうになった。まさにトンカツそのものだった。
「完璧ですよ。美味しいです。お二人はどうですか?」
「坊っちゃん、これはいけますね。外はサクッと中からは肉汁が口に広がって素晴らしい料理です。いろんなアレンジができそうですね」
サムは熟練の料理人らしくもうアレンジする事を考えている。
「本当に美味しいです。坊っちゃん、すごいです。こんな料理を考えつくなんて尊敬します」
ゲイルから尊敬の眼差しを受けて少し恥ずかしかった。
「出来ればセバスお父様とエマお母様にも食べて頂きたいので夕食に出してもらってもいいですか?」
僕の言葉に『かしこまりました。きっとお喜びになりますよ』とサムは言った。その後も、ソース作りをしたりアレンジしたりした。
夕食は予定通り、トンカツを出してもらい二人もとても気に入ってくれて誉めてくれた。
やっと今世で念願のトンカツを食べられた一日はこうして幕を閉じた。




