変わろうとする意志
あれからたくさんの時が流れ、長期休暇まであと一ヶ月に迫っていた。
長期休暇の期間は一ヶ月半と長く皆、その期間は実家に戻り学園は閉鎖される。
なぜそんなに長いかというと、国の端っこから学園にきている生徒のためらしい。昔、学園の休みは20日間の休みを二回取っていたらしい。しかし生徒の中には馬車で片道7日間かかる生徒が居たそうで往復14日間になり家に滞在するのが6日間しかいれないという事態に陥ったらしい。そのこともあり、学園は2つの休みを合わせる事にしたそうた。
そして、長期休暇の前の僕らの最大のイベントは前期学力テストである。この学園は長期休暇を挟んで前期、後期に別れており毎年各期末に学力テストが行われる。このテストはとても重要で成績上位者は貼り出されるし、次の学年のクラス分けにも影響を与える。上位者にはよい就職先を探すには成績上位が必須になっている。その事からテスト前はすさまじい熱気が学園を覆っている。
そんな中、僕ら仲良し6人はテスト勉強に勤しんでいた。
「トーラス、ここ教えて欲しいんだけど?」
アレックスが僕に聞いてきた。このように教え合いながら進行を進めている。
僕らは入学後の試験の結果によってAクラスになったが、もちろんその中でも学力には差が出てくる。
この6人の中では僕、リディアナ、ロイスが成績上位、アンジェリカが中位、そしてアレックスとイザベルが下位にいる。なので専ら僕らはこの二人を中心に勉強を教えている。
試験の結果次第では来年クラスが分かれてしまう可能性があるからだ。せっかく仲良くなったのにそれは絶対に嫌だった。だから僕らは懸命に頑張った。そして本番がやってきた。
教科は前世の世界でいう算数、国語、歴史などである。学年が上がるごとに専門的な分野が増えていく。
そして試験も終わり、みんなで集まった。
「アレックス、イザベル、二人ともどうだった? 手応えはあった?」
「今までのテストの中で一番手応えがあったぜ!」
「わたくしもですわ。自信がありますわ!」
どうやら二人とも大丈夫そうである。
他の3人は元々心配していなかったので深く聞かなかった。その後、採点が終わり結果が貼り出される日になった。僕らは皆で見に行くことになった。
そこに着くと、たくさんの人で溢れ返っていた。僕らも前に行ってみると、アレックスとイザベルが口を開いた。
「俺が15位なんて夢か? 夢なのか?」
現実を受け止められないみたいだ。
「私は13位ですわ。さすが私、やれば出来る子ですわ」
自画自賛していた。
その後もアンジェリカは10位、リディアナは5位、ロイスは3位だった。僕も順位を見てみると1位だった。しかも全教科満点だった。
「トーラス,あなたには弱点はないのかしら?」
リディアナは呆れた声で言ってきた。
「本当に完全無欠の王子様ねトーラスは」
アンジェリカは僕をからかうようなに言ってきた。
「さすがトーラスだね。次は負けないよ!」
ロイスは本当にいい友達だ。
後の二人はなぜか無言だった。
そんなことをしていると、僕はある視線に気付き視線の方を見てみると、一人の少年が僕を睨んでいた。彼はカルロスだった。
すると、彼は僕に近づいてきた。
「トーラス君、放課後少し話があるんだけど、時間あるかな?」
彼の言葉に内心ガッツポーズしていた。実は前、リディアナと買い物した時、友達になりたいと言ったのは他ではない彼の事だった。
彼の家名はオズ先生と一緒のマークウェルだ。ずっと話したいと思っていたが、うまく切っ掛けが作れなかった。だからこれは千載一遇のチャンスだ。
「空いてるよカルロス君。放課後教室でいいかな?」
僕の言葉に肯定して、彼はその場を去っていった。
その後、リディアナが近づいてきて頑張ってと声を掛けてくれた。やはりリディアナは気付いてるようだった。
放課後になり、クラスに誰も居なくなるのを待った。すると彼が席を立ち僕の元にやってきた
「僕は君にずっと聞きたいことがあったんだ。君はオズワルド・マークウェルという人を知っているかい?」
「もちろん知っているよ。僕の勉強の師匠ですから。そういえば、あなたは先生と同じ家名ですよね。どういった関係かお聞きしてもよろしいですか?」
僕の問いに険しい顔を見せたがすぐに口を開いた。
「僕はオズワルド父様の息子ですよ。但し実の息子ではないですけどね。オズワルド父様はずっと未婚です。しかもこれからも結婚する気はないと父君の現公爵閣下におっしゃったそうで心配した閣下が結婚しないなら分家の優秀な子供を養子に取れとおっしゃったそうです。その結果、僕は養子になりました。しかし、養子になった僕ですが、オズワルド父様は僕に一切、興味を示さず仕事漬けの毎日でした。しかし僕の学園入学が迫ったある日、言われたのです」
「カルロスは確かもうすぐ学園入学だったな。同じ年に俺の弟子が入学するんだ。名前はトーラスと言うんだ。お前が在学中に一度でも奴に勝てればお前を認めてやる。どうだ、この勝負受けるか?」
「僕はオズワルド父様に僕を見てもらえる機会が出来たと思って本当に嬉しかったんだ。だから学園で君を絶対に倒すと決めていた。しかし今回の学力テストの結果を見て愕然とした」
オズ先生は酷なことをするなぁと思ったが、あの人は嫌がらせでこんな事をする人じゃない。何か意図があるんだろう。
「じゃあ君はもう諦めたのかい? 今日は全面降伏でもしに来た訳なの? 仮にもオズ先生の息子である君がこんなに諦めが早いなんて知ったらショックだろうね。一つ教えてあげるよ。オズ先生はどうでもいいと思っている人間には何も言わないんだよ」
僕の言葉にとても驚いていた。
「僕と君の差はなんだと思う?」
「そんなの頭の良し悪しに決まってるだろ。それ以外に何があるって言うんだ」
「あるよ。君と僕との決定的な差がね。それは仲間だよ」
カルロスは不思議そうな顔をしていた。
「君はこの学園に入ってから一人で勉強していただろう。人間、一人でやるのにも限界があるんだよ。僕は勉強するとき、一人で勉強したり、時には友達たちと勉強した。一人の時では気づけなかったミスをたくさん指摘してもらったよ。わかったかい? 君はミスを誰からも指摘してもらってないんだよ。完璧な人間なんてこの世界には存在しないんだよ。皆、誰かの助けを得て完璧な人間になる事が出来るんだよ。これが僕と君の決定的な差だよ」
カルロスは僕の言葉に悩んでいた。
「ならどうしたらいいと言うんだ。僕は一人だ。ずっと一人だった。一人で勉強してきた。しかしそれでは君に勝てない」
彼の問いの答は簡単だ。
「なら友達を作ればいいじゃないか?」
僕の答えに絶望感を感じているようだった。
「今さらどこの誰が僕の友達になってくれるというんだい君は?」
僕は最後の言葉を彼にかけた。
「目の前にいるじゃないか。僕は君がオズ先生の関係者と知ってからずっと君を見ていたよ。一人でずっと勉強している君を。孤独と戦う君を。僕も昔は一人だった。だけど沢山の人と出会い、その人たちのおかげで僕は変われる事が出来たんだ。君も変わろうよ。君にその意志があれば必ず変わることが出来るよ。僕が保証するよ」
僕の思いは全て伝えたあとは彼次第だ。
僕は彼の目の前に手を差し出した。
「こんな僕でも変われるかな? そしていつかオズワルド父様に認められる人間になれるかな?」
僕は無言で頷いた。
「ありがとうトーラス君。僕も君の友達としてこれから沢山頑張るよ」
そう言うと、カルロスは僕の手をがっしり掴んでいた。
その後、部屋から出ると皆がいた。
「話はついたようね。カルロス、私達も今日から友達よ。もちろん異論は認めません」
リディアナの言葉にびっくりしていたが、今日一番の笑顔でよろしくお願いしますと言った。
他のみんなも各自カルロスによろしくと言っていた。これで彼はもう大丈夫だ。だってもう一人じゃないんだからどこまでも羽ばたいていける。




