薔薇の都
更新が遅くなって申し訳ないです。その分少し長めのつもりです。多分。
ローゼンフェルト伯爵邸滞在二日目も僕らはリシュリーさんによるダンスレッスン、マナーレッスンを受けていた。
「はい。ロイスさんステップが雑になっていますよ!」
「はい!」
「アンジェリカは顔が死んでますよ」
「はぁい」
「リディアナさん、トーラスさんもっとお互いを見つめあって! ダンスは心の会話ですよ」
「「はい」」
「カルロスさんはいい感じになってきましたね。リーベル少しテンポを上げなさい」
「かしこまりました。奥様」
「アレックスさん、イザベルさんはまだ動きが硬いですね。特にイザベルさん恥ずかしさを捨ててもっとアレックスさんに身も心も預けるように」
「身も心も……」
「はい。ストップ。いいでしょう。本日はここまでに致しましょう。体が疲れていると思いますからゆっくり湯船に使って疲れを取ってください。お風呂の後にマッサージも手配しておきますから必ず受けてください。それでは私は失礼しますね」
ふぅー。今日も結構ハードだった。でも確実に上達している感じはある。リシュリーさんの指導は丁寧で本当に分かりやすい。
「あぁもう! 嫌! 疲れた。何で二日連続でレッスンなのよ。街に出て遊びたいわ。このままじゃ明日明後日もレッスンよ。皆はいいの?」
アンジェリカはもう限界のようだ。実際僕は明日明後日もレッスンで全然問題はない。でも街を見てみたいという気持ちもかなりある。こればかりはリシュリーさんの心次第なんだよなぁ。
皆も返答に困っているようだ。そんな時、扉が開き、男性が部屋に入ってきた。
「やっぱり相当ストレスが溜まっているようだねアンジェ」
「お父様! いつ帰られたんですか?」
「ついさっきだよ。可愛いアンジェに会いにとその友人達に挨拶をと思ってね。皆さんはじめましてナイジェル・ローゼンフェルトです。愛娘のアンジェと親しくしてくれて嬉しいよ。アンジェリカは愛する妻に似て素直じゃないところもあるけど凄くいい子だからこれからも仲良くしてくれると嬉しいよ」
「一言余計ですお父様」
「むっとした顔も可愛いね」
「もう! 恥ずかしいから挨拶がすんだんだからあっちに行ってよ!」
「口調が素のアンジェに戻ったね。僕の前で気を使わなくていいと言っているだろう。それよりいいの? 私しかこの状況をどうにか出来るとは思えないけどなぁ。部屋を出ていっていいのかい? もしお願いがあるならわかってるよね?」
ナイジェルさんの言葉にアンジェリカは悔しさを圧し殺したような表情を見せる。
「今度王都でデートしてあげるからお母様を何とかして!」
アンジェリカの叫びがダンスホールに響き渡った。
「そうかそうか。そんなにお父さんとデートしたいのかい。わかったよ。ディナーは王都で一番美味しいお店を予約するよ。また王都に戻って予定が決まったら連絡するよ」
ナイジェルさんはニヤニヤが止まらないみたいで顔を手で覆いながら言っていた。相当嬉しいみたいだ。
「わかったから絶対にお母様を何とかしてよね」
「あぁもちろんだよ。ちゃんとリーを説得してみせるよ。でも多分明日一日作るのが限界だと思うよ。それでいいかな?」
「大丈夫。私もそれ以上は不可能だと思ってたから」
「わかったよ。頑張るよ。それにしても楽しみだなぁデート」
今のナイジェルさんの頭の中はアンジェリカとのデートの事でいっぱいのようだ。本当にナイジェルさんはリシュリーさん、アンジェリカを溺愛しているんだなぁ。
「ごめんなさい。変な茶番見せちゃって。お父様の親バカには本当に困っちゃうわ」
「……」
アンジェリカは恥ずかしさを隠すためわざとはっちゃけた感じで言ったが誰も反応できずこの場に静寂が流れる。
「もぉ! 何か言ってよ」
アンジェリカがそう言うと、皆から笑いが起きる。
「アンジェリカにも私の気持ちが少しは理解出来たんじゃありません? これからは人をおちょくるのは控えた方がいいと思いますわよ。じゃないとこういうしっぺ返しをくらいますわよ」
「それは全く関係ないじゃない。私のイザベラ弄りは趣味なの。止めるなんて出来ないわ」
「趣味……」
「はいはい。アンジェも少しは反省しなさいという事よ。それにしても本当に変わらないわね。アンジェとナイジェルさんの関係。久しぶりにお会いしても全くお変わりないもの」
「リディアナちゃん久しぶりだね。また一段と可愛くなったね。次はアシュレー伯爵領に行くんだよね。きっとラファエルも首を長くして待っているだろうね」
「そうでもないじゃないですか」
「そんな訳ないじゃかいか。ラファエルは王宮ではいつもリディアナちゃんの自慢ばかりしてくるんだよ。耳にタコができるくらいね」
「意外ですね」
「そうだね。ラファエルは恥ずかしがり屋だからね。あまり直接言いづらいんだろうね。でも本当にリディアナちゃんの事大好きだよ」
「はぁ~」
「そういえばロイス君はどの子かな?」
「僕ですが……」
「おお君かぁ」
ナイジェルさんはロイスに近づき顔をじっと見つめた。
「うん。合格。大変だと思うけど頑張れ。私は応援しているよ」
「はい。ありがとうございます」
きっと屋敷でロイスの事が噂になってナイジェルさんの耳にも届いたのだろう。
「それでは私は失礼するよ」
「ちゃんとお母様を説得してよね」
「わかっているよ。まかせといて」
その後僕らは各自部屋に戻り、入浴、マッサージを終え食堂に集合した。
「それでは夕食を始めます。本日もマナーを意識して食事を召し上がってください」
「こらこらリー。さっき約束したよね。今日の食事はマナーを意識せず楽しく食べようって」
「あなた、皆さんの前でその呼び方は止めてください」
「どうしてだい? 愛する妻を愛称で呼んで何か問題があるのかい。リーもいつもみたいにジェルと呼んでいいんだよ」
ナイジェルさんはそう言いながらリシュリーさんの腰に手を回しながらとても愛しそうに見つめていた。
「わかりました。今日は無礼講とまいりしょう。マナーなどは気にせずお好きに召し上がってください。会話も許します」
「だそうだよ皆さん。今日は楽しく夕食を楽しんでおくれ。でも勘違いしないでね。リーだって本当は自由にご飯を食べてほしいんだ。でも優しいから君達の未来のために心を鬼にして行っていたんだよ」
「もちろんです。僕は本当にリシュリーさんにマナーを教えていただいて感謝の気持ちしかありません。ねぇ皆」
ロイスの言葉にアンジェリカ以外が頷く。
「だそうだよリー。良かったね」
「それは何よりです。ロイスさんは覚えが早くとても教えがいがありますよ。これからも毎回意識しながら行うと意識せずとも正しいマナーを行う事が出来るようになると思いますので頑張ってください。わからない所があるならアンジェリカに聞きなさい。アンジェリカには小さい頃から教え込んでいますからね」
「ありがとうございます。アンジェリカもよろしくね」
「私で良ければ。嫌というほどお母様に詰め込まれましたもの。ホホホ」
「何か言いましたか」
「何もありませんわよお母様。それより他に何か言うことはありませんか?」
「反抗的な態度、少し癪に触りますがいいでしょう。次の学園に随行する侍女はあの子に変更する事にしましょう。それでアンジェリカも少しはましになるでしょう」
「あの子ってまさか……」
リシュリーさんの言葉にアンジェリカは物凄い動揺をみせる。
「アンジェリカの想像通りよ」
「イヤー! お願いだからジゼルだけは止めて! 反抗的な態度を取ってごめんなさいお母様。何でもするから。何でもするからジゼルだけは勘弁して」
「駄目です。私も甘やかしすぎました。ジゼルならアンジェリカを素晴らしい淑女に再教育してくれるでしょう」
「……」
アンジェリカは呆然と天井を見上げている。そんなにジゼルさんって人が嫌なのかな。
「リディアナ、ジゼルさんっていう人の事知ってる?」
「知ってるよ。昔からここに遊びにきた時とかも何回も会ってるよ。確かローゼンフェルト伯爵邸に仕える庭師の娘さんで小さい頃からアンジェリカの話相手とかをしていたそうなの。その時にリシュリーさんが彼女の才能を見抜いて自らありとあらゆる事を教育して立派な侍女に教育したの。まさにリシュリーさんの分身ね。教養、マナー、ダンス全て完璧らしいよ」
なるほど。アンジェリカにとっては学園でリシュリーさんの分身のような人が毎日近くにいてびしばし鍛えられる事になる。考えただけでも嫌なんだろうな。
「それはアンジェリカ、御愁傷様だね」
「間違いないね」
「それと明日の予定なのですが、ダンスレッスンの予定を中止して街の観光にあてたいと思います。明日は思う存分楽しんできてください。明後日の午前中は我が伯爵家が運営している薔薇園と薔薇の香水の製作現場を見学する事になりますのでそのつもりでいてください。午後はこれまでの二日間の成果を見る軽いテストを行いますので忘れないように」
こうして明日は街の観光。明後日の午前中は事業見学、午後はテストになった。観光と事業見学は凄く楽しみだなぁ。テストはダンスやマナーかな? 空き時間にリディアナを誘って少しだけ練習しようかなぁ。
その後は会話を楽しみつつマナーにも気を付けながら食事を楽しんだ。
次の日、街に出掛けるため僕らは玄関に集合した。
「よっし! 皆集まったわね。それじゃあ街にくり出すわよ。周る場所は私にまかせて! 街は庭も同然なの。ローゼンフォートの魅力を一日で堪能しまくるわよ!」
「「「「「「……」」」」」」
「返事は!」
「「「「「「はい!」」」」」」
アンジェリカは昨日の食事中、ジゼルさんの事があり、テンションがただ下がりだったけど、今日はそれが嘘のようにテンションマックスだ。吹っ切れたのかなぁ?
「それでアンジェリカ、最初はどこに行くんですの?」
「よくぞ聞いてくれたわイザベル。最初はローゼンフォートの中心街ローゼンセントラルストリートでショッピングタイムよ。沢山店を回って沢山買い物をしましょう。買い物でストレス解消しましょう!」
「別に俺はストレス溜まってないけどな」
「はい! アレックスは黙ってイザベルとショッピングしときなさい。何かペアのアクセサリーでも買えばいいんじゃない? きっとイザベルも喜ぶわよ。ねぇイザベル?」
「ペアルック……」
「イザベルは俺と同じアクセサリーなんて着けなくないよな?」
「ペアルック……恥ずかしい。でもいいなぁ」
「ほらイザベルもアレックスとお揃いが欲しいみたいよ」
「そうか。わかった。一緒に探そうぜ!」
「はい? はい。わかりましたわ」
アンジェリカの口車に乗り、二人はお揃いのペアルックのアクセサリーを買うことになった。少しアンジェリカに対して言いたいことはあるけど、結果的にグッジョブだからいいかな。
「アンジェリカ、この街の名産は何なの? やっぱり薔薇関係?」
「よくぞ聞いてくれたわトーラス。その通りよ。我が伯爵領はこの国一番の薔薇の生産地。様々な種類の薔薇を育てているわ。昨日お母様が言ったような薔薇の香水も有名だし、薔薇のジャムや薔薇水、薔薇茶など沢山生産しているわよ」
「そうなんだ。まさに薔薇の都だね」
「そうなの。薔薇は我が領の誇りよ。何でも初代ローゼンフェルト領主が花好きのセレスティーナ様に献上するために薔薇を作り始めたのが始まりだそうよ。その時から今まで毎年その年で一番の薔薇を王宮に献上しているの。だから毎年領内では品評会が行われ、献上する一本が選ばれるの。その名もキングオブローズ。かっこいいでしょ! 残念だわぁ。今年の品評会はまだ先なのよね。あっ! そういえばアナの所のコンテストってもうすぐじゃなかったっけ?」
「よく覚えてたわね。そうよ。丁度滞在中にかぶるから是非皆で見に行こうと思ってたんだ。お母様にも手紙で伝えてあるし」
「さすがアナ。出来る女」
「はいはいありがとうアンジェ」
「リディアナ、コンテストって何なの?」
「コンテストっていうのはねカルロス、アシュレー伯爵領領都フラワーベールで一年に一度行われる花のコンテストの事よ。ジルベスター王国全土から様々な種類の花が一同に介してナンバーワンを決めるの。凄く盛り上がるのよ」
「アナのアシュレー伯爵領もジルベスター王国随一の花の名産地なの。ここは薔薇に特化してるけど、アシュレー伯爵領は様々な種類を作っているの。でも私はアナの家のサクラが一番好きだわ」
桜? 今アンジェリカ桜って行ったよね。もしかしてこの世界にも桜ってあるのかなぁ。もしあるなら是非見たいなぁ。
「アンジェリカ、今桜って言った?」
「そうよトーラス。どうしたの? トーラスはサクラ知ってるの? かなり珍しくてアシュレー伯爵領でもフラワーベールの伯爵邸にしかないのよ。さすがトーラス博識ね」
「いや、僕の知ってる桜かどうかはわからない。そのサクラって大きな木に沢山のピンクの花びらの花を咲かせる植物だったりする?」
「そうよ。その通りよ。あの壮大さと華やかさは本当に感動ものなのよ。トーラスはどうして知ってるの?」
「王宮にある本で見かけて印象に残っていたんだ」
「なるほどね。納得」
「うちに着いたら我が家の自慢だから是非堪能してね」
「ありがとうリディアナ」
「よし! 楽しみも増えたし、買い物もより一層気合い入れていくわよ!」
こうして僕らは更に気合いが入ったアンジェリカに連れられ沢山の店を周り、ローゼンセントラルストリートを堪能したのだった。でもまだまだ時間はたっぷりある。次の場所が楽しみだ。




