偽物カップル?
「お母様お待たせいたしました」
「来ましたねアンジェリカ。それで決意は固まりましたか?」
「はいお母様。紹介します。今お付き合いをしているロイスです」
「先程はちゃんとした挨拶もせず申し訳ありません。改めましてアンジェリカさんとお付き合いさせていただいておりますロイスと申します。よろしくお願いいたします」
「そうですか。わかりました。では何個か二人に質問しても宜しいですか?」
「「はい」」
「よろしい。では先ずはロイスさんから質問いたします。宜しいですか?」
「はい」
「では最初の質問です。ロイスさんはどういうきっかけでアンジェリカの事が好きになったのですか?」
いきなり直球な質問だなぁ。大丈夫かなぁ。二人は偽装カップル? 上手くリシュリーさんを信じこませる事が出来るだろうか?
「少し恥ずかしいのですが一目惚れなんです。初めてアンジェリカを見た時、凄く明るくて元気な雰囲気があって可愛い女の子だなぁって思い目が離せませんでした」
「そうですか。ではアンジェリカはどうですか?」
「えっ!? はい。そうですね。はい」
アンジェリカの顔が真っ赤だ。いきなり一目惚れだって言われたら仕方ないよね。でもやっぱりロイスって……
「どうしたのですかそんなに動揺して。あなた達はお付き合いしているのではないのですか?」
「もちろんですお母様。一目惚れだったなんて聞いてなかったから少しびっくりしただけです。今度は私の番ですよね。私がロイスを好きになったのは武術大会の時です」
「武術大会ですか?」
「はい。ロイスはあまり武術が得意ではありません。でも平民であるロイスは武術大会出場が義務付けられていました。普通なら試合開始と同時に降参すればいいと考えますよね?」
「そうですね」
「でもロイスは出るからには一回でも勝ちたいってトーラスに武術指南を申し出てとても懸命に頑張っていたの。大会は惜しくも最低な相手にあたって負けてしまったけど、凄く格好よかったわ」
「負けたのに格好よかったのですか?」
「そうよ。懸命に戦う姿から目が離せなかったわ。でもその試合で相手のひどい行為によって大怪我を負わされてしまったの。その後、皆でお見舞いに行った時は気丈に振る舞っていたのだけど、その後に一人で病室を覗きに行った時、私見てしまったの。あと少しで勝てた。もっと努力していれば勝てたかもしれない。そう言いながら涙を流すロイスの姿を。私その姿を見るまではロイスの事をあまり異性として意識していなかったの。でもその瞬間からロイスも男の子なんだって意識するようになったの。そうして気付いたらロイスに惹かれるようになっていたの」
「見てたのアンジェリカ?」
「うん」
「そうなんだ。恥ずかしい所を見られたなぁ」
「恥ずかしくないよ! 人のせいにせずに自分の努力が足りなかっただけだって思えるロイスを凄いって思ったわ」
「ありがとうアンジェリカ」
「ロイスは自己評価低すぎなのよ。凄くいい男なんだから自信持ちなさいよ」
「照れるな。でも凄く嬉しい。アンジェリカにそう言ってもらえて尚更」
「二人のお互いを思い合う気持ちはわかりました。では続いて次の質問です。ロイスさんはアンジェリカと将来結婚したいと思っていますか?」
またまた直球な質問だなぁ。さっきの会話もそうだけど僕たちが聞いちゃってもいいのかな?
「お許しいただけるなら僕は将来アンジェリカと結婚したいと思っています。その為に学園でより一層努力したいと思っています」
「そうですか。ではロイスさんはアンジェリカと結婚するという意味をちゃんと理解されているんですね?」
「はい。ローゼンフェルト伯爵家に婿入りしてアンジェリカを支える事です」
「違います。あなたが次期ローゼンフェルト伯爵になるという事です。我が国では女性の爵位継承は王族の降嫁を除いて認められていません。ですのでアンジェリカの結婚相手はイコール次期ローゼンフェルト伯爵、つまり将来のローゼンフェルト伯爵。ローゼンフェルト伯爵領の領主、主です。アンジェリカを支えるのではありません。アンジェリカは支える立場。あなたにその覚悟が本当にあるのですか?」
流石にロイスは動揺しているようだ。
「覚悟があるのかと言われたらあるとは断言出来ません。でも……それでもアンジェリカを諦める事は僕には出来ません」
「そうですか。では想像出来ますか。あなたは平民の出です。貴族社会とはあなたが想像出来ないほど恐ろしい場所です。中にはあなたの出自を馬鹿にする輩もきっといるでしょう。イコールローゼンフェルト伯爵家をバカにする者も現れるという事です」
「お母様、今話す話ではないじゃない!」
「アンジェリカは黙っていなさい。私はロイスさんの決意を聞きたいのです。あなたが学園でとても優秀な成績を修めているのは聞いています。しかし、貴族としてのマナー・立ち居振舞い・ダンスなど他にも様々なものがあなたには足りていません。それでもあなたはアンジェリカと結婚したいと思いますか?」
リシュリーさんはロイスの目をじって見つめる。それに対してロイスもリシュリーさんの目を見つめている。何か熱い闘志のような熱い視線だ。先程までの動揺した感じも一切感じられない。
「今の僕はまだまだ未熟者です。覚悟もまだあるとはいえません。でも出来る限りの努力はしたいと思っています」
「努力すると口にするのは簡単な事です」
「その通りです。でも僕は努力したい。だって僕の周りには本当に努力している人達で溢れているから。これまで僕は皆に相応しい人間になりたい。負けない人間になりたい、困った時に助けられる人間になりたいと思っていました。そのための努力は全く苦ではありません。生意気な事を言うようですが、リシュリーさんには僕のこれからを見守っていただきたいです。僕がどのように成長するのか。成長しないのかを」
ロイスの言葉を聞いたリシュリーさんは笑みを浮かべる。
「フフフ。アンジェリカは愛されてるわね。これで本当に偽物のカップルなのかしら。実は本当に付き合ってるじゃないでしょうね」
「えっ! お母様……何を……おっしゃってるの」
「私を誰だと思っているのです。あなたが未だに学園でお相手を見つけていない事くらい承知していますよ」
リシュリーさんの言葉にアンジェリカとロイスは唖然とした表情を浮かべる。
「知ってて何であんな質問をするんですか!」
「アンジェリカが私に嘘をつくからです」
「それは……」
「それは?」
「お母様に怒られると思って……」
「やっぱりね。そんな事じゃないかと思いました」
「怒ってるでしょ」
「何にですか?」
「今年も婚約者候補を連れて来なかった事をです」
「怒っていませんよ」
「嘘よ! 去年は凄く怒っていたじゃないですか!」
「それはあなたが楽しそうにそこにいらっしゃる御友人達の話ばかりするから婚約者探しを忘れているじゃないかと思って少し釘をさしただけです。別に怒っていた訳ではありません」
「そうなの?」
「はい」
「でもお母様は早くローゼンフェルト伯爵家の跡取りが欲しいんでしょ?」
「もちろんです。しかし、いくら優秀な方でもアンジェリカを愛してくださる方以外にアンジェリカを差し上げるつもりは私もあの人もありませんよ」
「どういう事?」
「あらあら。つまり私達はあなたの婚約者探しを急いでいませんよと言いたいのですよ。あなたが本当に相手の事を好きになってその人と結婚したいと思う相手が現れるまで待つと言っているのです」
「でもそれじゃあ我が家は……」
「アンジェリカは何を心配しているのです。あの人はまだまだバリバリ働かれているんですよ。あなたの旦那様に爵位を渡すのはまだまだ先なのです。まぁでも少しアンジェリカにプレッシャーを与えてしまったのは私も反省しております。そういう事ですのでロイスさん、我が伯爵家はどんな身分の方でもアンジェリカが心から愛しているお方なら大歓迎です。鈍感娘で大変でしょうが、頑張りなさい。あなたには期待しています」
「はい。頑張ります」
「何を頑張るのよ……」
「はい! この話は終了です。それでは今からダンスの基礎講座を始めます。先ずは動きやすい服を用意しておりますので着替えてください」
リシュリーさんが手を叩くとメイドがホールに入ってきて僕らを男女別に違う部屋に案内されそこで動きやすい服に着替えた。
「お母様いきなり過ぎるんですが……」
「いきなりではないでしょう。ここはダンスホール。こうなる事は理解していたでしょう」
「そうだけど……私とロイスだけだと思っていたから」
「将来必ず役に立ちます。つべこべ言わない。それでは始めますよ。先ずは基礎のステップから始めます」
こうして唐突にリシュリーさんのダンス基礎講座が始まった。結果から言います。凄かったです。いや本当に。
少しの休憩や軽めの昼食を挟みながら六時間みっちり体を動かした。
基礎講座というだけあって最初は軽くステップの踏み方や相手との組み方など事細かく教えていただいた。途中からは男女ペアを組んでの練習をした。
僕とリディアナ、アレックスとイザベル、ロイスとアンジェリカ、カルロスはローゼンフェルト伯爵家メイド長のリーベルさんが相手を務めた。
とにかく踊った。特にダンス経験の少ない僕とロイスを中心にステップが体に染み付くようになるまで行った。
僕は普段から武術の修練で体を動かしていたから体力には自信があったけど、普段使わない筋肉を使ったからなのか練習後は凄く疲れた。でも本当に楽しかった。リシュリーさんは厳しかったけど、凄く丁寧に分かりやすく教えていただいた。
ダンス講座が終わり、クタクタになった僕らは各自の部屋に戻り、お風呂を済ませて夕食を取るために食堂に向かった。昼食でもそうだったけど夕食でもリシュリーさんによるテーブルマナー講座が行われた。
テーブルマナーはロイスを中心に教えていただいた。実は僕は王宮にいる時にマアサからみっちり叩きこまれていたのでマナーには少し自信があった。リシュリーさんからも完璧ですとお褒めの言葉をいただいて凄く嬉しかった。マアサには感謝してもしきれないよ本当に。
夕食も終わり、僕らは各自部屋に戻った。食事の終わり間際にリシュリーさんから明日も今日と同じ時間にダンスホールに集合してください。今日は早めに就寝して疲れを取るようにと言っていた。
アンジェリカは不満な顔をしていたけど、僕にとっては凄くありがたかった。休みが終わり、学園が始まると、後期の授業からダンスの項目が加わる。それまでに基礎を固められるこの機会は本当にありがたい。他の皆もアンジェリカ以外はやる気満々だった。特にロイスのやる気は凄まじかった。やる気に満ち溢れていた。
部屋に戻り、寝る前にちょっとだけ読書をしているとノックの音が聞こえてきた。
「ロイスです。少し話いいかな?」
「いいよ。入って」
「失礼します。疲れている所ごめんね」
「大丈夫だよ。それでどうしたの?」
「トーラスに相談したい事があって来たんだ」
「そうなんだ。何でも相談して」
「うん。実はアンジェリカの事なんだ」
「やっぱりロイスはアンジェリカの事が好きなんだね」
「どうして分かるの?」
「僕もあの場に居たんだよ。ロイスの言葉に嘘を感じなかった。本気で言ってるようにしか思えなかったから」
「ハハハ。そうだよね。そうだよ。僕はアンジェリカの事が好きなんだ。あの時言ったように一目惚れだった。あの時、トーラスと友達になってリディアナと友達になってそして、リディアナの友達のアンジェリカが来て初めてアンジェリカを見て一目で恋に落ちた。その時は恋だと理解出来ていなかったけどね。友達になってアンジェリカと学園生活を過ごす内に気づいたんだ。僕はアンジェリカが好きだって」
「告白しなかったのは貴族では無いことを気にしたの?」
「うんその通り。平民である僕と貴族であるアンジェリカ、絶対に叶わない恋だと思っていたんだ。絶対に僕の気持ちをアンジェリカに言ってはいけないって思ってた」
「でも今日、ロイスは言ったよね?」
「うん。話は変わるんだけどね、僕は小さい頃から王宮で文官として働きたいという夢があったんだ」
「そうなんだ。ちょっとびっくりしたよ」
「絶対に叶わないって平民の僕なんかがなれる訳がないって勝手に思っていたんだ。でもねマークウェル公爵領でオズワルドさんに文官にならないかって言われて本当にびっくりしたんだ。そして、今まで全く見えなかった将来の道筋がはっきり見えた気がするんだ。だから僕はもう勝手に自分で決めつけて平民だからって諦めたりするのは止めようと思ったんだ。だからアンジェリカの事も諦めたくないんだ」
「それは凄くいい事なんじゃないかな。ロイスは頑張ってる。誰よりも頑張ってる。学園でずっと僕は側で見てきたよ。ロイスが頑張ってるから僕も頑張れる。きっと皆も同じ気持ちだよ。ただひとつロイスに足りなかったのは自分への自信だけ。それが今回の周遊で芽生えたのはロイスにとってかけがえのないものだと思うよ」
「ありがとうトーラス。僕もそう思う。でもはっきり言わせてもらうとトーラスにも同じ言葉を送るよ。トーラスももっと自分に自信を持って。トーラスは自分が思っている百倍くらい凄いんだよ。そしてそれ以上に優しい。僕は本当にトーラスと出会えて良かったと心の底から思ってるよ。見ててトーラス。トーラスがリディアナに思いを伝えたように僕もアンジェリカに思いが伝わるように頑張るから」
「頑張れ! 心の底から応援してるよ!」




