あっけない幕切れ
「ロザール商会……」
「理解したかしら。あなた達がしてきた事の報い。今の状況は自業自得なのよ」
「知らない。私たちがここに来た時にはロザール商会はなかったんだ。信じてくれ!」
「はぁぁ。おば様どうしますか?」
カラン。再び扉の音が聞こえてきた。
「サフィーヤ様、レナ様、この先は私に任せていただいてもよろしいでしょうか?」
「あらライラ。あなたにこのバカをどうにかすることが出来るのかしら?」
「はい。お任せいただけるのでしたら」
サフィーヤさんはライラさんの顔をじっと見つめる。ライラさんも力強い眼差しでサフィーヤさんを見つめる。
「わかったわ。任せましょう。お兄様もレナちゃん達もそれでいいかしら?」
「異論はない」
「私もいいわ。皆もいいわよね?」
レナの言葉に僕らは頷く。
「皆様ありがとうございます。それではダマス商会会長ダマス、私が誰だかわかりますか?」
僕は当然ダマスはライラさんが商業ギルドのギルド長だと知ってるものとばかり思ったがダマスは首を傾げていた。
「わかりませんよね。初めまして私は商業ギルドマーキュリー支部ギルド長ライラと申します」
「ギルド長……」
「それではギルド長として単刀直入に言います。あなたにはロザール商会を後ろ楯の貴族と共に脅し奪い取ったという容疑がかかっております。その事について弁明はございますか?」
「私たちは一切関係ない!」
「達ですか。そうですか。ではロウという男をご存知ですか?」
「知らない」
ダマスはその名前にびくっと反応を見せるも知らないと言った。
「それはおかしいですね。確かギルドに保管されている書類にはダマス商会発足の証明者のギルド職員の名前にロウとありますが」
「あぁそうだった。ど忘れしていたようだ。彼には大変お世話になったな。とても優秀なギルド職員だった。元気にやっているかい?」
「あなたはロウというギルド職員に商会発足の承認を受けた間違いないですか?」
「あぁそうだ」
「わかりました。あなたに聞きたいのはそれだけです。それでは皆様、知っている事も多々あるとは思いますが、我々が集めた情報をこの場を借りて言わせていただきます。ロウ元ギルド職員はある不正行為が発覚し、今はギルドの牢屋の中にいます。それに伴い彼の担当した案件を調べ直した結果、様々な不正が発覚しました。その中でロザール商会とダマス商会の件が浮上しました」
「確か外部からの情報提供があったと言っていましたよね。その情報提供者は誰かわかっているんですか?」
「その通りですトーラス殿。情報提供者は判明しておりますが誰かは伏せさせていただきます」
「私よ私。私が情報提供したの!」
「サフィーヤ様!」
「いいじゃないべつに。頭のいいトーラス君、レナちゃん、アンジェリカちゃんにはわかっていたと思うし」
「なんで私の名前がありませんの」
「だってイザベルちゃんは世界一可愛いけど、ねぇ~」
「わかりましたわお母様。その先は言わないでください」
「すみませんライラさん。話を続けてください」
「はい。それでロウにロザール商会の事を問い詰めたのですがなぜかロザール商会の事についてだけは喋ろうとしませんでした。我々はなぜその件だけ黙るのか考えました。それで我々はこの件に関して誰かが口止めしているのではないかと考えました。それも結構な大物が。なので我々はその人物を探し出す事にしました。ロウの身辺を隅から隅まで調査し、様々な情報を探りました。すると、逮捕される前の1ヶ月の間に何度もとある男爵領に行っている事がわかりました。なので我々は数名のギルド職員をその男爵領に送りました」
「その男爵領ってとは何処なの?」
「はいサフィーヤ様、その男爵領とはレモール男爵領です」
「えっ!?」
「どうされましたトーラス殿?」
「大丈夫です。続けてください」
レモール男爵領。僕らには凄く聞き覚えのある名前だ。何せほんの数日前までそこにいたのだから。ゲスール元レモール男爵の悪事を暴き、レモール男爵家を元ある姿に戻す手伝いをさせてもらった。なのでレモール男爵領という名前が出て、まさか! という思いが僕の心を占めていた。
「レモール男爵領で隅から隅までロウの足取りを調査し、ついにレモール男爵と接触している事を掴みました」
ライラさんの言葉を聞き、サフィーヤさんの表情が歪んだ。
「それは少しやっかいね。確かフェザー病の薬の製法を独占してるんだったわよね?」
「はい。フェザー病の薬は100%レモール男爵領で生産されています。しかも製法は男爵家が独占しており商業ギルドに一切公開されていません。ですので商業ギルドとしてはとても手が出しにくい人物です」
「あの成金豚男爵ね。私も夜会で何度か会ってるけどいつも宝石を沢山付け金に物をいわしてやりたい放題な人だったわ」
「その通りです。逆に先代の当主の頃は製法は独占していましたが、薬は安価で取引されており市場にも十分に量が行き渡っていました」
「そうね。先代のレモール男爵は人柄もよく逆に優しすぎるくらいの方だったわね。亡くなったと聞いた時はびっくりしたわ。もしかしたら薬の製法を独占していたのは安定的に安価に市場に出回すためだったのかもしれないわね。なのに今のと来たら父親の意志も継がず金儲けの事しか考えない。嘆かわしいわ」
「あの少しいいですか?」
僕は二人のお話を聞いていて凄く申し訳ない気持ちになり口を挟んだ。
「どうしたのトーラス君?」
「仮にダマスの後ろ楯がゲスール元レモール男爵なら何も問題はないかと思います」
僕は『元』をつけて言った。
「なんで……! 今トーラス君、元レモール男爵って行ったかしら?」
「はい言いました」
「どういう事かしら?」
「はい。ゲスール元レモール男爵は様々な不正行為を行っていた為男爵の地位を剥奪され王都に連行されました」
「それは確かなのかしら?」
「はい。目の前で見てましたので」
「そう。イザベルちゃんもアンジェリカちゃんも異論はないかしら?」
イザベルとアンジェリカは頷く。
「詳しく説明お願いできるかしら?」
「はい」
僕はレモール男爵邸で起きた事、その結末。なぜそういう事態になったのかその過程を細かく話した。
「あの豚野郎イザベルちゃんを狙ったわね! 許せない。八つ裂きにしてやる!」
「お母様、少し言葉に品がありませんわよ」
「いいの。イザベルちゃんを狙う輩には言葉を選ぶ必要性は感じないもの」
「あの~今はそういう話では……」
「ごめんなさい。まさかイザベルちゃん達がそんな危ない事をしていたなんて思わなくてびっくりしちゃったのよ。フレイヤからは何も聞いてなかったし」
サフィーヤさんはそう言うと、フレイヤさんを見つめる。
「申し訳ございません。オズワルド・マークウェル様から王宮から正式に発表されるまで誰にも他言しないでくれと言われていましたもので」
「主である私にも?」
「はい」
「そう。私の部下に口止めしちゃうんだ。オズ君も偉くなったものね」
オズ君。オズ先生の事だよね。呼び方的に凄く親しそうな感じだ。どういう関係だろう?
「オズ先生と親しいお関係なんですか?」
「先生!! ウフフ。ごめんなさい。オズ君とは学園時代の先輩後輩関係になるわね。先輩としてとても可愛がっていたの」
「そうなのですか。サフィーヤさんは留学されていたんですね」
「ええ。何せ当時の王太子ライオネル様の婚約者候補筆頭だったもの」
「お母様本当ですの?」
「嘘ついてどうするのよ。正真正銘婚約者候補だったわよ。ねぇお兄様?」
「そうだな。私はそのまま婚約者になってほしいと願っていたがな」
「しょうがないじゃない。旦那様に出会ってしまったんですもの。まぁこの話は後にしましょう。今はそこにいる沈んでいる男の後始末をしてしまいましょう。ライラお願いね」
その後はあっという間に終わった。往生際の悪かったダマスも後ろ楯を失ってはどうにもならないと観念したのだろう。ロザール商会の件を認めた。そのままギルド職員に連れられて更なる事情聴取のため商業ギルドに連行されていった。
問題が片付いた僕らはそのままサフィーヤさんと共にベルウェール商会に移動し事件の顛末を説明した。皆さんとても喜んでくれ凄く嬉しかった。
その後は今あるベルウェール商会と前まであったロザール商会をどうするかという話になった。最初ロザールさんはこれからどちらの場所で営業するか凄く悩まれていたが、サフィーヤさんの言葉ですぐ解決した。
『両方で営業したらいいじゃい。あなたの商会は優秀な人が揃ってるし、ここを若い子達に任せてみたらいいんじゃないの。今ならギルドも全面バックアップしてくれるわよ』
サフィーヤさんの言葉で従業員の皆さんのやる気は最高潮に高まり、それに押されるようにロザールさんはサフィーヤさんの提案を受け入れた。
これで全ての事が丸く収まったので僕らは屋敷に帰還した。
「まさかあの男が絡んでるなんて夢にも思わなかったですわ」
「本当よね。最初からわかっていたらもっと早く終わってたのにね。トーラスが話の途中で突っ込んでくれて助かったわよ」
「僕もライラさんからレモール男爵領が出てまさか! と思ったよ」
「私は皆がそんな事をしていた事に驚きよ。今回も事件を解決して次の街でも何か解決しちゃうじゃないかしら。フフフ」
「完全に否定出来ないのが怖いわですわ。これからの旅は平穏でお願いしたいですわ。でももうすぐレナとお別れですわよね……そうですわ! これからの旅、レナも一緒に来ません? 確かザフィードの学園も休みの期間は一緒だって昨日言ってましたわよね」
「そんな可愛い事言ってくれるなんて今回マーキュリーに来るまでは夢にも思っていなかったわね。私と離れたくないのイザベルは?」
「そんな事……あるわけないわけではありませんわ」
「ウフフ。どっちなのよそれ。でも嬉しいわありがとうイザベル。でも一緒には行けないわ。国に戻ってやりたい事があるの。ごめんなさいね」
「そうですの。残念ですわ」
イザベラは捨てられた仔犬のような目をしてとても残念そうにしていた。レナはそのイザベルを悶えながら見つめていた。そんな時、部屋の外から声が聞こえてきた。
「レナールトいるか?」
マクシリミリアンさんの声だった。
「いますわよお父様。どうぞお入りください」
レナがそう言うと、マクシリミリアンさんが部屋に入ってきた。
「そろそろ時間だぞレナールト」
「そうでしたわね。それじゃあ皆、ザフィードに帰るわね」
「えっ!? レナ今日帰りますの?」
「そうよ言ってなかったかしら?」
「言ってませんわ」
「そうね。私も皆と離れるのが辛くて言い出せなかったの。ごめんなさいね」
「そうですわよね。辛いのは私達だけではありませんものね。来年の休みになったらまた会えますものね。私、次レナに会うまでにいっぱい頑張ってうんと成長してレナを驚かせますわ!」
「期待しとくわ。皆も短い間だったけど楽しかったわ。またいつか会いましょう!」
レナはそう言うと、一人一人ハグして回った。数日の間だけだったけどレナとは凄く仲良くなれた。レナとはこれからの人生とても長い付き合いになる。そんな気がする。
その後は玄関までレナとマクシリミリアンさんを見送りに行った。イザベルが途中泣いて大変だったけど最後は笑顔で見送る事が出来た。途中。マクシリミリアンさんが僕に近づいてきて小声で『君の成長に期待しているよ』と言われた。
それからのマーキュリー滞在の数日は街を散策したりサフィーヤさんの着せ替え人形にされたり、されたり、されたりの濃厚な日々だった。出発の時は中々サフィーヤさんがイザベルを離してくれなかったけどイザベルの『お母様が王都の屋敷に来た時には皆で会いにいきますから』という言葉で何とか笑顔で見送ってくれた。こうしてテンペスター公爵領マーキュリーでの滞在は幕を閉じた。いろんな事があり、いろんな人達と出会い、何よりもレナと出会えたかけがえのない時間となった。
場所は変わってザフィード王国への馬車の中、レナールト・ザフィード、マクシリミリアン・ザフィードの二人が馬車に揺られながらお互い会話も無くザフィード王国への帰路を進んでいた。
「お父様、出発してから相当経ちますけど、どうしてずっと黙ってらっしゃるの?」
「すまない。少し考え事をしていただけだ。今回の訪問は楽しかったか?」
「はい。一番はイザベルと仲良しになれた事ですが、かけがえのない友達と出会いました」
「そうだな。あの子達は皆、本当に良い子達ばかりだったな。レナールトもイザベルも良い友達が出来て私は本当に嬉しく思うよ」
「ありがとうございます。それでお父様、他に言いたい事があるんじゃありません?」
「本当に留学するつもりなのか?」
「はぁ。やっぱりその事ですのね。いくら言われても私の意志は変わりませんわよ。それともお父様の力を使って阻止なさいますか?」
「いや。レナールトならどんな手を使ってでも留学するだろう」
「流石お父様、私の事をちゃんと理解してくれていて嬉しいですわ。なら何をそんなに心配してるんですか?」
「父親として大事な娘が遠くに行ってしまうのだから悩んで当然だと思うのだが」
「あらお父様。心配してくれていたんですの?」
「当たり前だろう。メルーダもレイエスも悲しむだろう」
「二人の快く送り出してくれますわ」
「学園もレナールトがいなくなったらまた荒れるかもしれない」
「ちゃんと優秀な後継者を調教……教育しときましたので心配いりません」
「私は今の言葉で更に心配になったよ。あちらの学園ではあまり無茶な事はしないように頼む。特に王子達には無茶な事はしないでおくれ」
「そんな事しませんわよ。まぁあの王子二人の性根を叩き直してまともな王族に教育したい気持ちはありますが……。そうですわ。どちらかを私の魅力で落として次期王妃になって裏から王国を支配しようかしら!」
「頼むから止めておくれ」
「フフフ。冗談ですわよ。私にそこまでの才覚はありませんし、何より私、あの王子達をどうしても好きになれないんですわ」
「謙遜するな。お前にならどこの国の王妃でも務まると私は思っている。出来れば次期女王になってほしいくらいだ」
「まぁ! 初耳ですね。そんな事言ってはレイが泣いてしまいますわよ」
「そんな子ではないのはお前が一番わかっているだろうに」
「ウフフ。レイは私自ら教育を施しましたもの。何処に出しても恥ずかしくない人間に成長しましたわ。今後の更なる成長に期待ですわね」
「そうだな。我が国の未来は安泰だな」
「ええ。あとはジルベスター王国ですわね。私が王子達のお尻をびしばし叩いて成長させて見せますわ」
「少しは手加減してやりなさい」
「それは王子次第かしらね。フフフ」




