二人の刺客
更新遅くなりました。
リディアナとの庭での甘い一時を終え、僕らは一旦部屋に戻り、身支度を整え食堂へと向かった。食堂に行くと、サフィーヤさんの姿があった。
「あら。二人ともいい顔になったわね。もしかして短い間に何か二人にあったのかしら?」
サフィーヤさんの言葉にリディアナは顔を赤らめる。きっと僕の顔も赤くなっているはずだ。
「青春してるわね。可愛い!」
あれ? 突っ込まない。もしかして!
「もしかして見てました?」
「何を? 私は少し早く目が覚めたから部屋から庭の方を眺めていただけよ。そこで何が起こってたとしても素晴らしい景色に見とれて見逃しちゃったかもしれないわね」
しまったなぁ。あの時は気持ちを押さえられなかった。周りで誰か見てるとか考えていなかった。他の人は大丈夫かな? 見られてないよな。特にレナやアンジェリカに見られてたと思うとゾッとする。
見られてしまったものはどうしようもない。サフィーヤさんは言いふらすような人ではないし、落ち着こう。リディアナもどうしようもないことはわかっているようでもう席に座っている。
それからは普通に皆が集まり、朝食を済ませた僕らは最終確認をしてダマス商会へ行く僕、レナ、アンジェリカ、イザベルは準備のためにサフィーヤさんに連れていかれた。なぜ連れていかれたかというと、これから僕らはサフィーヤさんが考えたシナリオを演じるための衣装に着替えるためである。そして、着替えた僕らは外に止めてある馬車に向かった。
「どう? 皆、似合ってるでしょ」
「お母様、そんな事はいいですから出発しますわよ」
「えー! こんなに皆、可愛く仕上がっているのにー。しっかり見てもらわないとダメじゃない」
「そうよね。イザベルのこんな可愛い姿、今から絵師を呼んで額に納めて飾りたいわ」
「そんな時間はありませんわ。レナはいいですわよね。普通の格好で」
「しょうがないじゃない。そういう配役なんだもの。私もそういう服着てみたかったわ。あぁ残念ね」
「はいはい。出発するわよ!」
「どうしたのアンジェリカ。アンジェリカがイザベルいじりに参加しないなんて熱でもあるんじゃない? あっ! ごめんなさい。もちろんアンジェリカも素敵よ。凄く似合ってる。可愛いわよ」
「どうもありがとうレナ」
そう言うアンジェリカを見ると、少し顔が赤い気がする。やっぱりこの格好だから恥ずかしいんだろうな。黙っていたのは注目されないためだったんだんだろう。しかし、今回は逆効果になってしまったみたいだ。
「お話中申し訳ありません。時間が迫っておりますのでイザベル様、レナールト様、アンジェリカ様、トーラス様、は前方の馬車の方にお願いいたします。サフィーヤ様、ライラ様は後方の馬車にお願いいたします」
今僕らに指示を出してくれたのは公爵家でサフィーヤさんの下で領地運営に携わっているサイゼさんだ。サイゼさんは眼鏡をかけ知的な雰囲気を感じる二十代後半の女性でイザベルによるとサフィーヤさんからの信頼があつく仕事もテキパキこなすそうだ。だけど怒ると怖いとも言っていた。何でも小さい頃はイザベルの教育係を務めていたそうで何度も怒られたそうだ。
「それじゃあ皆、行ってくるね!」
「おう。頑張ってこいよ!」
「ほどほどにね」
「皆の無事を祈ってるよ」
「思う存分やってきて!」
僕の言葉にアレックス、ロイス、カルロス、リディアナの順に言葉が返ってきた。
馬車に乗り込み僕らはダマス商会へ向かった。御者はフロースとフレイヤさんが務めている。二人はダマス商会での護衛の任務も兼務してるので僕らと一緒に入店する事になっている。
少しすると、ダマス商会のすぐ側の人目にあまりふれない場所に馬車を止め、僕らはダマス商会へと向かう。
「じゃあ皆頑張ってね! 私の作戦通りお願いね! フロース君、フレイヤ、皆をよろしくね!」
「かしこまりました奥様」
「この身にかえましてもお守りいたします」
「それじゃあイザベル、トーラス、アンジェリカ、乗り込むわよ!」
「「「了解!」」」
店に入ると昨日同様に店員に出迎えられる。昨日と同じ人だった。
「いらっしゃいませ! ダマス商会へようこそ」
「ちょっとあなた、商会長のダマスっていう男を呼んできなさい!」
「どういったご用件でしょうか?」
「この子達の顔を見てもわからないかしら?」
レナの言葉に店員は僕らの顔をじっと見る。すると、何かに気づいたように顔色が変わった。
「申し訳ございません。本日会長は店を空けております。また後日お願いいたします」
「嘘つかないでちょうだい。私達はその男がこの店に入った事は確認済みなのよ。いいからとっとと呼んできなさい!」
朝からダマス商会には見張りを付け、ダマスが店に入ったのは確認済みである。
「そう申されましても……」
「もういいわ。自分達で確かめさせてもらうわ」
そう言うと、僕らはは店の奥に歩き出す。
「お客様困ります」
店員は僕らを止めようと立ちはだかるが僕らは構わず奥へ進んでいく。そんな時、奥から声が聞こえてきた。
「騒がしい。何事だ!」
「商会長すみません。お客様が商会長に会いたいとおっしゃっておりまして」
「なんだそんな事か。なぜすぐ私を呼ばない?」
「実は……」
「何だ。はっきり言え」
ダマスの言葉に店員は僕らの方を指差す。
「あなたがダマス商会会長のダマスね」
「はい。何でございましょうかお客様」
「よくも私の大切な側仕えの子達を脅してくれたわね!」
今の僕らの配役はレナ(お嬢様)、イザベル、アンジェリカ(侍女見習い)、僕(執事見習い)になっている。なのでイザベルとアンジェリカは侍女服を僕は執事服を着ている。
「側仕えを脅した? そんな事私は存じ上げませんが何かの間違えではございませんか?」
ダマスは顔色一つ変えずにそう言ってきた。
「僕らの顔を見ても同じ事を言えますか?」
僕の声にダマスはこちらをじっと見る。
「貴様ら!」
「思い出していただげましたか? 昨日は大変お世話になりました。本日はその報復に参りました」
「ふん。使用人風情がいきがってご主人様を連れてこれば何とかなるとでも思ったのか。よく見ると、全員子どもではないか! 今すぐ帰れば何事もなく帰らせてやろう。私はこれから大切なお客人をもてなす準備をせねばならないのだ。あらがえばわかるだろう?」
ダマスはそう言うと、後ろの扉をチラッと見る。今日も大男達を待機させているようだ。
「私がそんな脅しに屈すると思っていらっしゃるの?」
「ほう。勇ましいお嬢様だ。ここで引かないとあとで後悔する事になるぞ」
「どうせ後ろの扉に待機している男達を呼ぶだけでしょ。こちらにも頼りになる護衛がいるんですわよ」
レナがそう言うと、すうっとフロースとフレイヤさんが前に出てきた。
「ハハハ。それが護衛か! ひょろそうな男ともう一人は女ではないか! 笑わせてくれる。そんなので対抗できると思っているのか!」
「ええ。きっと瞬殺でしょうね。あなたの護衛の方が」
「お嬢様は本当に勇ましくいらっしゃる。世の中の怖さなぞ一切知らずに育ってこられたのだろう。きっととても偉い家のご息女なのでしょうな」
ダマスは馬鹿にしたように言った。
「さぁどうでしょう。ザフィード王国の人間だという事は言っておきますわ」
レナの言葉にまたダマスは馬鹿にしたように笑い始めた。
「ハハハ。ザフィード王国の人間ねぇ。小国の人間風情が大国ジルベスター王国の貴族の後ろ楯を持つ大商人ダマス様にはむかうとは滑稽すぎて笑いが止まらんよ」
ダマスの言葉を受け、レナの方を見てみると端から見てもわかるくらい怒りの表情を浮かべていた。当然だ。レナはザフィード王国の王女。国を馬鹿にされ、民を馬鹿にされ、その怒りは計り知れない。演技中とはいえむかついてもしょうがない。
「何が大商人よ! 馬鹿みたい。あなた本当に商人なの? 我が国がどれだけの物をこの国にもたらしている事すら知らないなんてこちらこそ滑稽すぎて笑ってしまいそうだわ。あなた、下働きから出直されてはいかがですか?」
レナの言うとおりだ。僕も王宮にいた時に書物などを見て勉強したがザフィードは確かに国の規模は小さいけど、鉱物資源がとても豊富で何と年間の採掘量はこの国と一緒なのだ。国土の広さは十倍くらい違うのでとてつもない事なんだ。ザフィードの鉱物はジルベスターを経由して近隣諸国へ広がっている。だからこそ近隣諸国はずっとザフィードを狙っている。しかし、ザフィードに辿り着くまでにはジルベスター王国、そしてテンペスター公爵領が立ちはだかっているのだ。
「貴様! もういい。これ以上は時間の無駄なようだな。おいお前ら! 出てこい!」
ダマスの声に反応して扉が開く。
「会長話は全て聞いておりましたぜ。こいつらをしめちまえばいいでしょう」
「そうだ。どんな事をしても構わん。たかがザフィードの人間だ。あの方に頼めば何とでも処理出来る」
「了解しやした。グハハ。よく見れば可愛い子ばかりじゃねぇか。しかも四人。男ふたりはボコボコにしよう。女は捕まえてあとで楽しませてもらおうじゃねぇか」
大男二人は下衆な笑みをうかべ舐め回すようにレナ達をみる。
「フロース!」
「フレイヤ!」
店内に僕とイザベルの声が木霊する。
「かしこまりました」
「消え失せろゴミが」
一瞬の出来事だった。目の前には倒れている二人の大男。それを何が起きたのか理解できていないのか虚ろな目で見つめるダマス。
フロースとフレイヤさんは僕とイザベルが二人に声をかけてから一分もかからないうちに男達を沈めてしまった。特にフレイヤさんの動きが凄かった。俊敏な動きで相手の死角に入り込み急所に一撃。怯んだ隙を見逃さず意識を完全に刈り取った。フロースも的確に相手を無力化させ制圧していた。
「さぁこれであなたを守ってくれる人間はいないわよ」
レナの言葉にダマスは我にかえったのか倒れた男達を罵倒し始めた。
「何をしている! 早く立て! 高い金を払ってやっているんだ」
「無駄ですよ。完全に意識を刈り取りました。当分目覚める事はありません。お嬢様方への罵詈雑言殺されなかっただけ運が良かったと思うのですね」
「くそ! お前ら覚えておけよ! すぐにあの方に連絡してお前らを地獄の底に叩き落としてやる!」
「フフフ。あなたはまだそんな戯れ言を言うのですね。あなたにそんな時間があると本当に思っているのですか?」
「あるさ。ザフィード王国の者であるお前たちに俺を裁く事は出来ない。お前らは尻尾を巻いて出ていくしかないんだよ」
ダマスはまだ自分にはまだ活路が残されていると思っているようだ。
カラン。店の扉が開く音が聞こえてた。さぁダマス。もう退路はないよ。あとは落ちるだけ。
「探したよレナールト。部下からレナールトが血相をかえて出ていったと聞いて肝が冷えたよ。さぁ帰ろう」
「何だお前は!」
「何だ無礼者が! 私はこの子の父親だが」
「ふん。ザフィードの者か。平民か? 商人か? 貴族か?」
「国王だがお前に何か関係があるのか!」
「えっ!? 何をバカな事を私をバカに……」
マクシリミリアンさんはダマスが言葉を言い終わる前に書状をダマスの前に広げる。
「証明と言われてもこんな物しかなくてな」
ダマスはその書状を見て固まった。
僕も近付いて見てみるとそれは招待状だった。ジルベスター王国国王ライオネル・ジルベスター陛下の生誕四十周年を迎える事を祝うために王宮で行われるパーティーへのだ。そこには招待客パクストン・ザフィード、招待者ライオネル・ジルベスターと書かれ王印もしっかり押されていた。よほどのバカでない限りこの書状を偽物だとは思わないだろう。
「ほう。お前のようなアホでもこの書状が偽物ではないとわかるようだな」
「……」
「黙ってないで何か言う事はないのか!」
「えっ!?」
「先程から我が国をずいぶん下に見てるようだな! 覚悟は出来てるんだろうな」
「ひぃ!」
マクシリミリアンさんの凄まじいプレッシャーに腰を抜かしてダマスは崩れ落ちる。そんな時
、再びカランと音がして店に誰かが入ってきた。
「あらあら何事かしら。どうしたのかしら?」
ここでサフィーヤさんの登場である。実は先程ダマスが大切なお客様を出迎えると言っていたのがサフィーヤさんの事なのである。
「テンペスター公爵夫人サフィーヤ様、お出迎えも出来ず申し訳ございません」
ダマスはこんな時でも上客になりうるサフィーヤさんを必至に出迎えようとしていた。しかし、腰を抜かしていてまともに立つ事も出来ず地ベタに這いつくばっている。
「どうしたの? 腰を痛めたのかしら?」
サフィーヤさんは優しげな笑みを浮かべダマスに近づいていく。
「サフィどうしてこんな所にいるんだ? サフィもイザベルを迎えに来たのか?」
「あらお兄様。奇遇ですわね。私はダマス商会に視察に来たのよ」
二人のやり取りを見てダマスは驚きを隠してきれないようだ。
「お二人の関係は?」
「何を言っているの。兄妹よ。あなた商人なのにそんな事も知らないの? 呆れるわね。こんなレベルの低い者がマーキュリーで商売してるんなんて! 商業ギルドにきつく言っとかなくちゃ。もちろんダマス商会は取り潰しね」
「そんなぁ。たかがお二人の関係を知らなかっただけで……」
「たかが?」
「……」
「問題大有りよ。私はこの街を治めるテンペスター公爵夫人であり元ザフィード王国第一王女。その事を知らなかったというだけであなたには商人をする才覚はないわ。商人に一番必要な者は情報収集能力。様々な情報を集めいかに良い商品を仕入れ売り、良いお客様を囲えるかでしょ。あなたは初歩中の初歩さえも出来ていないゴミの中のゴミの商人よ。我が愛すべき祖国ザフィードの重要性すら知らないね」
そう言うサフィーヤさんの顔は笑顔だったけど目が全く笑っていなかった。
「申し訳ございません。そこに関しては私の不徳のいたるところでございます。しかし、もしチャンスをいただけるなら必ずサフィーヤ様のお役に立てる商会にしていける自信があります」
ダマスは何とか取り潰しを撤回してもらおうと必死に訴えかける。
「サフィーヤ様、マクシリミリアン様、少しよろしいでしょうか?」
「どうしたのフレイヤ?」
「はい。実はそこに倒れている男がお嬢様方に対してありえない暴言を吐かれました」
「何て?」
フレイヤさんは先程のダマスと男の言葉を一言一句間違える事なく二人に伝えた。二人の顔は言葉の途中にはもう阿修羅のような形相に変化していた。
「処刑しましょう」
「異論はない」
お二人の意志は一緒のようだ。
「そんなぁ。お嬢様・姪子様に対しての暴言は本当に申し訳ありません。しかしそれだけで処刑だなんて……」
「それだけではないわ!」
「それだけではないわぁぁ!」
叫んだ二人は近くにいたイザベルを捕まえて抱き締め言った。
「私の命より大切なイザベルちゃんを楽しむですって……フフフフフフフフ」
「私のレナールトと同等いやそれ以上大好きなイザベルを辱しめるなどお前らに生きてる価値はない」
二人の怒りは頂点に達していた。
「いいのレナ? あんな事言ってるけど」
「いいのよアンジェリカ。お父様のイザベル狂いは昔からだから。私もしっかり愛されている自覚はあるから。それよりごめんなさいね。アンジェリカも被害者なのに。でもちゃんとアンジェリカの分も仕返ししてるから大丈夫よ」
「私の分はいいよ。もう余りあるっていうかこれ以上悲惨になりそう」
「フフフ。いいきみよ!」
ダマスは訳がわからないように呆然としながら聞いていた。
「イザベル、自己紹介してあげたら?」
「わかりましたわレナ。ご挨拶が遅れましたわ。私はテンペスター公爵令嬢イザベル・テンペスターですわ」
もう何とも言えない状態だった。ダマスは小さな声で使用人では? と呟いていた。
「罰ゲームで三人には二日間私の側仕えをしてもらっていたのよ。あっ! 言っとくけどあとの二人も貴族の者よ。ローゼンフェルト伯爵令嬢とロンベスター子爵子息よ」
「何故だ。何故ここまでの面子がここにいる?」
ダマスは限界を超えたのか逆に冷静になって尋ねてきた。
「あらやっとお馬鹿さんのあなたにもわかってきたのかしら? そんなの決まってるでしょ。仕組まれていたからに決まってるでしょ。全ては作戦通り。あなたを地獄の底に突き落とすためのね」
「いつからだ? いつから……」
ダマスはきっと昨日僕らに行った行為のせいだと思っているんだろう。
「もちろん昨日の出来事も少なからず影響してるわ。というよりも昨日の出来事がなかったらこんな大事にならなかったかもね。わからない? あなた達は他にも悪事を重ねているでしょ」
「何の事だ」
レナの言葉にここまできてもしらをきろうとする。
「ロザール商会の事に決まってるでしょうが!」
レナの怒りの言葉が店中に響き渡った。
多分初めて国王陛下の名前が出たと思います。多分(笑)




