意外な人物
僕が外に向かって声をかけると「入るわね!」とライラさんではない声が聞こえてきた。
あれ? ライラさんじゃない。でも今の声どこかで聞いたような気がする。
僕がそんな事を考えていると、扉が開き二人の女性が入ってきた。そして、その内の一人の女性を見て部屋にいた全員が驚愕した。
「やっほー! サフィーヤさんの登場ですよ!」
まさかのサフィーヤさんの登場だった。サフィーヤさんは凄く明るい表情。反面横にいるライラさんは緊張した面持ちだった。
「どうしてお母様がここにいるんですの?」
「イザベルちゃんは驚いた顔も可愛いわね」
「お母様!」
「ごめんなさい。もちろん他の子達のびっくり顔も可愛いわよ」
「そういう事では……」
「冗談よ。ここにいる理由だったわね。そんなのイザベルちゃんに会いに来たに決まってるじゃない」
「私に会いに? なんでここにいるって知ってるんですの? お母様もしかして密かに護衛とかつけてますの?」
「つけてないわよ。フレイヤの事、私凄く信頼してるもの」
「ならどうして私達の居場所がわかったんですの?」
「簡単よ。イザベルちゃんはそこにいる二人が大好き。必ず今日お店に行くはず。行ったらそこにロザール商会がない。心配して居場所を探す。ここに辿り着く。ほら簡単でしょ」
「お母様ロザールさん達の事知ってましたの?」
「当たり前じゃないの。大切なイザベルちゃんが通っているお店よ。調査しないわけないじゃないの。ちゃんと挨拶にも行ったのよ」
サフィーヤさんの言葉にイザベルはロザールさんとラクアさんの方を見る。
「イザベルちゃんごめんなさいね。サフィーヤ様から口止めされていたの」
「そうなんですの」
まぁ当然だよね。イザベルは公爵令嬢。行き先を把握されているのはしょうがない。
「おば様はいつからここにいるんですか?」
「レナちゃん達が来る前からいたわよ。この部屋でラクアさんとお茶を楽しんでいたのよ」
「なるほど。それじゃあおば様はロザールさん達の身に何が起きたか知っているんですよね?」
「知ってるわよ。なんたって私がこの場所を提供したんですもの」
「おば様がこの場所をですか? なぜですか?」
「私、ロザール商会へ行ったのよ。そしたらそこにはロザール商会じゃなくてダマス商会があるじゃない。心配になって探したのよ。探しだして会いに行ったら街を出ていくって言うじゃない。詳しく理由を聞いたら何とか事件の事を教えてくれたのよ。私、イラッときちゃって直ぐにでも潰してやろうと思ったのに二人に止められたのよ。だから別の場所を提供したの。郊外だったらあいつらの目もいかないだろうし、ロザール商会のような素晴らしい商会を他領に渡したくなかったもの」
「そうなんですか。おば様はなぜロザール達に会いに行ったんですか?」
「そんなの決まってるじゃない。イザベルちゃんに初めて友達が出来たから一緒に祝賀会をしようと思ったのよ。ロザール商会の人達は学園に行ったイザベルちゃんの事を心配してくれてたから」
「でもお二人は知らなかったですけど」
「なんで? イザベルちゃん去年の休みもロザール商会に行っていたでしょ」
サフィーヤさんの言葉にイザベルに視線が集まる。
「……」
「どうせイザベルは恥ずかしがって公爵令嬢の私の側には沢山の人が溢れてますわ。とか言ったんじゃないの。一年前ならまだまだ今みたいに素直じゃなかっただろうし」
「その通りですアンジェリカさん。私達はそれを聞いてまだ本当のお友達は出来なかったのではと思い、追求はしなかったのです」
「やっぱりね。素直になれて良かったわねイザベル」
「そうですわね……」
「それじゃあ話を纏めると、サフィーヤさんとロザールさん達は前からの知り合いで今のこの場所もサフィーヤさんが提供した。もしかして密かに護衛とかもつけてました?」
何だか話が進まないので僕は話を戻した。
「つけてたわよ。何かあったらイザベルちゃんが悲しむし、もしかしたら何か仕掛けてくるかもしれないと思ったのよ。でもまったくその気配は無かったのよね。気にならないのかしらね」
僕もそこがずっと引っ掛かっていた。今日、僕らがダマス商会で脅されて店を出てから僕は少し離れた所で護衛をしてくれていたフロース達に後を付けられたりしていないか注意深く見ていてもらうようにお願いした。結果は特に付けられている様子もなかったそうだ。
今回僕らが来店した時は他にお客さんが見当たらなかったから僕らが誰かに言わない限りダマス商会の悪行が知れる事はない。でもそんなのいずれ何かしらでバレそうなものだし、実際今回僕らが被害にあい、対処しようとしている。余程ダマス商会のバックに付いている貴族が大物なのかなぁ。抗議してもその力でねじ伏せられるとか考えているのかなぁ?
「そうですよね。実際、ダマス商会はロザール商会の事以外にも悪行を重ねているのに僕は凄く不思議です」
「えっ? 他にも何かしているの?」
「はい。実は僕ら、ダマス商会で無理やり商品を買わされたんです」
「買わされた?」
「はい。何でもダマス商会は入店したら必ず一人一品は購入しないといけないみたいなんです。断ったら裏から大男が出てきて脅されたんです」
「あらあら。私の大切な街でそんな事をしていたなんていい度胸ね。ロザール商会の件でも本当は我慢の限界だったのにそれ以上罪を重ねるなんて私を甘く見てるのかしら。わかりました。ダマス商会は即刻潰します。今から私が出向きましょう。ライラも一緒に来てもらうわよ」
本当は僕らの力でダマス商会を成敗したかったけどサフィーヤさんに任せた方が穏便に済むので仕方ない。でもこのままじゃちょっと消化不良なんだよなぁ。
「おば様、私達も一緒に行ってもいいかしら?」
「うーん。そうねぇ。全員はちょっと多いわね。多くても4人くらいかしら。そういえばダマス商会には全員で行ったの?」
「いえお母様、行ったのは私とアンジェリカ、トーラス、アレックスの四人よ」
「そうなの。じゃあ連れていくのはイザベルちゃんとアンジェリカちゃんとトーラス君、レナちゃんにするわ」
「どうして今流れで私なのおば様?」
「レナちゃんにはやってほしい役があるのよ。だからごめんなさいねアレックス君」
「俺は全然大丈夫です。レナの方が役に立てそうだし」
「おば様、役って何?」
「何だかイザベルちゃん達はこのまますんなり終わっちゃったら消化不良なんじゃないかなぁって思ったから私がある作戦を考えました。それを四人には実行してもらいます。上手くいけばきっとすっきりすると思うわ。どう? やる?」
「「「「やります!」」」」
僕らの声はびっくりするくらいハモっていた。
「わかったわ。少し準備をするからやっぱり決行は明日にするわね。今日はこのまま帰りましょう。ライラは少しやってほしい事があるから一緒に屋敷に来て頂戴」
「かしこまりました」
「ではロザールさん、ラクアさん、失礼するわね」
「いろいろとご迷惑おかけします。よろしくお願い致します」
「大丈夫よ。愛する領民のためなんだから苦でも何でもないわ。また明日、全てが片付いたら来るから美味しいお茶を用意しておいて頂戴。お菓子もね」
「かしこまりました」
「それではロザールさん、ラクアさん、私達も帰りますわ」
「イザベルちゃん、くれぐれも無茶だけはしないでね」
「大丈夫ですわ。今の私には沢山の頼りになる仲間がついてますもの」
イザベルが笑顔でそう言うと、お二人は凄く嬉しそうに「そうね」と言っていた。
僕らはそのまま外にある馬車に乗り込み、公爵邸に戻った。
公爵邸に戻ると、サフィーヤさんから明日の作戦を聞いて、入念な打ち合わせをした。打ち合わせが終わった頃には夕食の時間が迫っており、そのまま食堂に移動して夕食を食べた。
その後は各自、部屋に戻った。レナは宣言通りイザベルの部屋で寝ると言ってイザベルと一緒に部屋に戻っていった。
部屋で寝支度を済ませ、もうそろそろ寝ようかと思っていた頃、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「はい」
「サフィーヤよ。ちょっと話があるのだけど、入っていいかしら?」
突然のサフィーヤさんの来訪に凄く驚いたが、何とか僕は「どうぞ」と返した。
「突然ごめんなさいね」
「いえ大丈夫です。どうしたんですか?」
「少しトーラス君と二人きりで話をしたいなぁって思ったの。いい?」
「もちろんです」
「ありがとう。じゃああちらで話しましょう」
サフィーヤさんは椅子に座ると、外に向かって手を何回か鳴らした。すると、メイド二人が部屋に入ってきてハーブティーを入れてくれた。
「このハーブティーは快眠効果があるから気にせず飲んでね」
「ありがとうございます」
僕がハーブティーを飲むと、なぜかサフィーヤさんは僕の顔をじっと見ていた。
「僕の顔に何か付いてますか?」
「ごめんなさい。トーラス君の顔を見てると創作意欲がどんどん湧いてくるのよ。学園を卒業したら専属モデルにならない?」
「ありがたい申し出ですが、申し訳ありません。今はまだ決まってはいませんが、僕がやりたい事ではないと思います」
「フフフ。そうね。残念だけど、確かにトーラス君の役目は他にあるわね」
サフィーヤさんは意味深な笑みを浮かべる。
「そう思いますか?」
「ええ。私、トーラス君は将来、この国に無くてはならない存在になると思っているわ」
「買い被りすぎです。僕はそんな人間ではありませんよ」
「イザベルちゃんに聞いてはいたけど、本当に過小評価なのね。そういう奥ゆかしい所も可愛いけどね。それじゃあトーラス君はこの国についてどう思う?」
何だろうこの質問? サフィーヤさんはなぜこんな事を聞くんだろう?
「どうとは?」
「そうね。例えば学園に通う王子達についてどう思うかとかかな」
もしかしてサフィーヤさんはどちらの王子が次期国王に相応しいのか聞きたいのかな?
「はっきり言わせてもらうと不安です。僕は今の状態のお二人のどちらかが国王になっても国は荒れてしまうじゃないかと思っています」
「あらあら。噂通りなのね」
「はい。僕はお二人より国王にはノアールお姉様が相応しいと思います」
「ノアール第一王女殿下ね。私も何度か会った事あるけど、本当にいい子よね」
「はい。本当に尊敬してます」
「あらあら。トーラス君にそこまで思われているなんて妬けちゃうわね。でも私はノアール殿下より国王に相応しい人物を知っているわよ」
「それは誰ですか?」
えっ! 誰だろう? もしかして王位継承権を持つ人が他にいるのかな?
「あなたよトーラス君」




