ロザール商会とダマス商会
次の日、朝食を食べに食堂に行くと、サフィーヤさん、マクシミリアンさん、アンジェリカの姿があった。
「やぁトーラス君、おはよう。よく眠れたかい?」
「おはようございます、マクシミリアンさん、サフィーヤさん、アンジェリカ。初めてのパーティーだったので少し疲れたみたいで、よく眠れました」
「おはよう、トーラス」
「おはよう。今日のトーラス君もカッコいいわ。それにしても、トーラス君はパーティーが初めてだったのね。どうだったかしら? 楽しんでもらえたかしら?」
「はい。凄く楽しくて貴重な経験をさせていただきました」
「アナと踊れたもんね。私に感謝しなさいよ」
「そうだね。パートナーはアンジェリカが決めたもんね。ありがとう」
「どういたしまして。貸しでいいわよ」
「はいはい勝手にどうぞ」
アンジェリカに反論しても無駄なのはもう学んだよ。
「あらあら仲がいいわね。パーティーを楽しんでくれたみたいで何よりだわ。ダンスも初々しくて可愛いかったわ。トーラス君のたどたどしさ、アンジェリカちゃんのロイス君を献身的にサポートする優しさ、凄く目の保養になったわ」
「ダメダメでしたけど、本当に楽しかったです。あとリディアナは凄くダンスが上手くてびっくりしました。ロイスから聞いたけど、アンジェリカも凄かったらしいね」
「そりゃあねぇ~昔から仕込まれてますから」
「仕込まれてる?」
「アンジェリカちゃんのお母様のローゼンフェルト伯爵夫人はダンスの達人として社交界でとても有名なのよ」
「へぇ~凄いんだね」
「お母様は私の憧れなの。いつかは超えたいと思っているわ」
「アンジェリカちゃんならきっとなれるわ。頑張ってね」
「ありがとうございます、サフィーヤさん」
「そういえば、イザベルちゃんから聞いたけど、今日は街に出掛けるのよね?」
「はい。レナも一緒に皆で街に出掛けようと思ています」
「あら。もうレナちゃんと仲良くなったの? お兄様、嬉しいんじゃありません?」
「嬉しいに決まってるじゃないか。レナは何というか難しい子でね。これからもよろしく頼むよ」
「もちろんですけど、難しい子ってどういう事ですか?」
僕の質問にマクシミリアンさんは少し顔を歪ませた。
「君は言いにくい事をズバリ聞く子だね。まぁしょうがない。これから長い付き合いになるんだから聞いといてもらった方がいいだろう」
マクシミリアンさんは何か断腸の思いって感じだけど、そんな話かな?
「親バカに聞こえるかもしれないが、レナはとても優秀なんだ。国始まって以来の天才というべきか、ずば抜けているんだ。だからなのか、これまで本当に親しい友人というのが出来た事が無いのだよ」
「なるほど。でも昨日、会ったレナは凄く親しみやすい明るい女の子でしたよ。ねぇアンジェリカ?」
「そうね。でも違和感は感じたわね」
「違和感?」
「なんて言ったらいいかわからないんだけど、何かを見定めているように見える時があったわ」
「そうかな? 僕は感じなかったけど……」
「こういう所は女の方が鋭いのよ」
アンジェリカの言葉は妙に説得力があって怖い。普段からアンジェリカは特に鋭いからなぁ。
「鋭いね。無論、レナは凄くいい子だよ。でもどこかで相手を測っている」
「何をですか?」
「自分に相応しい人間なのか、自分の役に立つ人間なのか」
「そんな風には見えませんでしたけどね。僕には少し大人っぽいけど、イザベルの事が大好きだと語っていた時は年相応でしたし」
「それは私も同感ね。イザベル大好きすぎだったわね。まぁわからなくはないけどね。イザベルはおちょくると本当に可愛いもの」
「まぁ! アンジェリカちゃんにもその可愛いさがわかるのね。そうなのよ。その可愛い顔見たさに私もおちょくっちゃうのよね」
「やられる方は可哀想ですけどね」
「ゴホン。イザベルの可愛いさには同感だが、今は置いといて、今はレナの話をしたいのだが……」
「あらごめんなさいお兄様。只の親バカ発言かと思って」
「サフィに言われたくはないが、親バカはまぁ否定はしないがね。なら一つ、トーラス君とアンジェリカさんにレナの我が国での異名を教えてあげよう」
「「はい」」
「王立学園の裏の支配者だ」
「裏ですか?」
「あぁ。我が国の学園も二人が通う学園と一緒で六年制なのだが、レナは入学してすぐに生徒会に入り、そして、学園を支配してしまったのだよ」
「「はあ」」
「どうして驚かないんだ?」
驚いているけど、特に何とも思わないかな。学園自体に影響を与えられるって事はそれだけ優秀だという事だし、その異名だって他人が勝手に言っている訳だし。
「それだけレナが優秀なんだなぁと思ったくらいで他は別に。アンジェリカは?」
「私も特には……。横に匹敵するくらい異常性を持った友人がいますので」
「アンジェリカ、ひどいよ。異常って」
「トーラス君はそんなに異常なの?」
「はい。入学時の学力テストは主席。生徒会メンバーにも入り、武術大会でも優勝。その後の学力テストは全て満点。学園にはファンクラブまで存在します。異名は学園の王子様です」
「きゃあー! 何それ凄いわ。学園の王子様……ぴったりね! それに本当に異常ね」
「本当に凄いな。そんなトーラス君を見てると、レナを驚かない訳が頷けるな」
僕の事をマクシミリアンさんとサフィーヤさんが尊敬の眼差しで見てくる。何この空間。恥ずかしすぎるんだけど。
「僕の事はいいですから。今はレナの事ですよね。マクシミリアンさん、一つ聞いてもいいですか?」
「ああそうだな。何でも聞いてくれ」
「レナが学園に入学してから学園は荒れたりしたんですか?」
「いや、逆に元々、少し荒れていた学園を立て直したくらいだ」
「なら何の問題があるんですか?」
「まぁそうなんだが……」
あれ? 結局、マクシミリアンは何が言いたいのかな? 少し癖がある娘だけど、見捨てないでくれって事かな? 今の話を聞いて、僕はもっと仲良くなりたいと思ったけどなぁ。
「マクシミリアンさん、心配しないでください。もし、僕自身が友人に相応しくないのなら努力して相応しい人間になればいいだけの事です。きっと皆も同じ気持ちだと思いますよ。腹黒さならアンジェリカも似たようなものですよ」
「トーラス、ひどーい。まぁ否定はしないけどね。先程も言いましたが、異常なトーラスを筆頭に私達は皆、能力は高いですから心配はご無用ですよ」
「トーラス君、アンジェリカさん……わかった。これで私の憂いも無くなった。よろしく頼むよ。なら二人にだけでも伝えておこう。実は休み明けからレナは……」
言葉の途中、なぜかマクシミリアンさんは固まってしまった。僕らはマクシミリアンさんの視線の方向を向くと、そこには満面の笑顔を浮かべたレナが立っていた。その後ろには皆が揃っていた。
「レナ……」
「お父様、おはようございます。叔母様とトーラス、アンジェリカも」
「いつからだ。いつから聞いていた」
「最初からですけど」
一瞬にしてマクシミリアンの顔が青ざめていく。そんなに怖いのかな?
「お父様、何やらいろいろと喋っておられましたが、人がいない所でコソコソとそれが一国の国王のなさることでしょうか?」
「それは……その……なんというか……レナと仲良くして欲しかったんだ」
「それは嬉しいですが、人の秘密をベラベラ喋るのはどうかと思いますが」
マクシミリアンさんの大きい体がどんどん小さくなっている気がする。
「すまなかった。もう言わないよ」
「わかればいいのです。もし次があったらお母様に直談判しますのでお忘れなきようお願いしますね」
マクシミリアンさんの顔色がより一層、悪くなった。本当に奥さんの事が怖いんだろうな。一度会ってみたいかも。多分、レナはお母さん似なんだろう。
「お父様の事はもういいです。それより二人の言葉が凄く嬉しかったわ。こんな裏のある私でも気にしないって言ってくれて。改めて言うわ。こんな私でよければお友達になってくださいませんか?」
もちろん皆、首を縦にふった。その時のレナの笑顔は凄くいい笑顔だったよ。
その後、朝食を済ませ、僕らは街に出発した。街の中心までは歩いていける距離にあるので今回は馬車を使わずに徒歩で行くことになった。
街での目的は女性陣の希望によりお店巡りをすることになっている。店はイザベルのおすすめを回る事になっている。
僕らは何件か店を回り、服やアクセサリー、靴などを見た。各自、気に入った物があれば購入した。
そして、昼食を街の食堂で済ませ、僕らは今、二つのグループに別れている。なぜかというと、レナが昼食前に回った店で買い忘れた物が出たからだ。最初は皆で行こうって言ったんだけど、イザベルも行きたい店があるらしく、それなら少しだけ別れて行動する事になったのだ。なので今は僕、イザベル、アンジェリカ、アレックスの四人で行動している。
「あれ? 店の看板が変わってますわ」
「どうしたの?」
「ここのお店なんですけど、私が気に入っていた店があったはずなんですけど、看板が変わってますの」
「店の名前を変えただけじゃないの。とりあえず入ろうよ」
僕らはアンジェリカに促され、とりあえず店に入ることにした。
「いらっしゃいませ。ダマス商会へようこそ」
店に入ると、店員に出迎えられた。
「イザベルどう?」
「やっぱり何か違いますわ。名前もダマス商会ではなく、ロザール商会でしたわ」
「とりあえず店員に聞いてみようよ」
「そうですわね」
「すみません。少しお聞きしたい事があるのですが?」
「何でございましょうかお客様」
「ほらイザベル」
「はい。ここにロザールさんという方は働いておりませんか?」
「ロザールさんですか。すみません。私ではお答え出来ませんので、責任者をお呼びしますので少々お待ちください」
店員はそう言うと、店の奥に下がっていった。
「ロザールさんって誰なの?」
「はい。先程言ったロザール商会の会長さんで私、昔からその商会が気に入っていてこっそり店に行ってましたの。本当に店員さんを含めて皆さん優しくて居心地がよかったんですわ」
「へぇ~イザベルもそんな事してたのね。少し意外だわ」
「屋敷で母の着せ替え人形になるのが嫌でしたのよ」
「なるほど。納得だわ」
「お待たせいたしましたお客様。私がこの商会の会長のダマスでございます。何でもロザールという者を探しているとお聞きしたのですが」
「はい。ここにはロザール商会という店があったと思うのですが、何か知りませんか?」
「存じ上げておりますよ。確か経営不振で店を畳んだと商業ギルドの職員に聞いております」
「経営不振……それでその後、ロザール商会がどうなったか何か知りませんか?」
「申し訳ありませんが、私共ダマス商会がここに来た時にはもういませんでしたので居場所などは知りません」
「そうですか。ありがとうございます。お手数お掛けしましたわ」
「いえ。お力になれず申し訳ございません」
「皆、ごめんね。行きましょう」
「「「うん」」」
諦めて僕らが店を出ようと入り口に向かおうとすると、呼び止められた。
「お客様、何か買い物はされないのですか?」
「すみません。そんな気分ではありませんの」
何かと思ったらそういう事か。その商売人魂は凄いとは思うけど、時と場合を考えようよ。しかし、イザベルが断ると明らかに今までの優しそうだった雰囲気が一変した。
「お客様、当店は入店されたら必ず何かを買って頂かないといけないシステムになっております」
「はぁ? そんな理不尽なルール聞いたことがないわ」
「そう言われましてもそれが当店のルールでございますので」
「そんなの商業ギルドが認めるはずがないわ」
「今現在、当店が営業しているのがその証だと思いますが」
「ふざけないで! これは恐喝よ。街の警備団の人を呼ぶわよ」
アンジェリカの言葉にダマス商会会長はため息をつく。そして、後ろの扉の方に声をかける。
「お客様の気持ちはわかりました。しょうがないですね。おい。お前ら出てこい!」
すると、大柄の男性二人が出てきた。
「会長またですか」
「ああ。このお客様達に世の中の厳しさを教えて差し上げなさい」
「かしこまりました」
これは少しヤバい状況だな。
「すみません。そこにある物を頂けますか?」
「物分かりのいいお客様もいらしたのですね。お買い上げありがとうございます。それではあなた様は退店していただいてよろしいですよ」
「そういう事をしますか」
「商売ですので」
「わかりました。人数分買います。しかし、商品は結構です。それでは失礼します」
僕はお金を店員に渡し、店を後にしようとした。
「誰かにばらそうとしたらどうなるかわかっていると、良識のあるお客様なら分かってると思いますが」
なるほど。こうやって脅して情報を封鎖しているのか。でも相手が悪かったね。あなた達は敵に回してはいけない相手を今敵にしたんだよ。後で後悔するがいいよ。
何とか店を脱出した僕らはレナ達と合流するために集合場所に向かった。




