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Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士(ペット)として暮らしてます  作者: 銀翼のぞみ
第三章

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88話 勇者皇子と聖魔王、そして虎耳娘の明かされる過去

「よく来たな、冒険者アリアとその仲間たちよ」

「は、はひぃ!」


 跪いたアリアが悲鳴のような返事をする。

 緊張のせいで体はガチガチだ。


 無理もあるまい。

なにせ目の前にいるのはこの国の皇帝、〝ガイゼル・アウシューラ〟その人なのだから。


 なぜか彼の隣、皇妃の席が空席になっているのが気になるところだが、アリアはそれどころではない。


「そう緊張するな。お前たちはグラッドストーンを救った英雄なのだ。堂々としていればよい。それで……そなたはステラ、そしてそこのエレメンタルキャットはタマといったな」

「そうなのだ! です! 皇帝陛下にお会いできて光栄なのだ! です!」

「にゃん!」


 皇帝に声をかけられ、ステラとタマが元気に返事をする。

 ステラに関しては、アリアが教えた付け焼刃の丁寧語講座のせいで変な言葉遣いになってしまっているが……いつもの調子で話されるよりは数倍マシであろう。


「うむ、この度はよくぞグラッドストーンを守ってくれた、感謝する。後ほど国から褒賞を授与することとする」


 皇帝の言葉に、アリアはさらに深く頭をたれる。ヴァルカンにステラと、一緒についてきたリリとフェリも同様だ。


「それにしても……久しぶりだな、ヴァルカンよ」

「はっ、お久しぶりですにゃ。陛下におかれましてはご健勝のようで何よりですにゃ!」


 唐突に、ヴァルカンに向けて言葉をかける皇帝。

 元気に、そして恭しく言葉を返すヴァルカン。


 突然の出来事に、アリアとタマは「「…………ッ!?」」と息を漏らす。

 いったいどういうことだろうか。なぜ、個人経営の鍛冶店の店主に過ぎないヴァルカンが、皇帝陛下と知り合いかのように話しているのだろうか。


「なんだヴァルカンよ、仲間たちにそなたの地位を話しておらぬのか? 今回呼び出したもうひとつの理由に関わってくるというのに……」

「んにゃあ……やっぱり、私が呼び出されたのはそういうことなのですにゃ……?」

「うむ、気ままな鍛冶屋生活を望んだそなたには悪いと思うが……。まぁ、これについては我が息子に説明させるのがいいだろう。――入ってこい、〝ジュリウス!」

「――かしこまりました、陛下」


 皇帝の声に応え、玉座の近くの扉が開かれた。


 現れたのは一人の青年だった。

 身長は百八十センチを超えているだろう。

 体はよく鍛えられていることが、白銀の鎧越しでもよく分かる。

 髪は空色の首筋まである長髪、鋭く、それでいて知的さを感じさせる瞳は髪と同じ空色だ。


 彼の名は〝ジュリウス・アウシューラ〟――この国の第一皇子である。


(ジュリウス……! あの大魔導士とともに、魔神の黄昏で活躍した勇者皇子か!)


 彼の名を聞き、タマは尊敬の眼差しをジュリウス皇子に向ける。

 そう……彼はこの国の第一皇子でありながら、勇者として大魔導士とともにこの世界を救った勇者の一人なのだ。


「それにしても、本当に久しぶりだな、〝アーティファクトスミス・ヴァルカン〟」

「「…………ッ!?」」


 アリアとタマが、またもや息を漏らす。


(ア、アーティファクトスミス? ヴァルカンさんが……!?)

(なんと! まさかと思ったことが本当だったとは……!)


 アリアは内心で驚愕。

 タマは庭に世界樹が生えた一件でのヴァルカンの慌てぶりに、まさかと思っていたことが事実であったとは……とやはり驚愕する。


「にゃあ……私の正体を明かしたってことは、またアーティファクトを作れということでよろしいですかにゃ……? 殿下」

「その通りだ、ヴァルカン。そしてアリアたち、お前たちにも頼みがある」

「は……はひぃ!」


 ヴァルカンがアーティファクトスミスだった――

 その衝撃の事実に、口をあんぐりと開けていたアリアが、またもや素っ頓狂な返事をする。


「アリア、それにその仲間たち……俺の率いる〝帝国勇者団〟に入ってくれないか?」

「て、帝国勇者団って、〝あの〟帝国勇者団ですか!? そ、それに私が……?」


 帝国勇者団――ジュリウス皇子が率いる勇者や戦いのエキスパートの所属する帝国最大の戦力のことだ。

 モンスターの氾濫、結託した魔族の集団、国家で対処すべきモンスターが現れた時などにその力を振るうことで知られている。


 そしてその帝国勇者団に入れと、ジュリウス皇子は言っているのだ。


「ゆうしゃだん? なんだそれは、うまいのか? です!」


 単語の意味すら理解していないステラは、的外れなことを言い出す。


「たしか……ステラといったか? 簡単に言えば、強いモンスターとかと戦うチームに入れということだ」

「強い相手! アリア、我はゆうしゃだんに入るのだ!」

「ちょっ、ステラちゃん……!」


 強者との戦いを本能的に求めるステラにとって、ジュリウス皇子のザックリし過ぎた説明はとても魅力的だった。

 勝手に入団しようとするステラに、アリアは大慌てだ。


「ジュリウス殿下、どうしてアリアちゃんたちを勧誘するんですにゃ? 確かに、アリアちゃんは強くなってきたけど。まだまだ発展途上ですにゃん」

「ヴァルカン、もちろんそれには理由がある。まだ公表はしてないんだが――」

「ジュリウス皇子、それは私から説明するわ」


 ジュリウス皇子の声に割って入る声が一つ。


 いつの間に現れたのだろうか。

 彼の隣に、一人の少女――否、幼女が現れたではないか。


 髪の色は灰色、瞳の色は金色。

 幼い体を漆黒のゴシックドレスに包んだ、絶世の美幼女だ。

 幼い顔に、妖艶な……それでいてどこか退廃的なイメージを与える笑みを浮かべている。


「……いきなり出てくるな、〝ベルゼビュート〟。まぁいい説明を頼む」

「ふふっ、了解よ、皇子様」


 突如現れた幼女に、呆れた顔で言うジュリウス皇子。

 そしてそれにイタズラっぽい笑みを浮かべて答える彼女……。


 それを見ていたアリアとタマは、あんぐりと口を開けている。


(ベ、ベルゼビュートって……まさか、あの〝聖魔王ベルゼビュート〟!?)


 内心で驚愕するアリア、タマも同様だ。


 そんなタイミングであった――


「ふふっ、その通りよ、エルフのお嬢さん。私の名前はベルゼビュート、あなたたちが聖魔王と崇めている存在よ」


 ――幼女……否、聖魔王ベルゼビュートはアリアに向かって告げるのだった。


「…………ッ!?」


 混乱するアリア。

 今、自分は言葉を口にしてなかったはずだ。

 だというのに、まるで目の前の幼女はそれを見透かしたかのように、アリアに向かって言葉を紡いだ。


「んにゃあ、ベルゼビュート様。そうやって人を驚かせるのは良くないにゃん」

「ふふ……っ、別にいいじゃない、ヴァルカン。私が人の心を読めることくらい、みんな知ってるはずでしょう……?」


 苦笑しながら注意するヴァルカンに、ベルゼビュートはまたもやイタズラっぽく笑う。


(人の心を読む能力……噂は本当だったのか!)


 彼女たちのやりとりを見ながら、タマは得心する。

 目の前の幼女が、聖魔王ベルゼビュートだということに。


 聖魔王ベルゼビュート――


 かつて、世界を滅ぼそうとした魔神……その配下には七大魔王と呼ばれる者たちが存在した。

 そんな中で、この世界の英雄、大魔導士の味方となり彼の力を貸した正義の魔王が現れた。

 それこそが彼女なのだ。


 ベルゼビュートは人の心中を読む力を有しているという噂がある。

 タマもそれを知っていたのだ。


 アリアはあたふたしている。

 帝国勇者団に勧誘されたかと思えば、今度はいきなり聖魔王が現れ、その聖魔王とヴァルカンが親しげに話しているのだから。

 もはや彼女の頭の中はパニック状態である。


「んにゃあ、落ち着くにゃ、アリアちゃん。ベルゼビュート様の説明の前に、私から色々説明させてもらうにゃん」


 アリアを見かねて、ヴァルカンが言う。

 皇帝、ジュリウス皇子、そしてベルゼビュートがそれに頷いたところで、ヴァルカンは言葉を紡ぎ始めた。


「まず、実は私はアーティファクトスミスだったにゃ。それで、何で私が国に縛られず自由に鍛冶屋を経営しているかだけど……それは私が大魔導士――舞夜ちゃんと魔神の黄昏を一緒に戦い抜いた恩賞として、アーティファクトを勝手に作らないことを条件に皇帝陛下に認めてもらったからにゃん」

「ヴ、ヴァルカンさんが……大魔導士様と、魔神の黄昏を戦い抜いた……?」

「そうにゃ、本当は言いたくなかったけど、状況が状況っぽいからこの際言うしかないにゃ。普段は冒険者としてはCランク程度の実力しかないけど、固有スキルの効果でアーティファクトを装備してるとAランクくらいのパワーが出せるにゃん」

「んな……!?」


 ヴァルカンの過去、それと隠された力にアリアは何度目かの驚愕をする。


 彼女の足元でタマは胸中で(なるほど……)と呟いていた。

 以前から、ヴァルカンは騎士隊長のセドリックや、大魔導士と旧知の仲だったことは明らかだ。

 一介の鍛冶職人がどうして……と、タマは思ってはいたが、そういった背景があるのであれば納得だ。


「そ、そういえば……大魔導士様のパーティに、ハンマー使いの獣人……〝激獣姫〟様という方がいたと聞きますが……」

「私のことにゃん」


 まさかと思って聞くアリアに、ヴァルカンは苦笑しながら応える。


(ふふっ、可愛い子ね。こんなことで驚いてたら本題に入ったらどうなっちゃうのかしら?)


 驚きの連続でとうとう脱力してしまうアリアを眺めながら、ベルゼビュートは面白そうに笑うのだった――

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