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Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士(ペット)として暮らしてます  作者: 銀翼のぞみ
第二章

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71話 復讐

 カタカタカタカタ――


 無機質な音を鳴らしながら、幾体ものアンデッドモンスター〝スケルトン〟が都市の中を徘徊している。

 どのスケルトンも骨でできた剣のようなものを装備し、手当たり次第に人を斬りつけていく。


 飛び散る血飛沫、轟く悲鳴と怒号。

 グラッドストーンの中心部は地獄絵図と化していた。


 カタカタカタカタ――ッ!


 骨を鳴らし、まるで笑い声を上げるかのように、スケルトンが剣を振りかぶる。

 その目の前には一人の少女が……。

 恐怖のあまり声を出すこともできずにうずくまってしまっている。


「させませんっ!」


 スケルトンが剣を振り下ろす刹那――


 そんな声とともに一条の閃光が迸った。

 そしてその直後、スケルトンが音もなく崩れ去った。


「もう大丈夫です、だから早く逃げてください!」


 うずくまる少女に向け、優しげな声をかけるのはアリアだ。

 閃光の正体は、アリアが放った《セイクリッド・ブレイド》だったのだ。


「あ、ありがとうございます!」


 そう言って、少女は何とかといった様子で立ち上がると、おぼつかない足取りでスケルトンのいない方向に駆けていく。


「それにしてもなんていう数のスケルトン……。ですが都市の人々を守らなければいけません! わたしは人を襲っているスケルトンを優先的に駆逐します。タマはわたしのサポートを、ステラちゃん……暴れてください」

「にゃん(任せろ、ご主人)!」

「わははは! 我の本領発揮なのだ!」


 まるで海のような数のスケルトンを前に、アリアはタマとステラにそれぞれ指示を出す。

 本来であれば、ステラをタンクにして堅実に敵を減らしていきたいところではあるが、今はスケルトンどもが次々と都市の人々を襲っている。

 今優先すべきは自分たちが安全に戦うよりも、いかに早くスケルトンどもの数を減らすかだ。


 幸い、アリアにはつい先ほど身につけた神聖属性スキル、《セイクリッド・ブレイド》がある。

 スケルトンの弱点は炎属性と神聖属性、それに打撃技だ。

 今のアリアにとって、スケルトンは格好の餌食なのだ。


「《セイクリッド・ブレイド》ッッ!」


 人に襲いかかろうとするスケルトンに向けて、アリアが再び《セイクリッド・ブレイド》を放つ。

 白銀の閃光がスケルトンの首を刎ね飛ばす。


 そんなアリアの背後から、別のスケルトンが剣を振り下ろしてくる。

 アリアはそれに気づいているが、目の前にいるもう一体のスケルトンの相手に集中する。


 彼女は信じているのだ。

 自分の愛すべき騎士(ペット)――タマが守ってくれることを。


「にゃあ(ご主人をやらせるか)!」


 アリアの期待通り、タマはすぐさま行動に出る。

 可愛らしい声で咆哮すると、お尻から伸びたこれまた可愛らしい尻尾に真紅の輝きが灯る。

 その直後、ボウッ! という音とともに、タマの尻尾から柱のように火が飛び出した。

 火の柱はアリアに襲いかかるスケルトンに向かって伸びながら収束する。

 収束したその姿は、まるで炎の長剣のようだ。


 斬――ッッ!


 炎の剣がスケルトンを頭から叩き割った。

 そのタイミングでアリア自身も目の前のスケルトンを葬り去る。


「タ、タマ……あなた近接系スキルも持っていたのですか!?」

「にゃ〜ん!」


 ここにきて新たなスキルをお披露目したタマに、アリアは驚きの声を上げるも、タマは可愛らしい声でそれに答えるのみだ。


 タマが発動したのは、固有スキルである《属性剣尾》が一つ、《フレイムエッジ》だ。


 都市を守るため、タマは《触手召喚》などでアリアを援護するだけでは手が足りないと判断した。

 敵の数を減らすため、今まで隠していた近接系スキルも披露することに決めたのだ。


 敵の数を減らすのであれば、射程と範囲に優れた《属性咆哮》の《フレイムハウリング》を選択すべきだが、今回は人や建物がある市街地のため、炎を燃え広がる危険があるスキルは使えないのだ。


「あれは! 我を一刀のもとに葬り去った炎の剣! 我も負けてられないのだ!」


 転生前、アースドラゴンだったステラを一撃で倒したタマのスキルを再び目の当たりにし、ステラの闘争本能に火がついたようだ。

 スケルトンどもが密集しているところに突撃し、メガシールドとグレートソードを振るい、バッタバッタと敵を葬り去っていく。


 先にも述べたとおり、スケルトンは打撃攻撃にも弱い。

 ステラのメガシールドによるチャージアタックは効果覿面であり、斬るというよりは叩き潰すのに特化したグレートソードによる攻撃も同様だ。


「見ろ、冒険者が戦っているぞ! 総員、加勢するぞ!」

「「「了解っ!」」」


 敵の数を一割ほど減らしたところだろうか、そんな声が戦場に響き渡る。


「ダニーさん!」


 額の汗を拭いながら、アリアがパッと表情を明るくする。


 そこにはハワード、ケニー、マリエッタ、それに恐らくこの都市の騎士団と思しき隊員たちを引き連れたダニーが立っていた。


 ダニーの号令で、騎士たちが一斉にスケルトン目掛けて突撃する。

 さすがは正規の部隊だ。

 スケルトンを次々と駆逐していく。


「騎士だけじゃない、俺たちもいるぞ!」


 今度は反対側から声が響く。


「依頼ってわけじゃないが、この都市がなくなったら仕事がなくなっちまうからな、みんな行くぞ!」


 そう言って、こちらもスケルトン目掛けて駆け出していく。


 ジョーイだ。仲間を引き連れたジョーイが加勢に来たようだ。


 ジョーイたちは手練れの冒険者だ。

 騎士団の面々には劣るものの、仲間と協力して着実にスケルトンの数を減らす。


(これなら何とかなりそうですね……!)


 皆の加勢に、アリアはそう確信する。

 そして隙を見計らい、太もものベルトからポーションを取り出して素早く飲み干す。


 どうやら、《セイクリッド・ブレイド》は火力が高い分、マナの消費が激しいようだ。

 数発放っただけ大きくマナを消耗してしまったのだ。


「これは困りましたね、計画では今頃中心部の人間たちを皆殺しにして、伯爵の屋敷に向かっていたはずなのですが――」


 アリアがポーションを飲み干したところで、そんな声が彼女の耳に聞こえてくる。


 声のした方向を見ると、そこはレイスの商会だった。

 その扉の前で、レイスが血走った瞳をして佇んでいた。


「レイス……さん? 今何を……いえ、それよりも何故二人があなたのもとにいるのですか!?」


 アリアが驚愕に目を見開きながらレイスに問いかける。

 何故なら、レイスの足元には虚ろな瞳で立ちすくむ、リリとフェリがいたのだから。


「彼女たちには私のマジックアイテムで従ってもらっています。〝妖精隷属の鈴〟というアイテムなのですがね……」


 そう言って、レイスは左手をアリアに見せつけるように掲げる。

 手の中には鈴のようなアイテムが収められていた。

 その拍子に鈴型のアイテムが「リーン……」と音を鳴らす。

 それと同調するように、リリとフェリの体に青白い波紋のようなものが広がってゆく。


「その音、それに様子のおかしいリリちゃんとフェリちゃん……レイスさん、二人を迷宮で攫ったのですね!? いったい何が目的ですか!」

「ククク……その通りですアリアさん、二人は私が攫いました。目的は……こうするためです!」


 アリアが森で聞いた音、それはレイスの持つ妖精隷属の鈴によるものだった。

 鈴の音色を迷宮で聞いていたアリアはそれに気づいたのだ。


 レイスは邪悪を感じさせるような笑みを浮かべると、今度は右手を掲げる。

 手中には矢のようなものが握られている。


「「あぁぁぁぁぁぁぁッッ!」」


 レイスが矢を掲げると、リリとフェリが苦しげな声を轟かせる。

 それと同時、レイスの持つ矢に二人の体から光のようなものが集まっていく。


「いったい何を! やめなさい!」

「にゃあ(外道め)!」


 何をしているのかは分からないが、レイスはリリとフェリの自由を奪った挙句、苦痛を与えている。

 アリアとタマが動く理由はそれだけで十分だ。


「《クリエイト・スケルトン》ッッ!」


 アリアとタマが動くのと同時、レイスが声を上げる。

 アリアとタマの目の前に紫電が迸る。

 紫電が通り過ぎたかと思えば、そこに十体以上のスケルトンが現れた。


「アンデッドの召喚……レイスさん、あなたは〝ネクロマンサー〟だったのですか!?」

「その通りです、アリアさん。私にはアンデッドを作り出すスキルがある。そしてこのスキルを使い、この都市を滅ぼして伯爵に復讐を果たすのです……!」


 目を見開き、唾を飛ばしながら、レイスが激昂した様子で叫ぶ。


(復讐……そういうことか)


 タマはジョーイに聞いた会話を思い出す。

 レイスの婚約者が伯爵の手によって慰み者にされた挙句、死体になって帰ってきたという話を――


 レイスはこの都市を滅ぼすことによって、伯爵から全てを奪うつもりなのだろう。

 自分が愛する婚約者を奪われたように……。


「ですが、これまで私はそれを実行できなかった。私の保有するマナがあまりにも少なかったからです。今まではせいぜい二体程度のスケルトンしか呼び出すのが限界だったのですが、二人のおかげで膨大なマナを得ることが可能になったのです……!」


 長年の恨みを解き放つかのように、レイスはアリアとタマにスケルトンをけしかけながら語りだす。


 リリとフェリをさらったのは復讐に利用するためだった。

 妖精族はその身に膨大なマナを秘めている。

 そのマナを手に入れるために妖精隷属の鈴で二人を服従させ、さらに右手に持った矢の形をしたマジックアイテム、〝マナドレインアロー〟を使って二人からマナを吸収することに成功したと――


「妖精族のマナは素晴らしい、この私が都市を滅ぼせるに足る数のスケルトンを呼び出すことを可能にしたのだからな!」


 とうとうレイスは普段の口調など忘れて、そう言い切った。


 そのタイミングで、アリアとタマは目の前のスケルトンどもを全て片付けた。

 ステラも大暴れした体力を回復させるため、アリアたちに合流する。

 周りでは、今も騎士たちと冒険者たちがスケルトンどもと交戦中だ。


「ですが、その計画は無駄に終わります。私たちが食い止めてみせます!」


 アリアがレイスにナイフの切っ先を向け高らかに宣言する。

 そんなアリアの言葉を受け、レイスは――


「残念ながらそれは不可能だ。何故なら私には〝切り札〟があるのだからな……!」


 そう言って、レイスは宙に両手を掲げる。


 そしてその直後――


 ドゴォォォォォォォォォォォンッッ!


 そんな轟音とともに、レイスの商会が吹き飛んだ。

 そしてその場に、とんでもない巨体が現れた。


「これは……!?」

「にゃあ(アースドラゴンの骨格だと)!」

「おのれ! 我の体を操っているのか!?」


 タマとアリアが驚きの声を上げる。

 ステラは歯ぎしりしながら忌々しそうに叫ぶ。


 現れた巨体――それは、アリアたちが護衛対象としてこの都市まで運んできた、アースドラゴンの骨格だった。

 だが、ただの骨格ではないことは明らかだ。


 骨格からは黒い瘴気のようなものが噴き出ており、生きているかのように佇んでいる。

 そして、レイスの体からも同じように瘴気が噴き出している。

 ステラが言った通り、レイスはSランクモンスターたるアースドラゴンの骨格を操っているようだ。


「さぁ、やれ! アースドラゴン――いや、〝アンデッドドラゴン〟よ! 私の復讐を邪魔する者に死を与えるのだッッ!」


 グオォォォォォォォォォォォォォッ!


 レイスの呼びかけに応え、アースドラゴンの骨格――アンデッドドラゴンが雄叫びを上げる。


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