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Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士(ペット)として暮らしてます  作者: 銀翼のぞみ
第二章

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70話 伯爵の悪事と都市の異変

「リリちゃんとフェリちゃん、見つかりませんでしたね……」

「にゃあ(ご主人)……」


 グラッドストーンへと戻ってきた一行。


 アリアが寂しげに呟く。

 リリとフェリはいったいどこへ行ってしまったのだろうかと……。

 心なしかステラも元気がない様子に見える。


「お? アリアちゃんじゃねーか」


 落ち込むアリアたちの耳に、そんな声が聞こえてくる。

 振り向くとそこには甲冑姿の数人の男女が立っていた。


「ダニーさん? それに皆さんも……どうしてここへ?」


 現れたのは迷宮都市の騎士団、その一番隊の面々、ダニーにハワード、それとケニーにマリエッタだった。

 隊長であるセドリックの姿は見当たらないようだが……。


「この都市の騎士団と合同訓練しに来たんだ」

「年に数回、都市同士で合同訓練を行っているのである」


 アリアの問いに、ダニーとハワードが答える。

 彼らの言う通り、迷宮都市とグラッドストーンの騎士団は年に数回、団員たち同士の合同訓練を行っているのだ。


「隊長は他の用事があって、今は他の都市に足を運んでるよ」

「もしかしたら極秘の任務を遂行していたりするかもしれないのですぅ」


 アリアがセドリックの姿を探してキョロキョロしていると、それに気づいたケニーとマリエッタがそのことを教える。


「ところでアリアちゃん、そっちのべっぴんさんは誰なんだ?」

「あ、皆さんにはまだ紹介してませんでしたねっ、この()はステラちゃんといって、少し前からわたしたちのパーティに加わったのです」

「へぇ、新しい仲間か! よろしくなステラちゃん」


 アリアがステラを紹介すると、ダニーたちも自己紹介を始める。

 ステラも不器用ながらも、それに応えるのだった。


「それにその盾、もしかしてヴァルカンさんのところに置いてあったメガシールドか?」

「そういえば、この盾はヴァルカンさんの仲間だったサクラさんが使っていたと言ってました。サクラさんはダニーさんたちの前の隊長でしたっけ?」

「ああ、その通りだ。まさかその馬鹿でかい盾を使えるやつが現れるとは思わなかったな」

「ダニーそろそろ時間なのである」

「おっと、そうだったなハワード、忘れるとこだったぜ。んじゃアリアちゃん、俺たちはこれから演習があるからこの辺で失礼するぜ」

「はいっ、頑張ってくださいね」


 アリアたちに別れを告げて、去っていくダニーたちをアリアが見送る。


 知り合いに会えたことで、幾分か気分がマシになった――そんな表情をしている。





「あれ? 今日はレイスさんの商会はお休みみたいですね?」


 トレントドレイクの素材を買い取ってもらおうと、レイスの商会へと足を運んだアリアたち。

 しかし、商会は閉まっていた。


「仕方ありません、今日は諦めて宿屋に戻りましょう」


 この都市のギルドに行って、素材を買い取ってもらうという手もあるが、それでは手数料を取られてしまう。

 それではもったいないので、明日また出直すこととするのだった。





「失礼、あなたがアリアさんですかな?」


 宿屋へと戻ってきたアリアたち。

 そんな彼女たちに一人の初老の男性が声をかけてきた。

 燕尾服を着ているのを見るに、貴族の家の執事といったところだろうか……。


「はい、そうですが……」


 燕尾服の男に、アリアは不安げに答える。

 その反応も当然だろう。

 なにせ、この都市の貴族といえば、ジョーイから聞いた悪名高い伯爵しか思いつかないのだから。


「ふむ、それは結構。この都市の領主、グラッドストーン伯爵様が貴女を屋敷にお呼びです。ついてきていただきます」


 やはりこの執事は伯爵の手の者だったようだ。

 無表情で、まるで従うのが当たり前かのように、淡々とアリアに命令する。

 どうやらこの短期間に、アリアのズバ抜けた容姿は噂になり、伯爵の耳に入ったようだ。


 周りを見渡せば、哀れんだ表情で店の客たちがアリアを見守っている。

 伯爵に目をつけられた者がどんな末路を辿るのか皆知っているのだろう。


 大切なご主人を行かせてたまるか!


 そんな表情で、タマは執事を睨みつける。


「……っ!? と、当然ながら拒否権はありません。この都市で伯爵様に従わなければ、貴女は罪人として裁かれることになります」


 タマに睨まれ、執事は怯むものの、すぐさま伯爵の威光を思い出したのか強気に出る。

 衆目の前だというのに、逆らえば偽の罪で罪人に仕立ててやると、堂々と脅してくる。


「それに、そちらの貴女も見目麗しい。きっと伯爵様も気にいるでしょう、ついてきなさい」

「何を言ってるのかよく分からないが、断るのだ」


 ステラにもついてこいという執事に、ステラはいつものような不遜な態度で「ふんっ」とそっぽを向く。


 少し前の彼女であれば、命令されたことに怒りを覚え、執事を始末していたことであろう。

 だが、アリアたちと触れ合うことで、彼女もここ最近で随分と丸くなった。

 むやみに人を襲う心配もなくなったのだ。


「ステラちゃん、ここはついていきましょう」

「にゃあ(ご主人)!?」


 アリアの言葉を聞き、タマは驚愕の声を上げる。

 だが、アリアの表情を見て、すぐに(なるほど、そういうことか!)と、納得する。


 ここで逆らえば無実の罪で裁かれることとなる。

 ならば伯爵のもとに自ら赴き、噂の真偽を確かめ、隙あらば正義の名の下に伯爵を裁いてやろうとしているのだ。


 アリアは頭の良い少女だ。

 それを成功させるための切り札が今の彼女にあることを理解している。


 そして、タマもその考えに至ったようだ。

 執事を睨みつけるのをやめて、アリアに大人しく抱かれるフリをする。


「よろしい、では表に馬車を待たせてありますので乗り込みなさい」





 執事の命令で、アリアたちは馬車に乗り込む。


 ステラは抵抗を示したが、後でお腹いっぱい美味しいものを食べさせてあげますというアリアの言葉に従うのだった。


「ほほう! なんと見目麗しい! これほどの美少女を見るのは生まれて初めてだ!」


 馬車に揺られること数分。

 アリアたちは伯爵の屋敷へとたどり着くと、客室へと通された。

 待たされることしばらく、そんな言葉とともに豚のように太った醜い男が現れた。

 服装は悪趣味なほどに派手なローブ。

この男こそ数々の女性をその手で汚し、幾人もの人々を不幸にしてきたグラッドストーン伯爵なのだろう。


「お初にお目にかかりま――」

「下らん挨拶は不要だ! まずは茶を飲め!」


 一応、形式的にアリアが挨拶しようとするも、伯爵はそれを制し、使用人の用意した紅茶を飲めという。

 この様子……まるで最初からそれが目的だったように感じる。


 警戒心を露わにしながら、アリアはティーカップを口元へと運ぶ。

 そして小さな声で「タマ、お願いします」と呟く。


 無論、タマもそのつもりだった。

 アリアがティーカップに口をつけるその刹那――


「にゃん!」


 と鳴いて、《獅子王ノ加護》を発動する。


 突然黄金色の輝きに包まれたアリアを見て、伯爵が「何事だ!?」と声を上げる。


 そんな伯爵などお構いなしに、アリアは一口紅茶を飲み込むと「ふふっ、なかなか良いお味です。伯爵様」と微笑を浮かべる。


 それを見て、伯爵はさらに目を見開いて愕然とする。


 そんな伯爵にアリアは……。


「残念ながら、この紅茶に盛られた毒はスキルによってレジストさせていただきました。毒には媚薬効果と催眠効果があったようですね?


 と鋭い視線で伯爵に言う。


 やはり毒が盛られていたようだ。

 だが、タマの《獅子王ノ加護》に守られたアリアに毒の類は通用しない。

 それどころか、レジストしたことによって毒の種類まで突き止めることに成功する。


「な、何の話だ! 私は紅茶に毒など盛ってはおらん!」

「そうですか、では試しにこの紅茶を飲んでみてくださりますか?」

「く……ッ!」


 アリアに詰め寄られ、伯爵が目に見えて狼狽する。


 追い詰めた!


 アリアがそう確信した瞬間だった――


「大変です伯爵様ッッ!」


 バーンッという音とともに、部屋の扉が開け放たれた。

 そして、使用人が血相を変えて飛び込んでくる。


「何事だ! 今はそれどころでは――」

「アンデッドが! アンデッドの軍勢が突如都市の中央に出現しました!」

「何だと!? どういうことだ!」


 使用人の言葉に、伯爵が動転した様子で聞き返す。

 この様子を見るに、追い詰められた状況から逃げ出そうとしているというわけではなさそうだ。


「大変です! タマ、ステラちゃん、都市の中心部に向かいますよ!」

「にゃん(了解だ、ご主人)!」

「よく分からないが、大暴れできそうなのだ!」


 伯爵を追い詰めたところではあるが、もし今の話が本当なら一大事だ。

 正義感の強いアリアとタマとしては見過ごすことはできない。

 ステラも何だか面白そうだという理由で、ともに屋敷を飛び出すのだった。


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