140話 異世界でも猫乳はさみ
翌日――
族長であるミナは、昨日の言葉とおり、捜索隊の編成と各所へ情報収集のために書状を出してくれた。
これでどこかで異変が起これば、このホロの里に情報が入ってくる手はずが整った。
アリアたちも捜索隊に加わろうと考えたのだが、何か情報が入ってきた時に、いつでも動けるようにした方がいいというシエルの言葉を受け、里で待機することとなった。
「何だか、こんなにゆっくりするのは久しぶりな気がしますね……」
「にゃ〜ん」
ミナの屋敷の庭で寝そべりながら、青い空を見上げるアリアとタマ。
季節は初夏らしく、少し暑い太陽の光が二人を照らしている。
このところ冒険と戦いの連続だった。
ここに来て急に待機と言われ、どう過ごしていいかわからないといった様子だ。
庭では、リリとフェリもまったり過ごしており、ステラは木剣を借りて素振りをしている。
セドリックとマイは、姪と叔父同士で散歩に出かけ、シエルは昔の仲間に会いにいくと言って出かけた。
ヴァルカンに関しては、この世界の武具を見て回りたいと言って、ミナの知り合いの工房を案内してもらっている。
「でもこんな日も悪くはないですね」
そう言って、タマを自分の胸の上に抱き上げ、愛おしげに撫でるアリア。
久しぶりに見せた主人の穏やかな表情に、タマは「にゃ〜ん」と、満足げに頷くのであった。
◆
一週間後――
屋敷で過ごすアリアたちの間に、重苦しい空気が流れていた。
魔王ベルフェゴールに関する情報が、何一つ入ってこないからだ。
「嫌な予感がするの……」
「僕もマイちゃんに同感だね。魔王ともあろう存在が、何一つ目立った行動をしていないなんておかしい」
マイの言葉に頷くセドリック。
今のこの状態は、まるで嵐の静けさのようにも感じる。
「う〜イライラするのだ! 我は早く戦いたいのだ!」
もともとモンスターであったステラは、今の動こうにも動けない状況に、かなりのストレスを感じているようである。
そんな時であった――
「皆さん、少しいいですかね?」
――重苦しい空気の中、そんな声とともにミナが部屋に入ってきた。
「どうしました、ミナ?」
「シエル様、皆さんよろしければ湖に行ってきてはいかがです? ちょうど今日から水開きなのですよねぇ」
朗らかに笑いながら、そんな提案をしてくるミナ。
話を聞けば、今日は湖での遊泳が解禁される日とのことだ。
「おお! 泳げるのか!」
「楽しそうね!」
「水浴びは気持ちいいのです〜!」
ミナの言葉を聞き、ステラ、リリ、フェリは大はしゃぎだ。
それを見て、優しい笑顔を浮かべるミナ。
どうやら重苦しい空気に包まれた皆を気遣って、提案をしてくれたようだ。
湖で泳ぐために、さっそく里の服飾店に出かけるアリアたち。
そこで色々な種類の水着が売っているとのことだ。
◆
一時間後――
「ぐははははは! 気持ちいいのだ!」
湖で豪快に泳ぐステラ。
彼女の水着は機能性を重視して競泳水着のようなものを選んだ。
それでも胸の谷間は強調され、スラッとのびた脚が眩しく見える。
「水遊びなんて久しぶりなの!」
「あはは! 楽しいわね!」
「水かけっこなのです〜!」
浅瀬で水をかけ合いながら遊ぶ、マイ、リリ、フェリ。
三人の水着は可愛らしいフリルのついたワンピースタイプのものだ。
リリのサイズがあるかどうか不安であったが、この世界にもサイズ調整の魔法スキルがあるらしく、店の人間にサイズをピッタリにしてもらったので問題なしだ。
「んにゃ〜、日差しが気持ちいいにゃん〜」
浜辺で気持ちよさそうに伸びをするヴァルカン。
選んだ水着は純白のビキニタイプのものだ。
彼女の薄い褐色の肌を、白の水着がより映えさせる。
ロリ顔に反する魅惑的なボディのギャップも最高だ。
「アリア、私もタマちゃんを抱っこしたいのですが……」
「ダメですよ、シエル様。今日はタマに私の水着姿に夢中になってもらうのです♪」
ヴァルカンの隣で、そんなやり取りを交わすシエルとアリア。
シエルは髪の色と同じブルーシルバーの水着を選んだ。
しかしただの水着ではない。彼女が選んだのは、まさかのスリングショットである。
普段は外套に隠れている彼女の美しい肌が、これでもかと露出され、非常に眩しい……。
そして、アリアはだが……彼女が選んだのは黒のビキニだ。
しかし、こちらもただのビキニではなく、そのサイズは極小でありローライズだ。
こちらも純白の肌、魅惑のクビレ、程よく丸みを帯びた臀部、そしてメロンサイズの双丘が、これでもかと大サービス状態である。
そんな中――
(く……っ、目のやり場に困る……!)
――アリアの胸に抱かれ、心の中で苦悩するタマ。
どこを見ても肌色面積の高い美少女まみれ。
風呂で彼女たちの肌を見たことがあるとはいえ、水着だとまた見え方が変わってくる。
「むぅ……ちょっとくらいいいじゃないですか」
どうしてもタマを抱っこしたかったのか、アリアに抱かれるタマに、シエルが自分の胸を押しつけてきた。
(ひぃ……っ!?)
心の中で悲鳴を上げるタマ。
まさかステラ以外にも〝猫乳はさみ〟をしてくる者がいようとは……。
アリアの極小ビキニと、シエルのスリングショットに包まれるタマ。
心を無にして、素数を数え始める。
しかし、皆にとっていい気分転換となったようだ。
その表情に、先ほどまでの深刻さは見えない。
ミナの気遣いに、タマは感謝するのであった。
……ちなみに、セドリックは「女の子の肌なんて見てられるわけないだろ☆」と言って、他の場所へと散歩へ出かけたのだが……それはさておく。