表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/206

122話 氷の女勇者

「……やはり、未来から魔王が現れた影響か、モンスターの数が増えてますね」


 一階の中ほどまで進んだところで、シエルが呟く。


 奥からは、またもやリビングアーマーの集団が押し寄せてくる。

 そしてその中には、B +ランクの〝アーマードウルフ〟も混ざっており、その上にリビングアーマーが騎乗しているのが窺える。


 数は先ほどの倍くらいである。


「次は私の力を見せましょう」


 そう言って、一歩前に出るシエル。


 すると自分の外套に手をかけ、勢いよく脱ぎ去った。


「バ、バニー……ガール……?」


 キョトンとした表情で呟くアリア。


 ……そう、シエルの外套のしたはバニースーツと網タイツ、そしてハイヒールを身につけた、天然のバニーガールだったのだ。


「来なさい……《セルシウスブレイド》ッ!」


 高らかに叫び、右の掌を掲げるシエル。


 すると彼女の手の中に、蒼い光を放つ氷の剣が現れた。


 ダ――ッ!


 と、その場から飛び出したシエル。


 凄まじい速さだ。


 タマの《獅子王ノ加護》を付与されているとはいえ、《アクセラレーション》を発動したアリアに匹敵するほどである。


『『『……ッッッッ!?』』』


 目にも止まらぬ速さで、懐へと飛び込んできたシエルに、敵どもが驚愕に目を見開く。


 しかし、敵もさすがはBランク帯のモンスターたちだ。

 すぐさま態勢を整え、リビングアーマーは剣を振りかぶり、アーマードウルフは牙を剥き、シエルに飛びかかってくる。


「遅い」


 静かに……そう言って、氷の剣――《セルシウスブレイド》を片手で地面へと突き立てるシエル。


 そしてそのまま――


「凍りなさい……《セルシウスサークル》!」


 ――スキルの名を叫ぶ。


 するとどうだろうか。


 シエルを中心に半径五メートルほどの、蒼い光を放つ魔法陣のようなものが地面に浮かび上がった。


 そして次の瞬間、魔法陣の上存在する全ての敵が、一斉に凍りついたではないか。


(氷結効果を持つスキル……。聞いたことがあるぞ、ウーサルダペークラ王国の勇者は、氷の力を操る女勇者だという噂を……!)


 あの噂は本当だったのか! と、タマは圧倒的な力を見せつけるシエルを見つめる。


「これが、シエル様の力……!」


「ただ剣を地面に突き立てるだけで、アレだけの範囲攻撃を可能にするとは……驚きなのだ!」


 現役の勇者の力を目の当たりにし、アリアとステラは驚愕の声を上げる。


 しかし、当のシエルは何とも涼しい顔だ。

 アレだけの大技を放ったにも関わらず、特に消耗した様子も感じられない。


「その蒼白い光……その剣からは氷属性だけじゃなくて、神聖属性の波動も感じるね」


「ええ、あなたの言う通りです、セドリック。さすがは大魔導士様の義兄……よく気づきましたね」


 セドリックの問いに、小さく頷きながら答えるシエル。


(なるほど。あの蒼白い光は、神聖属性を含んでいる証であったか……。ということは、アレはただの氷の剣ではなく、氷の聖剣というわけか……)


 シエルの氷の剣……否、氷の聖剣 《セルシウスブレイド》を眺めるタマ。

 他にどんな力をシエルが秘めているのか、騎士として期待に心を弾ませる。


「ところで、どうしてシエル様はバニーガールの格好を……?」


「ああ、コレは私の一族の戦闘服です。何より、私はスピード主体の戦い方をするので、コレが動きやすいのです」


 アリアの何の気なしの問いに、シエルは地面から《セルシウスブレイド》を引き抜きながら、そう答えるのでった。


 ◆


「なるほど、地下に降りるわけですね」


「ええ、魔王ベルフェゴールが封印されているのは、この迷宮の最下層です」


 アリアの問いに、階段の前で答えるシエル。


 迷宮一階をしばらく行くと、地下へと通じる階段が現れた。

 階段の奥からは、肌を刺すようなプレッシャーのようなものを感じる。


「間違いないの。未来の世界のベルフェゴールと同じ反応がするの!」


 胸元からコンパスのようなモノ取り出したマイが声を上げる。

 彼女の話を聞くに、それは魔王の反応を測る特別な魔導具ということだ。


 詳しい話を聞いても、恐らく答えてはくれないだろうと判断し、アリアたちは先に進むことにする。


 ◆


「アレは……ゴブリンの群れか」


 階段を降りたところで、遠くの方を眺めながらセドリックが呟く。


 彼の視線の先には、百は超えるであろう数のゴブリンの群れがあった。


「それだけじゃないにゃん、真ん中にいるのは……」


「ああ、アレは〝ゴブリンキング〟だね、ヴァルカンさん」


 ヴァルカンの言葉に応じるセドリック。


 ゴブリンの群れ、中心には黄金色の鎧を着込んだ、三メートルはあろうモンスターが座している。


 そのモンスターの名はゴブリンキング――


 ゴブリンの最高位進化種であり、Aランクに位置するモンスターだ。

 強力な戦闘スキルの他に、ゴブリンを統率・自在に操る能力を持っている。


 ――ステラ、少しいいか?


 ――おお! タマよ、どうしたのだ!


 タマから送られてきた念話に、嬉しげに応えるステラ。


 そんな彼女に、タマは……。


 ――ちょうどいい機会だ。ここで我が輩とお前との連携力を皆に披露しよう。


 ……と、提案する。


 ――ぐふふっ、秘密の特訓の成果を見せるのだな! わかったのだ!


 元気よく念話で応えるステラ。


 この半月間、タマが夜中に迷宮へと出かける度に、ステラもあとについてきていた。

 どうせついてきてしまうならば……と、新たなスキルを使って、彼女との連携を高める特訓をしていたのだ。


「ここは我とタマに任せるのだ!」


 そう言って……右手のクラウソラスと、左手のカラドボルグを構えて歩き始めるステラ。

 そんな彼女の横に寄り添うように、一緒に歩き始めるタマ。


 二人から絶対の自信を感じ取ったアリアは――


「わかりました。タマ、ステラちゃん、ここは任せます」


 ――と、二人を送り出す。


「さぁ、我らの連携を見せてやるのだ!」


 威勢の良い声とともに、ゴブリンの群れに向かって、ステラが駆け出す。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ