121話 魔王のもとへ
翌早朝――
「シエル様、どうかご無事で……」
屋敷の門の前で、悲痛な面持ちでシエルを見つめるメイドのマリ。
そんな彼女に――
「大丈夫ですよ、マリ。魔神の黄昏の時のように、必ず帰ってきますから」
――優しい笑みを浮かべながら、応えるシエル。
王都ウルハ――ここから数十キロほど離れたところに、七大魔王が一柱、ベルフェゴールがいる迷宮が存在する。
マリに別れを告げると、一行は迷宮を目指す。
◆
二時間後――
「ここがその迷宮ですか……」
「情報通り、遺跡型の迷宮みたいにゃん」
アリアとヴァルカンが、目の前の広大な建物を見上げながら言葉を漏らす。
ノールとフレイアが引く馬車に乗って、迷宮の前へとやってきたアリアたち。
ヴァルカンの言う通り、今回の迷宮は遺跡――それも神殿のような見た目をしたものだった。
「ここの迷宮は低層であっても、それなりのモンスターが出現します。多いのは〝リビングアーマー〟などのBランクモンスターです」
迷宮を見上げる皆に、シエルがそんな説明をする。
そんなシエルの言葉を聞きながら、タマはアリアの胸から地面へと降りると――
(魔王が潜む迷宮……ならば出し惜しみはなしだ! 《獅子王ノ加護》、発動……ッ!)
――と、可愛らしい声で鳴いて、固有スキルを発動する。
黄金色の輝きに包まれる一行。
「これは……すごいですね、あらゆるステータスが向上していきます」
「それだけじゃないの! 毒や麻痺、睡眠……色んなバッドステータスの抗体ができていくの!」
驚き、そして興奮の声を上げるシエルとマイ。
そんな二人に、タマは「ドヤっ!」とした表情を浮かべる。
「まさか、こんなに小さなエレメンタルキャットが、ここまでのスキルを持っているなんて……」
「さすがは聖獣と呼ばれることはあるの!」
アリアの説明により、タマのスキルだと理解したシエルとマイ。
興奮する二人に、タマの飼い主であるアリアも「ふふっ」と、少しだけ得意げな表情をする。
「それじゃあ、入るとしよう。みんな、心の準備はいいかい?」
セドリックがいつもの爽やかな笑みを浮かべて、皆に問いかける。
アリアとタマ、リリとフェリは緊張した面持ちで。
ヴァルカンとステラは少し好戦的な笑みを浮かべて。
シエルとマイは涼しげな表情で、それぞれ頷いてみせる。
◆
迷宮の中――
それは、窓はないというのに、仄かな光に満たされた不思議な空間だった。
元々は教会か何かだった建物が迷宮化したのだろうか?
ひび割れた天使の像や、塗り潰された絵画などが辺りに散乱している。
「この迷宮には何度か来ています。皆、私の後についてきてください」
そう言って、先頭を歩き始めるシエル。
その後に前衛としてステラとヴァルカン、中衛としてアリアとタマ、後衛としてリリとフェリ、そして殿としてセドリックとマイの順番でついていく。
歩き出して少し経った頃――
奥の方から金属がぶつかり合うような音が聞こえてくる。
「出ました、リビングアーマーです。皆、戦闘態勢を――」
敵の正体にいち早く気づいたシエルが、皆に呼びかける。
彼女の言う通り、現れたのは意思を持つ鎧、リビングアーマーだ。
数は十体、アリアたちを取り囲もうと、散開しながら迫ってくる。
「シエル様、ここは任せてください! タマ、お願いします!」
「にゃん(了解だ、ご主人)!」
アリアの声に応えて、タマが皆の前へと躍り出る。
戦闘態勢に入ろうと腕を前に伸ばしたシエルだが、アリアとタマの自信溢れる表情を見て、この場を任せることにする。
敵が広範囲に広がるならこれだ――!
敵の陣形を把握したタマは、固有スキルを発動する。
「にゃあ(《ウォーターハウリング》)ッッ!」
可愛らしい声で鳴くと、タマの口から水属性の咆哮が放たれた。
高圧縮された水の咆哮は、右端のリビングアーマーの土手っ腹を貫いた。
それだけでは終わらない、タマはそのまま一気に首を左へと振り抜く。
迫ってきたリビングアーマーたちの群れは、水の咆哮によって腹から真っ二つに切り裂かれるのだった。
「な、なんというスキルでしょう、使い回しがいいのに、とんでもない威力です」
「それなのにタマちゃんのマナはあまり減ってないの!」
またもや驚きと興奮の声を上げるシエルとマイ。
と、ここで……アリアがとある疑問を抱く。
「マイ様、少しよろしいでしょうか?」
「どうしたの? アリアお姉ちゃん?」
「今、タマのマナが減ってないと言ってましたが……まさか、マイ様は他者のマナの保有量を見ることができるのですか?」
他者の持つマナの保有量を把握する……そんな技術を持つ者はそういない。
しかし、マイは今確かにタマの持つマナの量に関して言及していた。
アリアの質問に対して、マイは(しまった!)みたいな顔をして、慌てて口を手で塞ぐ。
「ふむ、どうやら今の質問は、未来の世界に関わるような項目らしいね」
マイの様子を見て、フォローするようにセドリックが言葉を紡ぎ、アリアに視線を送る。
どうやら、聞いてはまずかったことのようだと理解したアリアは、それ以上質問することをやめる。
(おじさま、ありがとうなの! 助かったの!)
小声で、セドリックに礼を言うマイ。
そんなマイに苦笑しながら、セドリックは思い出す。
(そういえば……弟くんは、マナに関するトンデモナイ研究を進めてたっけ……)
と――




