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113話 少女の旅立ちなの!

 とある夜の〝孤島〟――


 この島は全体が特殊な結界に覆われており、外界からは一切干渉することは出来ない。

 浜辺の先には整備された道が続き、島自体は小さいながらも機能的に区画整理されているのが見て取れる。


 そんな島の中心部に、東洋造り――いわゆる日本式と思しき巨大な城がそびえ立つ。


 城は3階建てで深い掘りがあり、その周囲を揺らめく体を持つ半幽体のアンデッド〝幽鬼〟や、鎧で武装した骨のアンデッド〝スケルトン〟――その他諸々のアンデッドたちが徘徊……否、警備している。


 どういうことだろうか。

 アンデッドだというのに、彼らからは邪気が感じられない。

 それどころか、どこか陽気な印象すら受ける。


 さらに言えば、アンデッドたちの動きは不自然だった。通常、ほとんどのアンデッドは生者への憎しみに囚われた凶悪なモンスターであり、理性を持たない。

 だが、ここにいるアンデッドたちはまるで何かに統制されているかのように、城を警備している。


 それもそのはず。アンデッドたちは、この島の王の力により生者への憎しみから解放された者たちなのだから。

 アンデッドたちは呪縛から解き放ってくれた王に忠誠を誓い、自ら王のために警備に従事してるのだ。


 警備だけではない。この島にはこれらの他にも様々なアンデッドが仕事に従事している。

 何を隠そう、この島の道の整備や建物の建築。区画整備をやってのけたのは、ほとんどがアンデッドたちなのだ。


 そして、そんな硬い警備に守られた城の一室。床は畳、扉は襖。

 生け花や壺などが飾られ、城と同じく和を思わせる空間で――


「〝マイ〟……。本当に行くのか? お前がいなくなったことを知れば、お前の父と母――〝舞夜〟と〝凛〟は悲しむぞ?」


「大丈夫なの! いなくなると言ってもちょっとの間だけだし、無事に改変(・・)が終われば、マイはこの時間(・・・・)に戻ってくるの! だから、〝インペリアル〟様も心配しないで?」


 一人の美女と、小さな美少女がそんな会話を交わす。


 インペリアルと呼ばれた美女――漆黒の長髪に百九十センチはあろうスラッとした長身、そしてその双丘はたわわに実っている。

 だが、普通の美女ではない。なぜなら彼女の肌は青白く、胸と同じく柔らかそうに主張する臀部からはドラゴンのような尻尾が生えているからだ。


 彼女……インペリアルは、とあるエルフが独自に進化した固有種族だ。

 そして、この孤島の王として君臨する者――かつて世界を魔神の黄昏(ラグナロク)から救った大魔導士、十六夜舞夜の伴侶の一人である。


 そんなインペリアルと親しげに話す少女。

 彼女の名は〝舞衣(マイ)十六夜(イザヨイ)東堂(トウドウ)〟――


 大きな黒の瞳に、艶のある黒色の髪をサイドアップにしている。

 インペリアルに対して、薄い胸に薄い尻と……体の起伏は少ない。

 見た目の幼さを鑑みれば妥当な成長具合と言えよう。


 服装は純白の法衣のようなものを纏い、白銀の錫杖を手に持っている。

 まるで神に仕えし神官のような格好だ。


「そうだマイ、本当に行くと言うのならコレを持って行け。使えるのは一度だけだが、私の〝秘技〟が込められている」


「いいの!? こんなマジックアイテム……」


「もちろんだ。お前は愛しい舞夜の子。ならば私にとっても大切な存在だ。万一があっては大変だからな」


 インペリアルが手渡した首飾りのようなマジックアイテム……〝原初の首飾り〟を受け取り、目を丸くするマイ。

 そんなマイに語りかけるインペリアルの瞳は、言葉とおり愛おしげだ。


「それじゃあ、インペリアルさま、〝ゲート〟を開いてほしいの!」


「なぁ、マイ。やはり私が代わりに……」


「ダメなの! 〝勇者の紋章〟を体に持つマイ以外がゲートを飛び越えたら、〝パラドックス〟が起きちゃうの!」


「むぅ……しかたあるまい。座標軸検索……固定、展開……開くぞ! 《ゲート》!!」


 これからマイがしようとしていることに、代役を買って出ようとするインペリアルだが、それはある理由により世界に大きな歪みを作ってしまう可能性がある。

 そして、その歪みを作らずに事を運ぶ事が出来るのは勇者であった母、凛の血を引くマイ、ただ一人だけであった。


 インペリアルが両手を広げ、何やら意識を集中する。

 すると目の前の空間に紫電を散らす暗黒色の入り口――とある場所へと繋がるゲートが現れた。


「インペリアルさま、行ってきますなの!」


「ああ、十分に注意してゆけ。……はぁ、舞夜と凛になんと説明すればよいものか……」


 元気に行ってきますの挨拶をするマイに。

 インペリアルは僅かに頭痛を覚えながら、送り出す。


 だが、マイが行くことを許してしまったのは自分の判断だ。

 全ては自分の愛すべき者の未来の為に――





 バチ……ッ、バチバチ……バチッ!!


 夜の平原――暗闇が支配する空間に紫電が弾ける。

 紫電の閃きはやがて大きな本流となり、その場に闇より深い漆黒を作り出した。


「ふぅ、〝ジャンプ〟……成功なの。さすがインペリアル様なの!」


 声とともに、漆黒から歩み出る少女――マイだ。

 言葉と、嬉しそうなその表情を見る限り、ひとまず計画の一歩目は成功したようだ。


「さて、まずはパーティを探さなくちゃなの。最初の候補は〝孤島の勇者〟なの。〝ヤツ〟の復活場所はウルスクラ王国だから、場所と時間的には……」


 口に指を当て、ブツブツ言いながら思考を巡らすマイ。

 これから成そうとしている計画は、愛する自分の父の為、絶対に失敗は許されない。

 幼いながらも、その表情は真剣そのものだ。


 そんなマイの前に――


『グルッ』


『ガルルッ!!』


 唸り声を上げ、大きな影が二つ近寄ってくる。


 血管の浮き出た四本の脚。

 鞭のようにしなる尻尾。

 唾液の滴る大きな口からは鋭い牙が覗く。


 その正体はCランクモンスター〝ビッグファング〟――

 狼のような姿をしているが、通常の狼よりもふた回りは大きい。


「ふーん、これが外界の……この時代(・・・・)のモンスターなの? いいの、相手してあげるの!」


 現れたビッグファングに、マイは怖がるどころか面白そうに笑うと、そう言ってのける。


 顔は幼いというのに、挑発的に目を細め、唇を小さく舐めるその仕草はどこか妖艶に感じてしまう。

 その表情は、彼女の母である凛が夫を貪ると決めた日の夜に決まってみせる表情だったりするのだが……マイは意味を知らずに覚えてしまっているのだ。


 それはさておき。


 唸り声を大きくするビッグファングに対し、マイは白銀の錫杖を天に掲げる。

 するとマイの左右の空間に、輝きが生じた。


 右は神聖さを感じさせる白の輝き。

 左には、混沌を彷彿とさせる毒々しい黒の輝きが顕現した。


「くすくすっ、勇者と大魔導士の力の片鱗……たっぷりその体に叩き込んであげるの……」

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