114話 未来人?
ルミルスでの戦いから半月後の早朝――
「ふふっ……おはようございます、タマ♪」
「にゃ〜ん!」
迷宮都市の自宅の寝室で、タマはアリアの胸の中で目覚める。
眠気まなこのタマの頭を、愛おしげに撫でるアリア。
その表情は聖母のような慈しみに満ちている。
ステラとリリ、フェリはまだベッドの上で「すぴー、すぴー」と寝息を立てている。
アリアはタマを抱きながら、皆を起こさないように寝室を出る。一階の洗面台で顔を洗うつもりなのだ。
アリアが洗面台で顔を洗っている横で、タマも前足で自分の顔をクシクシと洗っている。
洗顔、歯磨き、着替えが終わり、皆の朝食を作ろうとアリアがキッチンへと向かおうとした……その時だった――
コンコンコンッ……。
――玄関の扉から、ノック音がした。
「……? こんな時間から誰でしょう?」
「にゃ〜?」
不思議そうに首を傾げるアリアとタマ。
アリアはタマを抱っこすると、そのまま玄関へと向かう。
するとそこには――
「やあ、アリアさん。こんな時間からごめんね?」
――そう言って、少し困ったような表情を浮かべる美青年が立っていた。
「セドリック様! おはようざいます、どうされたのですか? それにその方たちは……?」
美青年――この都市の騎士隊長であり、侯爵家の嫡男である彼が直接訪ねてきたことに驚くアリア。
しかし、その視線はセドリックの側に控える二人の人物へと移る。
一人は黒髪をツーサイドアップにして、神官のような白衣を纏った小さな少女、もう一人はブルーシルバーの長髪のてっぺんから兎のような耳を生やし、首から下を外套で包んだ〝兎耳族〟の少女だ。
前者は十歳くらい、後者は十八〜十九歳くらいだろうか……?
「ちょっと複雑な事情があってね……。ちょっと中で話せるかな? もう少ししたらヴァルカンさんも来る予定だから」
「……わかりました、お上がりください」
セドリックの言葉に、アリアは真剣な表情になり、三人を中へと通す。
(これは……また大きな戦いが始まる予感がするな……)
アリアと同じく、タマも表情を引き締めながら、そんなことを思う――
急いでステラたちを起こしにいくアリア。
ステラを始めとした三人が一階へと降りてきたタイミングで、セドリックの言っていた通り、ヴァルカンもやってきた。
「よし、ではまずは自己紹介……と、いきたいところなんだけど、先に言っておく。彼女たちは冗談を言っているわけじゃないからね?」
左右に座った幼い少女、そして兎耳族の少女に視線をやりながら、セドリックが言う。
アリアたちは「「「……?」」」と、首を傾げるも、先を促す。
「それじゃあ、まずはマイからなの! マイの名前はマイ=イザヨイ・トウドウっていうの! 大魔導士・舞夜と、勇者・凛の娘で、未来の世界からきたタイムトラベラーなの!」
可愛らしい声で、そう言い切った少女――マイ。
アリアたちは声を揃えて「「「は……?」」」と、呆け顔だ。
そんなアリアたちとは逆に、セドリックとヴァルカンは頭痛にでも耐えるかのように、頭に手を当て、難しい表情を浮かべている。
(未来からきた、たいむとらべらー……? つまり、マイと名乗るこの少女は、自分は未来人だと言っているのか?)
アリアの胸に抱かれながら、そんな疑問を覚えるタマ。
とてもではないが信じられない……が、騎士隊長であるセドリックがわざわざ連れてきた人物だ。それに初めに、彼は冗談を言っているわけではないと、前置きをしていた。
だからこそ、目の前の少女の言っていることを、真っ向から嘘だと判断することができない。
「面食らう気持ちはわかるよ。僕も最初にこの子……マイちゃんが屋敷に訪ねてきた時はビックリしたからね……」
「私もビックリしたにゃん。でも彼女の言っていることは本当だと認めざるを得ないにゃん」
何とも言えない表情を浮かべるアリアたちに、セドリックとヴァルカンがそう切り出す。
「えっと……もし、この子――マイちゃんの言っていることが本当なら、セドリック様の姪……ということになるのでしょうか?」
何にどう答えたらいいかわからず、アリアは思わずそんな質問をする。
だが、この状況を説明するのに、その質問をするのはちょうどよかったようだ。
「ああ……いい質問だね、アリアさん。そう、マイちゃんは僕の姪ってことになるんだ。始めは信じられなかったけど、話しているうちに気づいたんだ。この子は弟くん――舞夜くんと、凛ちゃんにそっくりだってね」
「そうにゃ。目元は舞夜ちゃん、鼻や口元は凛ちゃんにそっくりなのにゃ!」
アリアの質問に、何だか少し嬉しそうな表情で答えるセドリックとヴァルカン。
そして、証拠はそれだけではないと言う。
それに頷きながら、マイが「これを見てほしいの!」と言いながら、両手を左右に広げる。
すると、彼女の二つ手のひらの上に、白銀の光と、漆黒の輝きが浮かび上がった。
「右は神聖属性……左は、まさか闇属性ですか……!?」
驚いた声を上げるアリア。
闇属性――それは先日の戦いで、セドリックやアリーシャが、武器を媒介に使用していた、大魔導士である舞夜の加護を受けた者にしか使えない最強の属性だ。
それを目の前の少女――マイは、媒介を使用せずに発動してみせた。
……それ即ち――
「マイちゃん……いえ、マイ様が大魔導士様の血縁者であるというのは、本当のようですね……」
――アリアはその事実に納得するしかない。
そして、アリアは聞いてきた。大魔導士・舞夜は複数の伴侶と、その間でもうけた幼い子どもたちと一緒に〝とある場所〟で生活を送っていると。
もし、マイが彼の子どもであるならば、年齢的にこの時代に存在するはずもなく……つまりは――
アリアの質問に、セドリックとヴァルカンは静かに、しかしハッキリと頷いて答えてみせる。
ちなみにだが、ステラにリリ、それにフェリは未だに「「「……?」」」と疑問顔だ。
そんな中――
「困惑している中で申し訳ないのですが、私の方からも少々頭が痛くなるような話があります」
――そんな言葉とともに、セドリックの左隣に座っていた、兎耳族の少女が口を開く。




