112話 激突する聖なる力と魔の力
「アレは……くくっ、やはり航空戦力を持っていたかっ!」
敵部隊後方から飛翔したニーズヘッグの姿を確認し、ジュリウス皇子は小さく笑う。
その上空で――
『ニーズヘッグよ、このままブレスによる攻撃を仕掛けるのだ!』
『グルォォォォォッ!』
――ヴァサーゴの指示に応え、ニーズヘッグが七色に光る収束ブレスを上空からルミルスを覆う《黒ノ牢獄》に向かって放った。召喚獣の放つ強力な攻撃により、《黒ノ牢獄》に波紋が広がっていく。
『フハハハ! さすがはヴァサーゴ様だ!』
『まさかあのような力を隠しておられたとは! 全軍、このまま突撃だ……!』
強大なヴァサーゴの力に、下でモンスターどもを指揮していた魔族たちも戦線に加わろうと動き出す。
アリーシャの張った《黒ノ牢獄》にもいくつか綻びができてきた。そこを狙って魔族部隊も侵入を試みようというつもりらしい。
さらにはその後方には、サイクロプスやオルトロスを含んだ召喚獣も何体か控えている。どうやらヴァサーゴが再召喚したようだ。
「待ってたわよ! 《フェアリーバレット》!」
「行かせません! 《ブランチュウィップ》〜!」
魔族が侵入したタイミングで、後方部隊であるリリとフェリが攻撃を仕掛ける。曲がる光弾と突如として現れた木の鞭によって、先頭の魔族たちは為す術もなく討伐される。
「レオ! 私たちも負けてられないわよ!」
「にゃおおおおおおおおんッ!」
リリとフェリの横で、フィオーネが矢を放ち、レオが魔法スキル《アイシクルランス》を発動し、援護をする。
「あらあら、氷雪系の魔法スキルなら、私だって負けないわよん?」
その後ろから、アーナルドが躍り出る。
そしてそのままレオたちと並び立ち、氷雪上級魔法スキル《アイスブレイド》を発動。
輝く四つの氷の刃が、さらに奥の敵に向かって襲いかかる。
と、ここで――
「よし、召喚獣たちの相手は僕に任せてもらおうか……」
――セドリックが腰から剣を抜き、その刃から漆黒の閃光を迸らせる。義弟である大魔導士に施してもらった闇の力を解放したのだ。
彼に続き、ダニーとハワードが「なら俺たちも援護に回らないとな」「であるな」と続く。
ケニーとマリエッタも「何だかんだ魔神の黄昏を思い出して興奮してきたよ」「本当ですぅ!」とそれぞれ武器を構え……魔族に続いて侵入しようと動き出した召喚獣たちに向かって歩き出す。
「となると、問題は空の召喚獣とヴァサーゴだが……」
「アリアちゃん、タマちゃん。ここは任せましたよ?」
ジュリウス皇子が指揮を取りながら、アリーシャが天に刀を掲げ《黒ノ牢獄》を維持しながら、アリアとタマに向かって言葉を紡ぐ。
「お任せください。ジュリウス殿下、アリーシャ様!」
「にゃ〜ん(必ずやヴァサーゴを仕留めてみせるぞ)!」
アリーシャは《黒ノ牢獄》の維持で動くわけにはいかない。ジュリウス皇子も敵の召喚獣が動き出したからには、前線に出るつもりだ。
そして、先ほど「やはり」と言った通り、ジュリウス皇子は敵が航空戦力を用意してくるであろうことを読んでいた。
それに対応すべく、アリアとタマは戦闘に参加することはせず、体力を温存していたのだ。
「にゃ〜(ではいくぞ、進化――)!」
可愛らしい鳴き声とともに、タマの体が白銀の光に包まれる。そして現れたのは聖獣――ベヒーモス第三形態だ。
「タマ、行きましょう……!」
「グルッ(了解だ、ご主人)!」
アリアの言葉に小さく唸って応えると、タマは彼女の頭に自分の頭を軽く擦り付ける。
「ふふっ、わたしを励ましてくれるのですね。ありがとうございます、タマ……」
小さく笑いながら、アリアはタマの気遣いにお礼を言うと、彼の背中に乗るのだった。
――いくぞ、《獅子王ノ加護》……!
タマが咆哮を上げる。するとステラたちや騎士たち、それに冒険者たちといったルミルス側の戦力全員の体が黄金色に輝き始める。
進化したタマの《獅子王ノ加護》の効果範囲は超広域なのだ。そして対象を選択して発動することが可能だ。
突如として大幅に強化された自身のステータスに驚きつつも、戦士たちはさらに勢いを増して敵を葬っていく。
『くっ……なんだこいつら! 先ほどよりもパワーアップしているぞ!』
『それにさっきから、致命傷を与えても復活する……どういうことだ!?』
ルミルス側の戦力とぶつかり合う中で、魔族たちは困惑していた。タマの《獅子王ノ加護》によって騎士や冒険者たちが突如強化されたことはもちろん、今魔族が言ったように、致命傷を負った者たちが何事もなかったかのように活動を再開するのだ。
その秘密は、アリアたちが彼らに与えた〝とあるアイテム〟にある。
アリアたちはこの数週間で命の泉からとれるエリクサーを、ルミルスの戦士や冒険者たちに大量にばら撒いていたのだ。
エリクサーがあれば最悪致命傷を負ってもすぐに完全回復を果たすことができる。そして一人につき五個以上エリクサーは配られた。
それだけあれば、倒れた仲間にすぐに使ってやることが可能だ。お互いがお互いを助け合い、不死身の戦士となって、強大な敵に皆が立ち向かう。
いくら強力なモンスターや魔族であろうとも、不死身の相手に連携して対応されては分が悪い。
その上、ルミルス側にはアーティファクトを持ったステラにヴァルカン、リリにフェリまでいる。
油断していると彼女たちの一撃必殺の攻撃が飛んでくるので、目の前の戦闘に集中できないのだ。
彼女たち四人もエリクサーを大量に装備している。故に体力は無尽蔵、疲れを知ることなく敵を圧倒するのだ。
◆
『く……っ、こちらが押されている! だが、都市に侵入さえすれば、賢者ノ石さえ手に入れることができれば! ――――む、アレは……?』
ニーズヘッグの背中から、ヴァサーゴは戦況を見守っていた。
例え戦力を失っても賢者ノ石さえ入手できれば使命は果たせる……。
その一心でニーズヘッグに攻撃を続けさせるのだが……そんな中、急速に下から迫ってくる影に気づく。
白銀の鎧を身につけた大天使のような翼を持った純白の獅子と、白銀のビキニアーマーを纏った白磁の肌を保つ美しいエルフの少女――タマとアリアだ。
一瞬だけ、アリーシャのコントロールにより《黒ノ牢獄》の一部が消え失せる。そしてその穴から、アリアを乗せたタマが飛び出した。
『貴様……この間のエルフだな。それにその獣は――まぁいい、貴様諸共消し去ってくれる! やれ、ニーズヘッグ……ッ!』
同じ目線へと飛翔してきたアリアとタマを見て、ヴァサーゴは忌々しそうな表情を浮かべるも、すぐさまニーズヘッグに指示を出し、強烈なブレスを吐き出させる。
――させるか! 《フレイムハウリング》……ッ!
轟――――ッッ! と大気を震わせるほどの咆哮を上げ、タマが神聖属性を帯びた炎の《属性咆哮》を放つ。
高圧縮されたブレスとブレスが上空で激突し、爆風が起きる。
ニーズヘッグに乗ったヴァサーゴの体勢が僅かに崩れ慌ててニーズヘッグの背中にしがみつく。
対するアリアは、タマによる《獅子王ノ加護》の恩恵を受けていたおかげで、体勢が崩れることはなかった。
ベヒーモス第三形態のタマと、強化されたヴァサーゴの召喚したニーズヘッグ……両者の放った攻撃は互角……否、僅かにタマが押している。
最強のSランクモンスターの放つ攻撃は、強化されたヴァサーゴの奥の手さえ凌駕してしまえるようだ。
『くッ……まだだ! 我のマナを使ってさらなる力を発揮するのだ、ニーズヘッグよ……!』
このままやられる四魔族ではない。
ヴァサーゴは自身のマナを注ぐことでニーズヘッグのブレスの出力を上げる。僅かに押していたタマの《フレイムハウリング》が、押し返され始めてしまう。
『どうだ、エルフよ! これが四魔族の力だ! このまま引けば命までは取らないでやるぞ?』
賢者ノ石を早く手に入れたいヴァサーゴが、そんな提案をアリアにしてくる。
対するアリアは「ふっ……」小さく笑い――テンペストブリンガーを天に掲げる。
そして言う――
「そんな提案をしてきたということは、もう奥の手がないということですよね……?」
――と……。
『…………ッ!』
アリアの浮かべた笑みを見て、彼女の言葉を聞き、ヴァサーゴは(このままではまずい!)と思わず息を漏らした。
そして両手を広げ、背後に紫に染まった都市の姿を映し出す。いつでも魔界に逃げることができるように、転移の準備を始めたのだ。
その瞬間だった。アリアが声高らかに――
『エクス……キャリバァァァァァァァァッッッッ!』
――その名を叫び、テンペストブリンガーを振り下ろす。
その刃から白銀の奔流が迸る。
タマの放つ《属性咆哮》と合わさりニーズヘッグ諸共、ヴァサーゴを飲み込んだ。
『馬鹿、な……勇者でもない小娘と獣に……この、私……が――』
白銀の奔流の中、ヴァサーゴは呆然とした表情で言葉を漏らすと、神聖なる力に身を焼かれ……その存在を失っていくのだった――
『そんな……ヴァサーゴ様が、敗北した……?』
『撤退! 撤退だぁぁぁぁ!』
上空での戦いを見ていた魔族が呆然とした様子で座り込む。
別の魔族は完全敗北を察し周囲に撤退を呼びかける。
「ふんっ、腰抜けどもが! 逃がさんのだ!」
「ここで逃せば、この後何かしらの被害が出るかもしれないにゃん! 殲滅するにゃん!」
撤退を始める魔族やモンスターたちに、ステラやヴァルカンを始めとした戦士たちが追跡し駆逐していく。
「タマとアリア……よくぞ……!」
「ふふっ、あの力……話には聞いていましたが、まるで初代勇者様と聖獣様ですね」
見事、ヴァサーゴとニーズヘッグを打ち倒したタマとアリアに、上空を見上げながらジュリウス皇子は称賛の言葉を静かに紡ぎ、実はタマの秘密を知り、アリアがあの派生スキルに目覚めるように特訓の内容を調整していたアリーシャは悪戯っぽく笑うのだった。
◆
「それじゃあ! この都市の防衛、そして四魔族を打ち倒した事実に……乾杯よ〜ん!」
「「「乾杯っ!」」」
その日の夜――
ルミルスの中心広場で、最強のガチムチ受付嬢こと、アーナルド・ホズィルズネッガーさんの音頭で宴が開始された。
ギルドだけでない。この夜は都市中どこもかしこも飲めや歌えやのドンチャン騒ぎ状態である。
「見てたわよ、アリアちゃん! タマちゃん! すごい活躍だったわね!」
「本当にびっくりしたよ、単純な攻撃力だけで言ったら、本気を出した僕だって敵わないよ」
酒をグビグビ飲みながら、アーナルドとセドリックの熱々カップルが、アリアとタマに絡んでくる。
「お二人にここまで褒められると、照れてしまいますね……」
「にゃん〜(ご主人、本当に強くなった。我が輩も嬉しいぞ)!」
アリアはテレテレしながら顔をふやけさせ、タマは誇らしげに鳴きながらアリアの頬に自分の頬を擦り付ける。
その周りではステラは骨つき肉をこれでもかと頬張り、ヴァルカンはダニーたちと飲み比べ勝負に興じ、リリとフェリは周りの女戦士たちに「「「可愛い〜〜っ!」」」と持て囃されながら、次々にスイーツの数々を平らげていく。
「本当によくやった。アリア、タマ、改めて感謝する」
「この間まで特訓でひぃひぃ言ってた子たちが、まさかここまで活躍するなんてね」
ジュリウス皇子、それにベルゼビュートも優しい笑みを向けながら、アリアとタマを褒め称える。偉大な二人にまでそんなことを言われ、アリアの顔はとうとう真っ赤に染まってしまう。
「ここまでの活躍をしたのですから、アリアちゃんとタマちゃんには二つ名が必要かもしれませんね。そうですね……アリアちゃんは〝聖刃〟で、タマちゃんは〝聖獣〟なんてどうでしょう♪」
アリアの隣に座っていたアリーシャが、微笑みながらそんなことを言い出す。アリアは「ア、アリーシャ様に二つ名をつけてもらうなんて……!」と驚いた様子を見せる。
それを聞きつけたダニーとハワードが「いいじゃねーか!」「うむ、納得の二つ名なのである!」と笑い、ケニーとマリエッタが「聖刃と聖獣に!」「乾杯ですぅ!」と、ジョッキを掲げる。
周りの冒険者や騎士たちもそれに応じて、一斉にジョキやグラスを掲げる。
うまい酒にうまい料理、勝利の余韻にかけがえのない仲間――
宴は朝まで続くのだった……。
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これにて三章完結です! 四章の開始は少々お待ちくださいませ!
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姉妹作品である「転生魔導王は、底辺職の黒魔術士が、実は最強職だと知っている」のコミカライズ企画が進行中です! そちらもぜひ、よろしくお願いいたします!




