111話 激戦
数週間後――
カーンッ! カーン――ッ!
明け方、ルミルスの中で鐘の音が響き渡る。音とともに「敵襲! 敵襲ぅぅぅぅぅッ!」と男たちの声が木霊する。
二十四時間交代制で警戒任務に当たっていた騎士たちが、ルミルスの遠方にモンスターや魔族の大軍が現れたのを確認した。そう……とうとうヴァサーゴが戦力を整えて転移してきたのだ。
「みんな、起きてますか……?」
レオナの自宅の寝室でアリアが皆に声をかけると、タマは彼女の胸の中で「にゃん(当然だ、ご主人)!」と鳴き、ステラにリリ、フェリも「もちろんなのだ!」「とうとう来たのね!」「腕が鳴るのです〜!」とそれぞれ応じる。
「それでは急いで準備を整えて向かいましょう。どうやら南門の方へ現れたようです!」
家の外に響き渡る声で、そのことを知ったアリアたちは各々準備を済ませると、戦いに赴く。
◆
「お待たせしました! アリーシャ様、ヴァルカンさん!」
「来ましたね、アリアちゃんたち」
「んにゃ〜! とうとうこの時が来たにゃん!」
ルミルスの南門の外へと移動したアリアたちを、アリーシャとヴァルカンが出迎える。
周囲を見れば、他の四魔族を無事に討伐し、昨日のうちに合流したセドリックと、彼の部下であるダニーたちはもちろん、この都市の戦士たち、それに腕に覚えのある冒険者たちが集結し始めていた。
誰もがこの都市を――そしてこの都市で暮らす人々を守るために決起したのだ。
「戦士諸君! 遂に決戦の時が来た! この戦いには迷宮都市――否、世界の命運がかかっている。何としても四魔族どもの侵攻を阻止しするのだ! そして、明日を……希望を掴み取るぞ……ッッ!」
今回の作戦の司令塔として選ばれたジュリウス皇子が、集まった戦士たちに向け純粋な気持ちを乗せた言葉を送る。
一国の第一皇子でありながら、自ら勇者として人々のために戦う彼の言葉に、集まった者たちは「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――ッッ!」」」と、雄叫びを上げる。強大な敵と戦うというのに、皆の士気は高い。ジュリウス皇子の人望がよく見てとれる。
魔族やモンスターの大軍が近づいてくることで、土煙の大きさがどんどん大きくなってくる。それとともにザッザッという足音も次第に大きくなる。
『魔法を放ぇぇぇぇぇぇぇッ!』
都市側が敵の先頭団の姿を視認したタイミングで、魔族の一人が声を張り上げる。そして後方から火の玉や氷の槍、風の砲弾が都市へと飛来する。
「ご主人様、力をお借りします! 発動しなさい、《黒闇ノ牢獄》……ッ!」
アリーシャが静かに……言葉を紡ぐ。するとどうだろうか、ルミルスと、そこから数十メートル先を半透明の闇色の膜のようなものが覆ったではないか。
飛来する魔法攻撃は、膜に接触すると……バシュンッ! という音を立てて次々と消失していく。
『魔法スキルが消えただと……!? くっ……ならば突撃だ! モンスター部隊、突撃ぃぃぃぃぃぃッ!』
突如消えた魔法スキルの数々を目の当たりにし、戦闘団の指揮官と思われる魔族は狼狽した声を漏らす。
だがすぐに新たな指示を――モンスターによる特攻を命令する。魔法でダメなら、物理で無理やり道をこじ開けようと考えたようだ。
アリーシャの発動した闇色の膜に向かって、ゴブリンやオーク、ミノタウロスどもが次々と攻撃を仕掛ける。
だが……。
『グギャァァァァァ!?』
……最初に、膜に手を触れたゴブリンがけたたましい悲鳴を上げる。その顔からはみるみるうちに生気が失われ……その場に崩れ落ちた。
《黒ノ牢獄》――アリーシャが主人である大魔導士に授かった闇属性の超級スキルだ。《黒ノ牢獄》は特殊なバリアフィールドであり、ある程度の攻撃であれば無効化することができる。
そして、闇属性は最強の属性だ。その特性は敵の生命力そのものを〝奪う〟ことにある。ゴブリンはフィールドに触れたことで、腕から直接生命力奪われ絶命したのだ。
『ブヒ……』
『ブモ……ッ』
突然息絶えたゴブリンを見て、周りのオークやミノタウロスが侵攻の歩みを止める。何かわからないが目の前のモノに触れたらまずい……。その事実を認識したのだ。
「すげー! 触れただけでゴブリンが死んじまった!」
「ああ! さすが剣聖アリーシャ様の力だ……!」
フィールドの中でその光景を見ていた冒険者や騎士たちが沸き立つ。強大な守りがこちらにあると認識できただけで、士気はさらに上がるというものだ。
『ちっ……モンスターごときが恐れを抱くとは。――命令だ。〝突撃しろ〟……!』
指揮官の魔族がモンスターたちに広がる動揺を見て、忌々しげに言葉を漏らす。そして魔族の持つモンスター服従の力を発揮し、強制的にフィールドの中へ突撃させるように命令を下す。
モンスターたちは一斉に雄叫びを上げ、血走った目で……文字通り死に物狂いで突撃を仕掛けていく。
いくら《黒ノ牢獄》が強力なスキルとはいえ、一点を大量のモンスターに攻められれば……突破されるのも時間の問題だ。そして――とうとうボロボロになりながらも、一体目の侵入を許してしまう。
フィールドの綻びから、一体、二体、三体……と次々にモンスターが侵入し、武器を手に都市側の部隊に向かって駆け出した。
その光景を冷静に見ていたジュリウス皇子が「前衛部隊、出撃だ!」とアリーシャが稼いだ時間を使い、編隊を済ませていた部隊に指示を出す。
この部隊の攻撃の要として編成されていたヴァルカンとステラが「了解にゃん!」「派手に暴れてやるのだ!」と声を上げ、他の戦士たちを引き連れ侵入してきた敵へと駆けていく。
先頭を駆けるヴァルカンとステラ、二人の防具は以前と変わっていた。この数週間で、ヴァルカンはアリア宅の庭に、世界樹や生命の泉の効果で生成された希少な鉱石、ヴィブラウムをふんだんに使った防具型アーティファクトをパーティメンバーに作っていたのだ。
防具の形自体は以前のモノと変わらないが、ヴィブラウムの使われたそれは陽の光を浴び、白銀色に輝いている。
これにより、アリアたち全員が衝撃吸収能力、さらには衝撃を収束発射するという強大な防御力と攻撃力を手に入れたのだ。
ステラがクラウソラスで敵をバッタバッタと薙ぎ払う。ヴァルカンがミョルニルで敵を頭から叩き潰す。
サイドから回り込んだ敵の攻撃も、カラドボルグやヴィブラウム製のガントレットなどで防ぎ、吸収した衝撃で敵を吹き飛ばす。
「ちっ……あの二人、力を隠してたな?」
ステラとヴァルカンが大暴れする姿を見ながら、エイラが苦笑する。
他のアマゾネス部隊の面々と一緒に、吹き飛んできた敵にトドメを刺していく。
シンプルな戦い方だが、ステラとヴァルカンの怪力を活かした一番やりやすい連携だ。
だが、いくらステラとヴァルカンが強力でも、敵は次々に押し寄せてくる。
……そんなタイミングであった――
「道を開けて!」
――と、レオナの声が響き渡る。
その瞬間に、ステラとヴァルカン、アマゾネス部隊を始めとする戦士たちがパッと左右に割れた。
「喰らいなさい……!」
皆の後ろに控えていたレオナが、前方に向かって正拳突きを繰り出した。
するとどうだろうか、彼女の拳から広範囲に向かって見えない衝撃が二回連続で迸ったではないか。
衝撃に飲み込まれ、モンスターどもがその場で倒れ、或いは後方へと吹き飛ばされていく。
これこそが、レオナの目覚めた通常攻撃を強化して、広範囲に二回攻撃したという事象を起こすスキル――《ショックウェーブ》なのだ。
態勢を崩したモンスターどもに、ステラを始めとした戦士たちが再び攻撃を仕掛け、着実に数を減らす。
◆
『くっ……何と厄介な……これでは戦力を減らされるばかりだ。奥の手としてとっておくつもりだったが、使うしかあるまい。――出でよ〝ニーズヘッグ〟……!』
部隊の最後方で、状況を見守っていたヴァサーゴが呪詛を吐く。都市側の守りが思った以上に堅牢だった。まぁ、剣聖であるアリーシャがいるのだからそれは当然なのだが……ヴァサーゴがそれを知る由もない。
そんなヴァサーゴが、天に向かって両手を広げ、高らかに叫ぶ。すると彼の目の前に巨大な魔法陣が刻まれ、その中から七色の巨大なドラゴンが現れたではないか。
ニーズヘッグ……魔王マモンの加護により強化されたヴァサーゴが召喚できる最上級の召喚獣だ。
ヴァサーゴがニーズヘッグの背中に飛び乗る。そして「行け……!」と指示を出すと、ニーズヘッグは『グォォォォォォォ――ンッ!』と咆哮を上げ、背中に生えた巨大な翼で天に舞い上がった。
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