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最強のおもちゃ箱  作者: 鷲野高山
1章 超絶強化のおもちゃ箱
7/10

七話 おもちゃ箱の機能

「――起きてください、セーイチロウ」


 冷静沈着な声が聞こえたかと思えば、次の瞬間精一郎を襲ったのは背中からの激痛だった。

 気絶していた――本人に自覚はないが――精一郎は、一瞬にして意識が覚醒する。


「……っ!」


 精一郎には与り知らぬところであったが、咄嗟に上がったのが情けない叫喚ではなく声にならない悲鳴だったのは、僥倖だったと言えよう。

 涙目になりつつ、精一郎は痛みの正体を理解した。

 抓られたのだ。背中を、なかなか強めに。


「さ、降りますよ」


 そんな精一郎をよそに、何事もなかったかのようにメイが言った。

 歩みを止めたまま、体勢を低くするディノ。

 なにがなにやら、促されるまま精一郎はディノから降りる。

 降りてから、ようやく気付いた。自身が今までディノに乗っていたということに。

 次いで、思い出す。先程までなにがどうなっていたかを。


「まさか、ただの想像だけで気絶してしまうとは。この私も恐れ入りました」


 そして耳元で囁かれたメイの言葉により、精一郎の色白の肌に微かに赤みがさす。

 だが、結果として乗り切ったのだ。気絶で。


「……ああ、怖かった」


 思わず、精一郎は言葉を漏らす。

 直後、メイの冷ややかな視線を横から感じた。言うに事欠いて、それか、と。


「なるほど、存外余裕はあるように見受けられます。では、引き続きその調子で、セーイチロウ。今度気絶されたら私、おそらく手が付けられませんので」


 淡々としたメイの声が、妙に怖い。

 だが、それよりも見逃せない言葉がそこにあった。


「引き続き……?」

「寝ぼけているのですか。これより、この国の王との面会ですよ、セーイチロウ」


 ハッとして、精一郎は周りを見渡す。

 何故、気付かなかったのか。周囲にはそこそこに人目があり、ディノや精一郎を遠巻きに見ていた。姿恰好からして、俗に言う兵士のように思える。

 何より、前方だ。すぐ目の前に、城のような形状の建物――まあ城なのだろうが――が聳えているではないか。自問する精一郎であるが、全くその通りである。


 メイが耳元で囁いてきていたので、精一郎も合わせるように無意識に声量を落としていたのが幸いした。

 でなければ、なんとも情けない会話が周囲にも聞こえていたことだろう。


「しかし、その前にまず、ディノをしまっておきましょう」

「……ディノを、なんだって?」


 と、その時事も無げにとんでもないことをメイが言った気がして、精一郎の意識は咄嗟に城から離れてそちらへと移った。眼前の王城は充分に意識の対象だったのだが、メイの発言が瞬時にそれを上回ったといえよう。


「ですから、しまう(・・・)のです。生きてこそいるものの、元はといえばディノとてセーイチロウのおもちゃ。ならば、貴方のおもちゃ箱にしまえぬ道理はないでしょう」

「……えー……えぇ?」

「しまいかたは、簡単です。手を触れて、念じるだけ」


 困惑する精一郎であったが、メイはトントンと話を進める。

 聞き返す間もなく、「さ、やってください」とメイに言われるままに、精一郎はディノの足に手を押し当てた。


(……えっと、しまえって念じるってことだよね?)


 ゴツゴツとした感触。押し当てただけでは、ディノに変化はない。

 半ばやけくそ気味に、精一郎は念じる。


 ――しまえ。


 すると、どうだろう。

 一瞬ディノの全身が仄かに光を放ったかと思えば、音もなく巨体が消失したではないか。 


「ど、どどど……」

「落ち着いてください、セーイチロウ。ディノは、貴方のおもちゃ箱に還っただけです。呼び出したくば、そのように念じればすぐに出てきます」


 それを目の当たりにして、どうしよう、と吃る精一郎だったが、メイの落ち着いた言葉を聞いて平静を取り戻す。


「……いつでも、何度でも呼び出せるの?」

「はい。貴方のおもちゃ箱です、セーイチロウ。勿論、ずっと出しておくことも可能です」

「じゃあ、メイも今しまえるの?」


 精一郎からすれば何気ない問いだったが、それを聞いたメイはスッと眦を眇める。


「セーイチロウがそれでいいと思うなら、私も今すぐ還らせていただきます。国王様とお一人でご会談されるのおつもりだったのですね。それは出過ぎた真似を致しました」

「ち、違うよ」


 身体を触れさせようと、差し出してくるメイ。というより既にメイの身体は精一郎の手に触れており、感触が伝わってきている。

 その柔らかさを感じ、しまえと念じないようにしつつ精一郎は慌てて言った。

 

「ならば、私達の主としてせめて外面だけでも堂々としていてください。ディノが消えた今、ますます精一郎に注目が集まります」


 正しく、メイの言う通りだった。

 ディノに向けられていた視線は、対象と共に消滅するのではなく、移るだけ。その移った対象は言うまでもなく、ディノの主たる精一郎及び従者のメイ。

 ただ、メイが側にいたおかげで、精一郎は狼狽することなく若干身を固くするのみに留まった。

 

「王女様が今、先に城へと入って国王様に話をつけているはずです。そして彼女が戻り次第、恐らく私達も国王の元へと案内されることになります」


(確か……シーラさん、だっけ)


 精一郎に声をかけてきたあの女性は、メイの言う通り、今この場にいない。


「一応聞いておきましょう。セーイチロウは、国王とまともに話せる自信がありますか?」

「ない」


 いっそ清々しいほどの即答であった。

 もし余人がこのやりとりを聞いていたならば、間違いなく虚を突かれたであろうほどの、即答。


「では、そちらは私に任せてください。先程も言ったように、セーイチロウは外面だけでも堂々と。いいですね?」


 しかしメイは呆れることなく当たり前のようにそれを受け入れ、注意を促すのみ。

 コクコクと精一郎もそれに頷いた。


 と、そうしている間に城の重厚な扉が開き、中から二人の護衛を伴ったシーラが出てきた。

 彼女は真っ直ぐに精一郎達へと歩み寄り、柔和な笑顔で言う。


「セーイチロウ殿、メイ殿。お待たせいたしました」


 開口一番、シーラの口から出たのは、精一郎の名。精一郎自身は名乗っていないが、メイに聞いたのだろう。

 名を呼ばれ緊張が高まる精一郎であったが、メイに言われたのを心がけ、顔に力を込めた。


「とんでもございません、王女様。それと、私達のことは呼び捨てにしてくださって構いません。我が主セーイチロウ様も、そう申しております」


 黙っていても、メイが代わりに喋ってくれる。精一郎が口を開く必要はない。


「いいえ、貴方様方は命の恩人です。礼を失するわけにはまいりません」

「しかし……」


 ゆっくりと頭を振り、微笑むシーラ。それを前に、不承不承といったように引き下がるメイ。

 そんな二人を見ていた精一郎は。


(……優しそうな人でよかったぁ)


 依然顔には力が入っているものの、内心若干緊張が薄れつつあった。

 完全に、他人事のよう。当事者であるというのに、ポンコツ思考。


「それでは、父の――デュニスの王の元へご案内致します」


 シーラが衣を翻し、精一郎とメイはそれに続く。

 重厚な扉。それを守護するよう左右に控えた兵の視線を受けつつ、精一郎は城内へと入った。

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