六話 王都の激震
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今回は少し短めです。
その日、デュニスの王都に激震が走った。
大陸の端に位置し、海、そして大森林と比較的豊かな土地がありながらも、決して強国とは呼ばれぬ王国、デュニス。
主要地たる王都は、国境を接する二の国に比べれば若干の見劣りはするものの、充分に栄え、活気のある都だ。
その、大通り。
日の昇っている時間であれば、数多の人が行き交い、また往来が途切れることなく。よほどの凶事でもなければ、一つの音に支配されるなどまず有り得ない。
まさに都の華たる、大変賑やかな通り。
――そんな大通りが、だ。
日常の象徴などすっかり見る影もなく、ひっそりと静まり返っていた。
もっとも、誰もいないわけではない。むしろ、いつもの如く。数えることが億劫なほど、王都の住人の姿が大通りにある。
行先も、また歩く方向もそれぞれが異なる彼ら。無論、その眼の全てが同一のものを捉えることなど、普通に考えればありはしない。
しかし、まさに今。彼らは皆、足とそして口を止め、揃って目線を上に上げていた。
そんな衆目を独占しているのは。王族を乗せた馬車に、その護衛――ではない。
確かに王族関係者の一行は目を惹きやすく、且つ目にする頻度はそれほど多くないが、王都の住人にはそこそこ見慣れた光景。
稀代の名君とは流石にいかないが、デュニスの現国王の治世は、愚昧、暴虐のそれではない。
ゆえに、道を開け、黙礼することこそあれど、馬車が過ぎ去って尚立ち止まったままということはない。
ただ言うと、彼らの前には確かに馬車はあった。
――問題は、それに続いているものだ。
一歩一歩が地を震動させるほどに重い足音を立てる、黒ずんだ緑色の皮膚を持つ巨大な生物。
その上に乗る、黒髪の小柄な少年。その従者であろう、美しき銀髪のメイド。
驚愕、畏怖、好奇、感嘆。
声はまるで奪われたかのように囁き一つなく。群衆は各々その瞳に様々な色を湛え、見上げた。
この空間を――大通りを支配するは、まず間違いなく彼の者。
地上より集中する視線を物ともせず、少年は進む。
怖じることなく、虚空を見据えて。
……一部。ほんの、ごく一部だ。
巨大生物から放たれる圧倒的な存在感から抜け出し、少しでも違和感を抱いた者が全くいなかったわけではない。
主に――黒髪の少年の首が、少々不自然にぶらんぶらんと揺れていたことに。
だが、そんなごく一部を除いた群衆のほとんどは。
ただただ、巨大生物に圧倒され。その主人と思しき少年を仰ぎ見るのみ。
やがて一行が王城の方へと消え、巨大生物の足音がなくなっても、大通りの沈黙はしばらく続いた。
――それから幾日かの後、王城より少年の正体が明らかにされるまで。
毎日のように、王都全体が根も葉もない噂で満たされることとなる。
あの少年は一体誰か、という疑問から始まり。
やれ、他国の王族を迎えた。やれ、他国で名を馳せる戦士を自国に招いた。などといった比較的好意的なものから。
あの少年は他国からの使者で力を見せつけて煽っている。魔王からの使者に違いない。などと民衆に不安を植え付けるもの。
巨大生物は悪魔の化身。見たことのない竜。メイドは綺麗だった。無表情だけどそれがいい。
ことは少年以外にも言及され、自らを信じて憚らない者は声を大にして持論を触れ回った。
王城からの知らせにより、ようやくそれらは沈静化することになったのだが、偏屈な者はそれでも持論を捨てることはなかった。
さて、そんな一行だが、王都の住民以外にも目撃されていた。
王都への途中、街道にて一行を発見した人物は語る。
線の細くて可愛い男の子? だったんだけど、こう物憂げな表情で……。
無論、その熱弁は大半に相手にされなかったのを記しておく。




