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うちのぺんぎんが日本政府と交渉している件  作者: むぎちゃ
第4章 小さな奇跡と星への第一歩
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第69話 ペンギンへの相談

 小鳥遊紬が目を覚ましたとき、寝室の時計は午前九時を少し回っていた。


 休日だからといって特別に夜更かしをしたわけではない。ただ、昨夜はボスが組み立てていた海賊船の模型を眺めながら、三人であれこれ話しているうちに、いつもより遅い時間になってしまったのだ。


 ベッドから身体を起こすと、窓の向こうには柔らかな朝の日差しが広がっていた。室内の温度は快適に保たれており、布団から出ることにためらいを覚えるような寒さもない。


 紬はしばらく枕を抱えていたが、隣から聞こえてきた小さな物音に顔を向けた。


 ベッド脇に置かれた専用の寝床では、丸々としたペンギンが仰向けに転がり、短い足を空中へ突き出している。眠っているのかと思えば、黒い瞳はしっかり開いていた。


「……ボス、おはよう」


「おう。やっと起きたか」


「起きてたの?」


「だいぶ前からな。お前が気持ちよさそうに寝てるから、起こさなかっただけだ」


 ボスは寝床の縁に翼をかけ、身体を起こした。寝癖というものがあるのかは分からないが、頭の羽毛が一か所だけ妙な方向に跳ねている。


 紬はそれを見つめ、つい口元を緩めた。


「……頭、ぴょんってなってる」


「あ?」


「羽」


「どこだよ」


 ボスが翼を頭へ伸ばそうとするものの、短い身体では思うように届かない。何度か挑戦した末、彼は諦めたように紬を見上げた。


「直せ」


「うん」


 紬はボスを抱き上げ、指先で羽毛を整えた。ふわふわした感触が心地よく、つい頭全体を撫でてしまう。


「おい。寝癖だけでいいんだよ」


「……つい」


「まったく。朝から油断も隙もねえ」


 そう言いながらも、ボスは抱っこから逃れようとはしなかった。


 紬が彼を腕に収めたまま寝室を出ると、リビングにはすでに朝食の香りが漂っていた。食卓には焼きたてのパンと卵料理、温かいスープが並び、ボスの席には身体に合わせて調整された魚料理も用意されている。


 壁際の空間に淡い光が集まり、銀白色の長い髪を持つ女性の姿が現れた。


「おはようございます、マスター。ボスもおはようございます」


「……おはよう、アイリス」


「おう。今日も朝から働き者だな」


「私は睡眠を必要としませんので。お二人が眠っている間に、家の設備点検と昨夜の記録整理を済ませておきました」


 アイリスは微笑み、食卓の一角へ視線を向けた。


「それから、昨日お話しされていた自然環境実験区画の件ですが、川に架ける橋について、いくつか案をまとめています」


 紬の表情が明るくなった。


「……橋、できた?」


「設計案です。実物はまだありません」


「分かってるよ。紬は作るとなったら一瞬だろうが、どんな橋にするかは別の話だからな」


 ボスは自分の椅子へ移り、用意された魚を一口食べた。


「それで、どんなのがあるんだ?」


 アイリスが手を動かすと、食卓の上に立体映像が浮かび上がった。


 そこには、三人が以前から話題にしていた自然環境実験区画の一部が再現されていた。木々の間を流れる川と、その両岸を結ぶ橋の姿が映し出される。


 一つ目は、周囲の景観に溶け込む木製の橋だった。緩やかな弧を描く床板に手すりが付き、森の小道から自然につながるようになっている。


 二つ目は石造りの橋で、古い庭園にありそうな落ち着いた雰囲気があった。


 三つ目を見た瞬間、ボスが身を乗り出した。


「おっ。なんだこれ、吊り橋じゃねえか」


「はい。揺れを抑える構造を組み込んだ吊り橋です。外見は一般的なものに近いですが、安全性と歩行時の安定性を高めています」


「いいな。冒険っぽい」


「ただし、ボスが欄干に登っても安全という意味ではありません」


「登らねえよ」


「以前、海賊船の模型では高い場所に立ちたがっていましたので」


「あれは船長の立ち位置だろ。橋とは違う」


 紬は二人のやり取りを聞きながら、吊り橋の映像を指で回転させた。


 木々の間に架かる細い橋。その向こうには、まだ三人で歩いたことのない森が続いている。


 実験区画は紬が創造した場所であり、地形や環境について知らないことはない。それでも、自分の足で歩いて見つける景色には、設計図を眺めるのとは違った楽しさがあるように思えた。


「……これ、好き」


「吊り橋か?」


「うん。でも、少しだけ怖そう」


「揺れないようにすりゃいいだろ。見た目だけ冒険っぽくしときゃいい」


「それは吊り橋としてどうなんでしょう」


「細けえこと言うなよ。紬が怖がらずに渡れるなら、それでいいじゃねえか」


 紬は笑いながら頷いた。


 ボスは怖がる紬をからかうこともあるが、本当に困るようなことは望まない。彼が吊り橋を気に入った理由の半分くらいは、見た目の格好よさなのだろう。


「……じゃあ、吊り橋にしようかな」


「決まりだな」


「建設位置は、次回現地を訪れた際に確認されますか?」


「……うん。お弁当も持っていきたい」


「なら、俺の分は魚を多めに頼む。歩いたら腹減るだろうしな」


「ボス、まだ歩いてもいないよ」


「準備が大事なんだよ」


 そんな話をしながら朝食を終えると、紬はリビングのソファに移り、ボスを膝の上へ乗せた。


 アイリスは橋の映像を片づけ、代わりに森の中へ建てる小さな拠点の候補を表示した。木の上に作る家、地面に建てる丸太小屋、岩肌に隠れるように設けた観測室。どれも楽しそうで、紬は一つに決められずにいた。


「……秘密基地って、秘密の場所にあるのがいいよね」


「そりゃそうだろ」


「でも、せっかくだから窓は大きくしたい」


「外から見えねえんだから好きにしろよ。俺は見張り台が欲しいな」


「見張り台ですか。何を見張る予定でしょう」


「森だよ。なんか来るかもしれねえだろ」


「現在の区画内に、ボスを襲うような大型肉食動物は配置されていません」


「だからって見張り台がいらねえ理由にはならねえだろ」


 アイリスは少し考えるような仕草を見せた。


「では、周囲の景観を楽しむ展望台として設計しましょう。双眼鏡を置けば、鳥の観察にも利用できます」


「おっ、それいいな」


 ボスは満足そうに頷いた。


 紬は膝の上の彼を抱き直しながら、拠点の窓から見える森を想像した。朝には鳥の声が聞こえ、昼には木漏れ日が床を照らし、夜には星空が広がる。そんな場所で三人で過ごす時間は、きっと楽しい。


 ただ、森の中に建物を増やすことには少し迷いもあった。


「……木、切らなくても作れるかな」


「可能です。周囲の樹木を避けた配置にすれば、既存の環境への影響を小さくできます。必要なら建物の形状を樹木に合わせることもできます」


「木を避けて家を作るのか。面白そうだな」


「……うん。森の中に、もともとあったみたいな家」


 紬は候補の一つを選び、窓の形を少し変えた。


 完成を急ぐ必要はない。何でも作れるからこそ、こうして相談しながら決める時間が好きだった。


 そのとき、アイリスの表情がわずかに変わった。


 浮かんでいた森の映像が小さくなり、画面の隅に通信通知が現れる。


「マスター、ボス。日本政府から連絡が入りました」


「ん? また何かあったのか?」


「官房長官の三浦誠司氏からです。至急の危機対応という指定ではありませんが、できれば本日中にご相談したいとのことです」


 ボスは魚のことを考えていたときとは違う顔になった。


「内容は?」


「アメリカ合衆国大統領の訪日について、事前にお伝えしたい事項があるそうです」


 紬は手元の設計図から顔を上げた。


「……アメリカの、大統領?」


「はい。リチャード・ウォーカー大統領です」


「へえ。そいつが日本に来るのか」


 ボスは膝の上で姿勢を正した。


「分かった。つないでくれ」


「承知しました」


 アイリスが通信を切り替えると、立体映像の中央に三浦官房長官の姿が現れた。背景は見慣れた官邸内の執務室で、机には数枚の資料が置かれている。


「ボスさん、お時間をいただきありがとうございます」


「おう。こっちは朝飯が終わったところだ。で、アメリカの大統領が来るって?」


「はい。まだ日程や会談内容の最終調整を行っている段階ですが、ウォーカー大統領から正式な訪日打診がありました」


「そりゃまた大物だな。普通なら首相と話して終わりじゃねえのか?」


「基本的には、そのとおりです。外交交渉は私ども日本政府が責任を持って行います。ただ、今回の訪日には、日本が保有する新しい技術への関心が深く関係しています」


 ボスは小さく頷いた。


 核融合炉の実用化と国外提供、南鳥島沖のレアアース資源開発。日本が世界へ示してきた成果は、どれも従来の技術水準から大きく飛び出したものだった。


 それらが国際社会に与えた影響を考えれば、アメリカ大統領が直接話をしたがること自体は不思議ではない。


「つまり、例の技術をもっと使わせてくれって話か」


「その可能性はあります。ただし、現時点でアメリカ側から詳細な要求条件がすべて提示されているわけではありません。訪日の主な議題として、エネルギー、安全保障、先端技術、そして宇宙開発が挙がっています」


「宇宙?」


 それまで黙って聞いていた紬が、思わず声を出した。


 三浦は画面の向こうで一瞬だけ視線を動かしたが、彼女に直接問いかけることはしなかった。


「はい。日米で新たな宇宙開発の協力を進める可能性について、意見交換を希望されています」


「なるほどな」


 ボスは翼を組もうとして、身体の前で少し動かした。


「宇宙開発ねえ。ロケットとか人工衛星とか、そういうやつか?」


「具体的な対象はこれからの協議になります。現段階では、従来の共同研究を超える規模の協力を検討したいという意向が示されています」


「で、その話を俺たちに持ってきた理由は?」


 三浦は資料を一枚めくり、少し言葉を選んだ。


「政府としては、協力の可能性を検討する前に、技術提供者の意向を確認しておく必要があると考えています。宇宙開発は、これまでの発電設備や資源開発とは利用環境が大きく異なります。技術の提供をお願いできるかどうかも、現時点では分かりません」


「そりゃそうだな。何に使うのかも決まってねえのに、作れるかどうかだけ聞かれても困る」


「おっしゃるとおりです。したがって、今すぐ何かを製作していただきたいという相談ではありません」


 紬は少し安心した。


 宇宙に関するものを作れないわけではない。むしろ、宇宙船や月面基地のような言葉には、昔から少し憧れがあった。


 けれど、政府に技術を提供することと、自分たちのために何かを作ることは違う。前者は多くの人の生活や国家間の関係に影響するため、思いつきだけで決めるわけにはいかなかった。


「……宇宙、行くの?」


 紬の小さな声を拾い、ボスが振り返る。


「まだそう決まったわけじゃねえよ。大統領が来て、そういう話をしたがってるって段階だ」


「……そっか」


 少し残念そうな声だった。


 アイリスがそれを聞き、口元に控えめな笑みを浮かべる。


「マスター。今回の協議とは別に、宇宙に関する個人的な計画を検討することは可能ですよ」


「……今は、橋が先」


「優先順位が明確で何よりです」


 ボスが小さく笑った。


「月より先に川を渡るってか。まあ、順番としては悪くねえな」


 通信の向こうで三浦も微笑んだが、すぐに仕事の表情へ戻った。


「もう一点、重要なことがあります。今回の訪日を機に、アメリカ側が核心技術の詳細な情報や管理権限について、何らかの提案を行う可能性があります」


「……分解したいとか、そういう話か?」


「そこまで具体的な要求は、まだ受けていません。しかし、これまでにも技術移転や共同研究の範囲について協議はありました。大統領が直接訪日する以上、従来より踏み込んだ話題が出ることは想定しておくべきだと考えています」


「そいつは日本政府としてどうするつもりなんだ?」


「技術提供者の承諾なく、核心技術を開示したり、第三国へ管理権限を移したりすることはありません。既存の協定で定めた安全条件も維持します」


 三浦の返答には迷いがなかった。


 ボスはそれを聞き、満足そうに頷く。


「なら、今のところ問題ねえな」


「ありがとうございます。ただ、宇宙開発への協力を進める場合、これまでにない技術や装置が必要になるかもしれません。その際には、改めてご相談させていただきたいのです」


「そりゃ構わねえ。話を聞くのと、何でも引き受けるのは別だからな」


「もちろんです」


 ボスは紬の顔を見上げた。


「紬、お前はどう思う?」


 突然意見を求められ、紬は少し考え込んだ。


 相手が外国の大統領だと聞くだけで、自分には遠すぎる世界の話に感じられる。そんな人が何を望んでいるのか、まだ具体的には分からない。


 それでも、宇宙という言葉には心を引かれた。


 月の表面を歩く人。地球を遠くから眺める宇宙飛行士。暗い空間を進む大きな船。もし自分が作ったものによって、そうした景色をもっと多くの人が見られるようになるなら、それは素敵なことだと思う。


「……宇宙に行けるのは、いいなって思う」


「おう」


「でも、危ないのは嫌だし……ちゃんと、何をするか聞いてから決めたい」


「だそうだ」


 ボスは画面へ向き直った。


「こっちの返事は今のところそれだけだ。宇宙開発そのものに反対するつもりはねえ。ただ、用途も条件も分からねえものに先に約束はできねえ」


「十分です。現段階では、そのお考えを伺えただけでも助かります」


「それと、ひとつ確認だ」


「何でしょうか」


「アメリカ側には、俺たちのことをどこまで話してる?」


 三浦は背筋を伸ばした。


「これまでと変わりません。政府の管理下で提供される技術であること、核心部分は非公開であること、提供者の意思と安全条件を尊重する必要があること。その範囲です」


「俺の姿や紬のことは?」


「開示していません。今回の訪日に関連しても、こちらからお伝えする予定はありません」


「よし。それならいい」


 ボスは短く答えたが、続けて念を押した。


「相手が大統領だろうが何だろうが、そこは変えるなよ。日本とアメリカが仲良く宇宙に行くってんなら、俺も面白そうだとは思う。だが、そのために紬の生活が引っかき回されるのは御免だ」


「承知しています。高瀬総理も、その点は最優先事項として認識しています」


 紬は膝の上にいるボスの背中へ手を添えた。


 彼はいつものように少し偉そうな口調で話していたが、気にかけているのは技術の価値や国家間の駆け引きだけではない。


 自分がこれまでどおり暮らせること。それを守るために、彼は政府との窓口を引き受けてくれている。


「……ありがとう、ボス」


「あ? 何だよ、急に」


「……なんでもない」


「変なやつだな」


 ボスはそう言いながらも、紬の手に頭を軽く預けた。


 三浦は二人の様子を邪魔しないよう少し間を置き、話を続けた。


「今後、訪日の日程と議題が固まりましたら、改めてご連絡します。今回の件については、現時点で皆さんに何かしていただく必要はありません」


「分かった。こっちはいつもどおりしてるよ」


「ありがとうございます。それでは、失礼いたします」


「おう。総理にもよろしく言っといてくれ」


 通信が終了すると、食卓の上から三浦の映像が消えた。


 しばらくの間、リビングには穏やかな朝の空気が戻っていた。


 紬はソファの背にもたれ、天井を見上げる。


「……大統領って、どんな人なんだろう」


「さあな。ニュースで見るのと直接話すのとじゃ、また違うだろうしな」


「ウォーカー大統領は外交交渉において、経済的利益と安全保障上の実利を重視する傾向があります」


 アイリスが答えた。


「ただし、今回の訪日でどのような条件を提示するかは、現時点では判断できません」


「そりゃそうだ。相手の考えてることが全部分かったら、交渉なんかいらねえからな」


「ボスも、時にはもっともらしいことをおっしゃいますね」


「時には余計だ」


 紬は二人のやり取りを聞きながら、先ほどまで表示していた森の設計図へ視線を戻した。


 ついさっきまで吊り橋の形を決めていたのに、今度はアメリカ大統領と宇宙開発の話になっている。


 その落差がおかしくて、少し笑ってしまった。


「……なんか、不思議」


「何がだ?」


「さっきまで橋の話だったのに、急に宇宙になっちゃった」


「そりゃ政府の連中は橋を作る相談なんかしてこねえだろ」


「……でも、橋も大事だよ」


「分かってるって。俺たちにとっちゃ、今はそっちのほうが大事だ」


 ボスはソファから飛び降り、床に置かれていた自分の小さな移動チェアへ乗り込んだ。


「そういや、秘密基地の設計が途中だったな。アイリス、さっきの見張り台をもう一回見せてくれ」


「展望台です」


「どっちでもいいだろ」


「名称は用途を表しますので、できれば正確に」


「じゃあ展望台でいいよ。双眼鏡はでっかいやつな」


「ボスの身体に合わせた操作装置を付けましょう」


 アイリスが映像を再表示すると、森の中の小屋に小さな展望台が加わった。


 ボスはその周囲を浮遊チェアでぐるりと回り込み、屋根の角度や階段の位置に注文を付け始める。紬もソファから立ち上がり、二人のそばへ歩いていった。


 大統領の訪日は、まだ先の話だ。


 何を頼まれるのかも分からないし、どんな返事をすることになるのかも決まっていない。


 だから今は、目の前の楽しいことを考えていてもいい。


「……ねえ、ボス」


「ん?」


「秘密基地に、星を見る場所も欲しい」


「おっ、いいじゃねえか。屋根の上か?」


「……うん。寝転がって見られるところ」


「それなら手すりも必要ですね。ボスが勢い余って落ちないように」


「だから俺を何だと思ってんだよ」


「高い場所を好む、体重一・五キログラムのペンギンです」


「説明が正確すぎて腹立つな」


 紬は声を出して笑った。


 ボスが不満そうに翼を広げ、アイリスが涼しい顔で設計図へ手すりを追加する。その光景を眺めていると、遠い国の大統領や宇宙開発の話が、ひとまず自分たちの日常の外側へ戻っていくようだった。


 昼前には、小屋の屋根に三人で星を眺めるための小さなテラスが出来上がった。もちろん、まだ映像の中だけの話である。


「よし。これなら立派な秘密基地になりそうだな」


「……うん」


「次は現地を見に行く日を決めましょうか」


 アイリスの提案に、紬は大きく頷いた。


「……晴れた日がいい」


「了解しました。天候条件を整えておきます」


「お弁当も忘れんなよ」


「ボスの魚料理も予定に入れています」


「さすがだな」


 ボスは満足そうに胸を張り、紬はその丸い身体を抱き上げた。


 世界のどこかでは、大統領の訪日に向けた準備が進んでいるのだろう。けれど、紬の腕の中にいるペンギンは、そんなことよりも次の探検で食べる昼ご飯を気にしていた。


 紬にとっては、そのほうがずっと身近で、ずっと大切なことだった。

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