第6話 塵になりました
少し観察するけど、金魚が巨大化することはなかった。
大丈夫そうだ。
「スライムは生きているんだよな?」
僕は、水槽に左手を突っ込んで、ツンツンしてみる。
――プルルン、プルルン……
大丈夫なようだ。
水槽から手を引き上げる。そして気が付いた。
「指先が、銀色に光っているよ……。また、スライムの体液かな?」
さっき抱きかかえた時は、何の変化もなかったけど、濡れているスライムに触れると、皮膚が変色するみたいだ。皮膚から吸収しているんだろうな。
これって、学会に発表できる内容かもしれない。あ~でも、若返りの効果が発見された事例もあるか。流石に知られているよな。
メタルスライムを取り上げられたくないので、誰にも言わないことにした。
「この、淡い光……。これも魔力かな?」
ポイズンとは違う光。
もしかすると、効果も違うのかもしれない。
少し考える。
やっぱり、衝動に駆られて舐めてみた。そうすると、体に変調が見られる。
左手の指先から銀色の光が、発光していた。
いろいろなモノに、銀色の光を纏わせる。これは、ポイズンスライムの時と同じだ。
「だけど、変化がないな?」
暫く待つけど変化がない。試しに持ってみたら……、崩れた。
「強度を失っている? 破壊? 分解? ……崩壊?」
その後、全てのモノの強度が失われることが分かった。不用品を、塵にした結果だ。少し考える。
「スライムの……、プラスチックを分解する特性? それが、全ての物質に影響する可能性……」
台所で、ガラスを探す。
試しに、ガラスのコップを銀色の光で覆ってみた。
――パキ、サラサラ……
「やっぱり、ガラスすらも影響を受けている。ガラスって酸にも強いはずなのに」
慌てて自室に戻った。
水槽をコンコンと叩いてみる。
金魚が、ピクンと跳ねた。
「メタルスライムに破壊する意思がなければ、大丈夫かな?」
メタルスライムに、スポーツドリンクのペットボトルをあげると、嬉しそうに食べている。
金魚にも餌をあげる。大丈夫そうだ。
僕は、水槽を眺めながら、左手の銀の光も体内に循環させるためのイメージトレーニングを始めた。
「……」
感覚で分かる。今度は、核になるモノが脳に移動したらしい。
――カラン
水槽で音がした。そして、それを拾い上げる。
「やっぱり、ダイヤモンドだ」
磨けば、光るかもしれないけど、検証が必要になるかもしれない。
それに、人工ダイヤモンドなんて安いしね。
僕は二個目のダイヤモンドを机の引き出しに仕舞った。
◇
「相馬さん。そろそろ勉強をしませんか? テストが近いですよね?」
夕飯の時に、怜奈さんから言われた。
怜奈さんは、家庭教師も兼ねてくれている。
「では、夕飯後にお願いします」
正直、僕に勉強など必要ないけど、今の成績だと親の面目が問題になるらしい。
進学する気もない僕に、学力を求められてもな……。
だけど、生活費を出して貰っている。家すら与えて貰っているんだ。従う以外の選択肢が、ないんだよな。
教科書を開いて、怜奈さんに解説して貰う。
僕はノートを取った。
――カリカリ……
「今日はどうしたのですか?」
突然言われて、顔を上げる。
「何か変ですか?」
「随分と集中されていますね? 様になっていますよ。集中している相馬さんは、カッコいいですね」
だって、怜奈さんの話が全部理解できるんだし。
なんだろう……。頭が凄い冴えている感じだ。ポイズンは、僕の病気を食べてくれたけど、メタルは脳神経を強化してくれるのかな?
これ……、知られたら大問題だよな。
その後、数日かけて中学の全ての教科書に目を通した。
「暗記力が、向上しているよ」
今ならば、教科書の暗唱すら可能だ。一回読んだだけなのに。
完全記憶能力と言ってもいいくらいに、頭が冴えている。
数学や理科の応用問題も理解できる。空間把握能力、認識力の向上?
練習問題を解くと、怜奈さんは、驚愕の表情だ。だけど、模擬テストの点がいいので喜んでくれた。
◇
今日は、二ヵ月に一回の試験の日。
僕だけの教室で、テストを受ける。
その前に、学生服が、小さいんだけど……。
でも後数ヵ月しか着ない。破らないように着ればいいか。無用な出費だと思うし。
不満なんて口にし出したら、僕は誰にも相手にされなくなる。
余計なことは考えずに、試験を終わらせよう。
(……今日は、教科書を読んだ部分が思い出せるな)
次々に、解答欄を埋めて行く。
計算問題も問題なし。引っかけ問題も、出題する意図が読めてしまう。
教師は、僕の異常を感じ取ったみたいだ。僕の目の前に立つけど、何も言えないよね。カンニングは、していないんだし。
頭が冴えているだけだ。
そのテスト結果は、全教科満点だった。
◇◇◇
数日後、学校に呼び出された。
なんだろう? いや、中学生だから毎週通うのが普通だと言われると、返す言葉もないんだけど……。
生徒指導室で、怜奈さんとの二人で、話を聞く。秘密の話なのかな?
そう思ったんだけど……。
「高校進学ですか? 受験しろと?」
教師から、突然言われた。
「うむ……。こないだの全国模試一位だっただろう? それで、私立から推薦が来た。公立でもいいと思う。高校は、選び放題だろうし。親元に帰るのもいいんじゃないか? 見た所、健康になったんじゃないか? 通えると思うんだが」
あのテスト……。全国模試だったんだ。
だけど、考えてしまう。
「万が一……、倒れたりしたら……、ご迷惑でしょうし……」
「最近の相馬さんは、元気じゃないですか。毎日の散歩も10キロメートルになっているんですよ?」
隣の、怜奈さんを見る。保護者の代わりで学校に来てくれている。
だけど、やっぱり考えてしまう。
「中途退学の未来しか見えないですね……」
「相馬さん! 進学したくてもできない人だっているんですからね」
そうだった。目の前に、その人がいる。
とりあえず、高校受験は保留にして、帰ることにした。こっから先は、親に相談しないとけない。学費だって発生するんだし。
まあ、中学校から連絡が行くんだろうな。
◇
帰り道、今日は歩きだ。怜奈さんとデートになるのかな?
市街地を雑談しながら歩いて行く。
でも、途中で怜奈さんが止まった。
その視線の先を見る。
服屋……、ブティックでいいのかな?
「ちょっと寄りませんか? 成長期なんですし。洋服を新調しましょう」
ウィンドウに飾られている値段を見る。
「高いですね。量販店でいいですよ? ショッピングモールに行きましょう」
「ご両親に請求すれば、お金は支払って貰えるんですよ? 数着ぐらいいいモノを買いましょうよ。下着は、安物でもいいので」
僕がごねても、時間の無駄だ。
その後、店に入り着せ替え人形にされる。
とりあえず、三着分の上下の洋服と、コート一着を買うことになった。靴まで売っていたので、革靴を買う。一ヵ月後に履けなくなっていなければいいんだけど。
スニーカーが欲しかったけど、ホームセンターでもいいかな。後で買いに行こう。
それと、値段は――大丈夫なのかな。
僕にブランド物なんて必要ないんだけど。怜奈さんが、支払いを済ませる。
「うふふ。そのまま着て帰りましょうね」
「……はい」
なんだろう。街中に出ると、ジロジロと見られている気がする。
「美男美女カップル。随分と若いし……、スライムで若返った親子かもね」
「富豪でも、行き過ぎた行動だよね。寄付でもしろって言いたいね」
すれ違った人の声が聞こえた。
怜奈さんを見る。
「うふふ。イケメンですね~。相馬さん」
僕がイケメン?
ガラスに映った自分の顔を見る。
「……健康そうな顔してるな。僕ってこんな顔していたんだ」
「相馬さんは、素材は良かったんですよ。それに背も伸びましたものね。今は立派なイケメンです」
もう一度、ガラスに映る自分の顔を見た。
「僕が――イケメン?」
◇
次の日に、親が来た。両親共にだ。
三人でテーブルに着く。怜奈さんは、僕の後ろに立っている。座ってもいいと思うんだけど。
「随分と健康そうな顔になったな。それと、その服装も様になっている。みすぼらしい服装でなくて良かったぞ。安心した」
普段は、寝巻きか病院の患者服で会ってたし。だけど、両親としてもブランド物を着ている息子がいいのか……。
病院の患者服で会うのが、普通だったしね。
「この一ヵ月は、症状が落ち着いています」
「……時間がない。早速本題だが、高校に進学しろ。地江利高校なら私たちも文句はない。もちろん、公立でもいいが、偏差値の高い高校にしてくれ」
地江利高校……。スライム事業に携わる人たちが目指す、エリート進学高校だ。名称はどうかと思うけど。
入学には、学力以外も必要だと聞いたことがあるな。特に小論文だ。中学生に作文ではなく、論文を求めるらしい。
僕は、ため息を吐いた。
「倒れたらご迷惑ですし……、この家で静養しています」
「試験だけでも受けろ。受験してみろ」
まあ、それくらいならいいか。
「あの~、よろしいでしょうか?」
怜奈さんが、口を開いた。
「何かな?」
怜奈さんが、前回の模試結果と医師の診断書をテーブルに置いて、僕の近況を説明してくれた。
両親は、関心がないらしい。興味があるのは、僕の学力だけみたいだ。
世間体を……、気にしているんだな。
「報告ご苦労。受験には付き合ってあげてくれ。それと、今後も頼む」
「もういいかしら? 結論は、始めから出ていたのだし。それと、最終電車の時間ですよ? 顔も見たんだし、乗り遅れないように移動しましょうよ」
少しイラっとした。例え実の親だとしてもだ。
ちょっと、嫌がらせを含めた要求をしてみるか。
「怜奈さんに看護学校受験を許可してくれるなら、僕も高校受験を受けてもいいです。もちろん、合格したら怜奈さんの学費も出してくださいね。その費用を賄えるくらいは、働いて貰っているので。いえ……、それではダメですね。奨学金の保証人くらいなら頼めますか? 社会人になってから返して貰うのであれば、問題ないでしょう?」
僕の言葉に、全員が絶句した。




