第7話 高校受験をすることになりました
両親が、帰って行った。
「相馬さん……。何故あんなことを」
「少し頭に血が上っていましたね。でも、了承するなんて思いませんでした」
看護学校もそれなりに学費がかかる。
だけど、お金で解決する問題なら、僕の両親は二つ返事で受けてくれた。
取引にもならなかったな。
「それでは、怜奈さんも受験勉強をしないとですね。お互い頑張りましょう」
「はい!」
怜奈さんが、嬉しそうに微笑んでくれた。
◇
クリスマスが過ぎて、正月も終わった。怜奈さんは、実家にも帰らない。
そんな契約だったからだ。最低でも2年間は、僕と一緒にいてくれる。
どうしようもない時は、僕が病院のお世話になればいい。これは、病院側も了承してくれている。
「ふう~。過去問は全部解き終わった。それと、高校の予習も必要なんだな……」
改めて、自分の受けようとする学校のレベルの高さが分かった。公立の試験とは、問題のレベルが違う。
だけど、今の僕なら合格できそうだ。ケアレスミスしなければ、満点もあるかな?
「私も一息入れます。お茶にしますか?」
「お願いします」
リビングで勉強をする。互いに無言だった。怜奈さんにしてみれば、最初で最後のチャンスかもしれない。次は、二年後になるんだし。だけど、怜奈さんの成績ならば、看護学校の合格は疑いようがなかった。
僕の方が、危ないだろうな。
地域で最高の偏差値を誇る学校を、受験しようというんだから。
「ふう~。いい香りですね」
「うふふ。以前の相馬さんは、真水かスポーツドリンク、もしくは経口補水液しか飲まなかったのですけどね~。本当に変わりましたね」
そう言えばそうだ。もう、食事に気を配る必要もなかった。
僕がステーキを食べた時、怜奈さんはとても素敵な笑顔を見せてくれた。
「そう言えば、体がガッシリして来ましたね~」
筋トレの成果かな?
以前は、ウォーキングだけだったけど、日に10キロメートルを超えると、怜奈さんの方が疲れてしまった。
医者に相談して、腕立て伏せ、腹筋、背筋などのトレーニングメニューを作って貰った。毎日、必要以上の回数を熟している。その成果が出ている?
服をまくり上げて、自分の腹を見る。
「見事なシックスパックだよな」
怜奈さんを見る。顔を真っ赤にしていた。
「あ……。ごめんなさい」
「いえ――眼福でした……」
それって、男性が使う言葉じゃない?
◇
受験日は、すぐにやって来た。充実した日々だったみたいだ。
怜奈さんと共に受験会場に行く。
「それでは行って来ますね。終わったら連絡します」
「あっ……。これを」
御守りを買ってくれていたのか。僕は用意していないな。
「ありがとうございます」
お礼を言って受け取る。
怜奈さんは、敷地に入れないので、近くの喫茶店で待っていて貰う。
受験する教室を探して、自分の席を探した。気分は、落ち着いている。
こうして、試験が始まった。
(順調、順調)
解答用紙を埋めて行く。
そして、あっという間に最終試験だ。問題の小論文だった。
開始の合図と共に、お題を読む……。
(スライムの多様性についての見解?)
スライムって分裂するだけの、単一種じゃなかったのか?
周囲の空気が変わったのが、分かった。過去問題を解いたけど、これは予想外だ。
だけど……、僕はポイズンとメタルを見ている。
『ありえる』を結論として、小論文を組み立てた。
◇
最後に、簡単な面接を受けて受験は終わりになった。
結果は、寝て待とう。それと、落ちた場合は、公立高校の受験もある。
僕は、怜奈さんが待っている喫茶店に向かった。
「あっ、お疲れさまでした」
怜奈さんを見ると、複数の男性に囲まれていた?
その人たちが、僕を見ると離れて行く……。
「誰ですか? 知り合いには見えませんでしたけど……」
「ナンパでした。たまにあるんですよ」
たまに――なのかな……。
僕の綺麗な家政婦さん。独占している気はないけど、恋人がいても不思議だとは思わない。時間を作ってコッソリ会っているかもしれないと思っていた。
嫌な考えは、置いておこう。それよりも、今日は寄らなければならない場所がある。
「少し寄りたいところがあるので、頼めますか?」
「いいですけど、疲れていませんか?」
一緒に喫茶店を出る。
そして、神社に向かった。
僕も、御守りを買う。
「今度は、怜奈さんが頑張る番ですね」
怜奈さんは、嬉しそうにお守りを受け取ってくれた。
◇◇◇
「……受かったんですか?」
高校に呼び出されたと思ったら、結果通知だった。
怜奈さんは、嬉しそうだ。
「それで、通うんだよな?」
教師が、不安気に聞いて来た。
まあ、怜奈さんの件もある。途中で不登校になる可能性もあるけど、通う以外の選択肢はなかった。
「もちろんです。親とも話しています」
入学案内の書類を受け取って、中学校を後にする。
怜奈さんは、とても嬉しそうだ。
「後は、明日の怜奈さんの合否ですね」
「うふふ。自信はあるんですよ~」
怜奈さんは、元々頭がいい。それに、一年の浪人という形だけど、勉強を続けていた。
合格は疑いようがない。
「これで、二人して新しい道に進めますね~」
ドキっとしてしまった。
「家政婦は、続けて貰いますよ? 辞めませんよね?」
「もちろん、続けますよ~」
ビビった。一瞬焦ってしまった。
そして、怜奈さんは、無事看護学校に合格した。お祝いのディナーは、高級な店にしたかったんだけど、僕にお店の知識なんてない。
スマホで調べても、理解できない。
結局、怜奈さんの行きつけのイタリア料理でパスタを食べた。
オシャレなお店だったな。
ちなみになんだけど、デートでイカ墨パスタは止めよう。珍しかったので注文したのだけど、笑われてしまった。
◇
怜奈さんも無事に合格して、二人して4月から新生活だ。
制服を作らないとな。
怜奈さんは、私服での通学らしい。
親からは、『良くやった』とだけ、スマホに返って来た。弟と妹からは、何もなし。
まあ、仮に私立の中学受験に成功したとしても、僕から兄弟に祝いの言葉をかけるつもりもない。
冷めきった血の関係よりも、僕には怜奈さんが家族に思える。
「少し大き目のサイズを選びますね」
採寸して貰い、制服のサイズが決まった。
だけど、僕は今だ成長途中なんだよな。制服は、3年間持つんだろうか?
ちょっと前に買った革靴は、ギリギリ履ける状態だったし。大き目のスニーカーが欲しい。
それと、ちょっと提案してみるか。
「……怜奈さんも洋服を買いませんか?」
「……えっ?」
店員に相談して、二十歳の女性の着る服装を選んで貰う。今後のために、スーツを選んで貰った。
「あの、相馬さん。私の洋服代をご両親に請求するのは……」
「大丈夫ですよ。金額だけ見て、内容を確認してるとは思えないですし。それよりも、イヤリングが欲しいですね」
『衣』食住の保証のある契約なんだ。問題ないはずだ。
怜奈さんは、ピアス穴を空けていない。挟むタイプだな。
それと、ネックレスも購入して貰った。小さなダイヤが光っている。
お金に余裕があっても、健康ではなかった生活。
ショッピングって楽しいんだな。初めて知った。特に好きな人に贈るのであれば尚更だ。
やっと、人並みの生活が送れるようになって、楽しい毎日になりつつある。ちょっと買い過ぎかもしれないけど。
親へ依存しているけど、まだ学生なんだ。大学も行けと言うだろうし、後7年は頼ってもいい筈だ。
怜奈さんは、青い顔をして、支払いを済ませてくれた。スマホ決済で支払い完了。
良かった。僕のプレゼントは受け取って貰えたみたいだ。
◇
「相馬さん。今日の晩御飯は、牛丼にします。その……、私も時間がなくて」
そうか、入学式は怜奈さんの方が早い。明日だったな。
「簡単なモノでいいですよ。時短できるモノで」
「ありがとうございます」
素早く夕食を済ませると、怜奈さんは、自室に行ってしまった。
僕も自室に戻る。
「メタルに餌をあげないとな~」
僕は、使い切ったボールペンをメタルに与えた。
そして、金魚にも餌をあげる。
水が減っていたので、水を足さないとね。水道水をカルキ抜き剤を使って、金魚に負担をかけないようにしないといけない。
ここでふと疑問に思う……。スライムの体積は増えていなけど、何処に水分が消えているんだろう?
それと金魚は、モンスター化することはなかったな。
「まあ、モンスター化する時の質量は、何処から来ているか分からないんだし、今更だよな」
◇
今日は、怜奈さんの入学式だ。
「それでは行って来ます。食器は、シンクに入れておいてください」
朝食を済ませた後に、突然言われた。
「僕も行きますよ? 入学式を見てみたいです」
「えっ!?」
そんなに予想外だったのかな?
でも、何時も世話をしてくれている恩人の晴れ姿なんだ。スマホで写真くらい撮りたい。




