第3話 魔力に目覚めました?
……目が覚めた。
周囲を見渡すと、集中治療室みたいだった……? 機材が見える。
それと、手足が縛られている。カーテンで仕切られているので、自分の周囲以外は見えない。
周囲の状況と、最後の記憶から、現在を推測する。
(病院だよな……。それと、生き延びられたのか?)
とりあえず、ナースコールを鳴らす。場所は、良く知っている。
看護師が、慌てて来てくれた。
「気分はいかがですか?」
「問題ないです」
僕がそう言うと、酸素マスクを外してくれた。
それと、手足が拘束されていたけど、それも外してくれた。信頼されているらしい。
まあ、長い入院生活で、僕は看護師を困らせたことはない。床ずれは避けたいしね。
体を起こそうとするけど、看護師に制止させられる。まだ、寝ていた方がいいのかな?
「えっと、どれくらい寝ていましたか?」
「数時間ですよ? 何か悪い物でも食べましたか?」
「相馬さん!」
怜奈さんが、目を腫らして駆け寄ってくれた。
「ゴメンなさい。ゴメンなさい。食事に問題があったみたいで……」
不思議に思ってしまう。湯豆腐だよ?
その後、警察が来て事情聴取だ。
「ふむ……。湯豆腐を食べたと。材料に問題はなかったのだね?」
怜奈さんが疑われていたのか。ここは、擁護しないとね。
「僕にアレルギーはありません。食事には問題なかったと思います。しいて上げるなら、美味しくて食べ過ぎたのかもしれません。胃腸が、受け付けなかったのかな?」
何が悪かったかは、僕も分からない。そして、何故生き延びられたのかも、誰も分からないだろうな。
救急車の中では、心臓が異常なスピードで動いていたらしいけど、食事でそんな異常が起きるとは考えられない。アレルギー物質なら、発疹が出るはずだし。
「ふむ……。今の気分はどうだい?」
言われて気が付く。体が軽い?
「とても……、調子いいです」
手を、グーパーする。
力が入る。こんな感覚は、今までになかった。
ここで、お腹が「ぐ~」と鳴った。
「……食べ過ぎには、注意してね」
警官は、呆れて帰って行った。人騒がせだよな……。すいませんでした。
僕は、怜奈さんの手を握る。
「ゴメンなさい。僕の不注意でした」
怜奈さんは、泣きながら聞き取れない回答をしてくれた。
◇
一日持たずに病院の出戻りなので、また病室に移される。
それと、お腹が鳴って仕方なかった。
看護師が気を効かせて、病院食を持って来てくれたけど、まるで足らない。
怜奈さんにお願いして、お弁当を買って来て貰った。
「それでも足らないんだよな……」
怜奈さんは、病室で寝ている。
僕は、ベッドから降りて立ち上がった。
「どうなってんだ……」
あれだけ、辛かった内臓の痛みが消えていた。
体が軽い。
そして、体中の筋肉に力が入る。
生まれ変わった気分だ。
それと……。
「右手の人差し指が光っているんだけど?」
ポイズンに噛まれた傷だ。もう傷は塞がっているんだけど、淡く光っている。誰も気が付かなかった? 僕にしか見えない?
ここで思う。
「指先にポイズンの体液がついていて、それを舐めたから倒れたのか? 摂取したことになった?」
だけど、そんな事例は聞いたことがなかった。それもあんな僅かな量で。
スライムに病気の回復効果は、なかったはずだ。
若返りの効果だけが、報告されていた。
「まあ、考え過ぎだよな。今日だけ調子いいのかもしれないし」
僕は、光る指先で花瓶に触れてみた。取っ手に指をかけて、持ち上げてみる。
「うん、軽い。水が結構入っているのにな」
筋力が増えた感覚がしたけど、本当に増えているのかもしれない。
感覚に問題はなさそうだ。だけど、次の瞬間に違和感を感じた。
「!?」
ここで、声を出さなかったのは、奇跡だったかもしれない。
宙に浮く花瓶を見ても、声を押し殺した。
そう……、力を抜いても花瓶が落ちなかったので、そのまま手を離したのだ。
(念動力?)
もしくは、今だ夢の中にいる可能性……。
僕は、人差し指をゆっくりと下した。それに従い、花瓶も高度を落として、ゆっくりと棚に着地した。どう考えても自由落下じゃない。
周囲を見渡す。
怜奈さんが、寝ているだけだ。
僕は、好奇心には敵わずに再度の実験を行った。
なるべくバレないモノを……。
ごみ箱の枯れ葉で試してみたけど、やはり宙に浮いた。
でも左右には動かせない。
(これ、念動力じゃないな。〈浮遊〉が正しいのかもしれない。もしくは、〈空間固定〉が近いかな? 重力操作?)
今だ人類が、獲得できない技術だ。
そうなると、この人差し指の光は……、魔力?
◇◇◇
中二病全開の結論。
俺は、魔法使いになれた? 超能力者?
とりあえず、この光を止めないと異変に気がつく人がいるかもしれない。
僕は、漏れ出ている紫の光を体内に押し戻す感覚を模索した。
感覚を研ぎ澄ます。
体内から出ている力を、止める……、もしくは循環させる。
人差し指から出ている光を体内に循環させるイメージ。
血流がいいかもしれない。
血の流れに力を乗せる感覚。
「右手から、心臓へ。そして、動脈に乗って全身へ……」
右手人差し指の光が消えた。
多分だけど、核になるモノがあるんだと思う。それが心臓に移ったんだと考えられる。
「更に全身の力が漲る感覚だな……」
ここで、スマホが鳴った。
親からだった。
チャットを返す。
→『目が覚めたら、連絡するように』
←『食べ過ぎでした。お騒がせしました。もう大丈夫です』
→『では、見舞は必要ないな?』
←『明日には、退院できそうです。見舞は必要ありません』
そこで、チャットが途切れた。
多分だけど、父親と母親のどちらが来るのかで揉めたんだな。
仕事を頑張って貰おう。
それと、『怜奈さんには、家政婦を続けてもらいたいです』と、追加で送信した。
怜奈さんは、スースーと寝息を立てている。
そっと髪を撫でる。これくらいなら許して貰えるだろう。
怜奈さんは、高校卒業後に看護師専門学校に行きたかったらしい。だけど、家の資金難で断念したのだとか。
それで、住み込みの介護のバイトに応募して、僕のお世話をしてくれることになった。
2~3年で、専門学校を卒業できる資金が貯まるので、それまでの付き合いだ。
まあ、親の考えなのかもしれない。こんなに若く綺麗な人を家政婦に選ぶんだからね。
家事全般のスキルとかを確認せずに採用したらしい。僕へのせめてもの配慮だったのかもしれないな。
「空いた時間に勉強をしているのも知っている。努力家なんだよな」
怜奈さんは、「住み込みで、衣食住の保証付き。賃金もいいんです」と言って、何時も笑顔で僕に接してくれる。
ありがたい以外の言葉がなかった。
それに、病弱な僕では、同居しても襲われることもないしね。
◇
次の日に、医者と面談して退院となった。倒れたけど、異常はないんだし、入院する意味もない。現在のバイタルは、安定している。昨晩は、なんだったのかな……。人騒がせだったんだけど。自分の体なんだけど、良く分からない。
「胃腸が弱っているかもしれないね。食事の量は少しずつ増やしてね。一度に大量に食べないように。血糖値の問題があるからね」
「はい」
ここで、お腹が鳴る。医者が、不思議そうな顔をした。
「なんか、お腹が空き過ぎて……。何か食べたいです」
「健康なのか、病弱なのか分からない。君みたいな患者は、初めてだよ」
帰りのタクシーは、途中で怜奈さんを降ろした。
スーパーで食材を買うらしい。
僕は、一人で家までタクシーで送って貰った。
急いで、自分の部屋に行く。
寸胴鍋の蓋を開けた。
「あちゃ~」
そこには、干からびたスライムが、鍋の底で固まっていた。
急いで水をかけてあげたけど、戻る気配はない。水を弾いている。
「一日でこれか……。蓋をしたのがいけなかったな。死なせてしまうのであれば、逃がすべきだった。でも動物に食べられる危険もあったし……。どうしようか……、これ」
コップにスライムと水を移し替える。
「……ごく」
衝動に駆られる。こんなことは今までなかった。
僕は、水を飲み干し、硬くなったスライムを鍋底から引き剥がして食べてしまった。
◇
夕食は、和風ハンバーグだった。
ご飯は、お粥だ。
モリモリと食べて行く。
「相馬さん……。どうされました? 随分と食が進みますね?」
「なんか、食べられます。胃腸が、強くなった気分です。美味しいんですよ」
味覚が戻って来ている。それだけは、分かった。
怜奈さんは、いい笑顔だ。
食事を終えて、自室に戻り、一息吐いた。
「ふぅ~。明らかに異常だよな」
怜奈さんは、疑って来ない。だけど、異変には気付かれていると思おう。
僕は、コップを持ち上げた。
そして、紫色の光を放ち、コップを覆う。
コップから手を離す。
「〈反重力〉か〈空間固定〉かな? 今だに科学では実現できない現象だな」
僕が魔力と名付けた紫色の光……。
昨日よりも制御できるようになっていた。




