第18話 怜奈さんを説得しようと思います
とりあえず、最低限の合格は頂いたみたいだ。
話を聞くと、防御や回避など、怪我をしないことが最低条件なんだとか。
攻撃方法が多彩な楓さんが、基準設定をしているらしい。
楓さんは、オールラウンダーであり、独りでモンスターを討伐出来るのだとか。
初日の、焔さんは――入隊試験だったのかな?
その後、攻撃力の確認をして貰う。
「ふ~ん。〈固定〉と〈崩壊〉か……。土属性かな?」
「……一概に言えない」
「ちげぇだろ。属性はないんじゃないか? 既存の物理法則にこんな現象ないし」
「……有用とは言える。モンスターを倒していたし」
牧先生が纏めてくれる。
「今までのデータから、モンスターの能力をキャンセルする能力だと、推測されているわ。もしかすると、雨会婆島対策の切り札になるかもね」
四人が、渋い顔をする。
雨会婆島――僕でも知っている、日本の汚点だ。
「確か、雨会婆島って、研究所があったけど、今は立ち入り禁止になった島ですよね」
突然、モンスターが溢れて、放棄した島だ。第七研究所だったかな?
ミサイルで平らにしたんだけど、モンスターは討伐出来なかったらしい。
森を全て焼くか、枯葉剤を撒くかで話題になったけど、元島民が反対していたんだよな。海洋汚染も危惧されていた。そんな議論をしていたら、突然森が発生したんだ。植物の大発生だった。
その後、放置に決まった。モンスター同士が共食いを行って、数が減るのを待っていると聞いているんだけど……。
「そそ。奪還に何度か精鋭を送り込んだんだけど、敗走を繰り返しているわ」
奪還? そんなことをしていたんだ?
更に話を聞くと、スライムが大繁殖して、それを食べた昆虫に支配されてしまったのだとか。
一般には、公開していない情報だな。それと、『精鋭』ね……。
『覚醒者』の一番の死亡理由が、雨会婆島じゃないといいな。
「黛を除いた三人は、魔法による物理攻撃だからね。でも、才羽を加えたら行けそうじゃない?」
「「「「二度とゴメンです。昆虫は気持ち悪い!」」」」
この四人が、拒絶するほどのモンスター数が生息しているのか。
というか、4人は行ったことあるのか……。あの島に。
◇
「下の世代ってどうなっていますか?」
教室に戻って、疑問に思ったことを聞いてみる。
「私たち以外にはいない……は、正確な表現じゃないね。能力の低すぎる奴が少々かな。前線に出せてない。見いだされる前に能力を使って特攻した奴は、殉職か再起不能がほとんどだね」
牧先生が答えてくれた。
「4人が引退したら? 義務は22歳までなんですよね?」
楓さんが、答えてくれた。
「牧先生の例があるじゃない? まあ、残る人は残れるんだよ。スライム防衛隊に入隊してもいいし。それに才羽は才能に目覚めてから一年経ってないんでしょ? 後輩は、いきなりポッと出て来るんだよ」
再度、牧先生を見る。
「牧先生は、……残った?」
「まあ、そうだね。スライム防衛隊に入隊しても良かったんだけど、黛が心配でね。教職につかせて貰ったわ。これから7年間は、黛と行動を共にするつもり」
分かる。……若干嘘が混じっているな。
牧先生は、怪我した防衛隊員を回復するのが、最も貢献できる。でも、黛さんの生存を最優先に考えたのか。
黛さんを見ると、寝ている。肯定も否定もしないと言ったとこか。
黛さんは、日本としても失えない、貴重な『覚醒者』なんだな。
「さあ、雑談は終わりにしよう。今日は、過去の変異種のおさらいだ」
「「「私たちは、全部覚えているよ~」」」「……」
「才羽に合わせろ~」
今後の授業って、どうなるのかな?
スライム関係のみ?
魔力制御を教えてよ。
◇
下校時刻になった。
僕たちは、部活に入ってはいけないんだそうだ。例え、文科系でもだ。
金属スライムの摂取は、それほど他を圧倒するんだとか。
特に僕は、ポイズンスライムも摂取している。運動神経というか、身体能力が普通の人以上だ。
自転車での競争だけじゃない、陸上部とかの動きを見て、判断した。
「多分だけど、自分の潜在能力を引き出しているんだろうな」
水泳なんかしたことないけど、一日で泳げるようになるんだろうな。
陸上大会なんかに参加すれば、大会レコードを更新できるかもしれない。
でも見せつけて、優越感を得る意味もない。
運動場を一瞥して、僕は帰路に着いた。
「自転車だと、時間は自由に取れるんだよな……」
途中で寄り道をしてもいいけど、欲しいモノもない。買い食いもしたくなかった。
家に着くと、怜奈さんはいなかった。
僕の方が、授業が早く終わるみたいだ。
テラスで、経口補水液を飲みながらのんびりする。
そうすると、怜奈さんが帰って来た。
「お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
食材の入った袋を受け取って、一緒に家に入る。
怜奈さんは、そのまま夕食を作り始めた。
僕は、リビングでその光景を眺める。
手早く、夕飯が作られた。夕食は、またハンバーグだな。僕の好物と思ってくれているのかもしれない。
「頂きます。……美味しいです」
「……よかったです」
怜奈さんは、怒っているのかな? 無言だ。いや、困惑してるんだろうな。
ご飯をおかわりして、満腹感を味わいながら夕食を終えた。
「ごちそうさまでした」
怜奈さんが、無言で食器をかたずける。
これ……、どうしようかな。
◇◇◇
怜奈さんが、夕食の片付けを始めた。
僕は、後ろから抱きしめてみる……。
「ひゃっ!? ……何をするんですか!? 性欲の処理は、契約に含まれていませんよ!?」
「好きです。怜奈さん」
――パン
腕を解かれて、平手打ちされてしまった。
怜奈さんは、自分の部屋に籠ってしまう。
「間違ったか……。甘えるのは間違いみたいだ」
その日は、食器を僕が洗った。
シャワーを浴びて、僕も自室に入る。
ここで、スマホが鳴った。緊急用の方だ。
「C-2地区? 遠いな……」
送迎車が来ると思う。準備だけするか。
そう思ったんだけど。
目の前の空間が歪んだ……。
「……才羽。準備出来ている?」
「黛さん?」
「ちっ。最中じゃなかったか……」
何の最中ですか? つうか、不法侵入ですよ?
話を聞くと、転移魔法なんだとか。
遠い場合は、黛さんが迎えに来てくれるらしい。なんで僕の家の場所を知っているのかは、後で訊こう。
そのまま、歪んだ空間に足を踏み入れる。
空間を抜けた先には、暴れているモンスターがいた。小型だけど、尻尾が長い。
「私は、攻撃力がない。才羽……、後は頼んだ」
見ると、銃弾が消えている。
当たる前に、消されているみたいだ。地面もかなり削れている。モンスターが、触れた物質を消滅させている?
半分消えた銃なんかが、散乱している。鋭い刃物でも、こうは切れないだろう。
僕は、左右の魔力を展開した。
モンスターの前に立つと、僕に向かって来る。
僕は、そのモンスターの突進を受け止めた。
「牧先生の分析通りだな。物理法則の異なるモンスターであれば、僕の魔力でキャンセルできる……」
分析が外れていたら、僕が消滅していたかもしれないけど、何となくできる気がした。
結構、危ない思考になっているのかもしれない。
次の瞬間に、モンスターが拘束された。
黛さんの魔法のようだ。
「君! 下がってくれ! 一斉掃射する!」
それでもいいんだけど、万が一がある。
僕は、モンスターの頭に左手を添えた。
銀色の〈崩壊〉の魔力を送ると、脳の部分が崩れ落ちる。モンスターの核が見えたので、掴んだ。
その後に、僕は下がった。
防衛隊の発砲で、モンスターが穴だらけになる。
黛さんが、拘束を解くけどモンスターは動かない。討伐完了かな?
「核を渡してくれないか?」
「はい」
スライム防衛隊員に、モンスターの核を渡す。
この核……。使い道があるんだろうな。僕にも有効なのか知りたいけど、機密事項になると思う。
使い方の内容により、世界がまた鳴動するだろうし。
「お疲れ。送る」
黛さんがそう言うと、歪んだ空間が現れた。
疑う理由もないな。
そのまま、歩を進める。
そして、自室に戻って来た。
「便利なんだな……。〈転移〉になるのかな? それと、靴も用意しておこうか」
今日はスリッパだったけど、スニーカーくらいは必要だと思う。
黛さんは、僕の部屋に入って来ずに、歪んだ空間が消えた。
労いも、祝勝会もない。スライム防衛隊ってのは、淡白なんだな。
その日は、そのまま寝ることにした。もう一度シャワーを浴びてもいいけど、怜奈さんに気取られたくない。
眠りにつきながら、色々考える。
「牧先生と黛さんが、防衛の要なんだな。僕を含めた残りの4人は替えが効く。それと他の研究所は、どうなんだろうか……」
この街だけ、変異種のモンスターが現れるというのは理屈に合わない。
まだ数の少ない『覚醒者』。
『覚醒者』の数が増えて、防衛態勢が整うのが先か、モンスターに研究所付近の土地を取られるのが先か……。
最悪、日本の国土が、人の住めない土地になるかもしれない。
朝目が覚めたので、シャワーを浴びる。怜奈さんは、何も言わない。
無言で、朝食を頂く。
「ごちそうさまでした」
「……お粗末さまでした」
これ、どうしようかな。
どうしたら、機嫌を直してくれるのか。
――ピンポーン
ここでインターホンが鳴った。
「僕が出ますね」
「お願いします」
――ガチャ
「「「「おっはよ~」」」」
「楓さん? っと、皆も?」
「その他、一纏めにされた……」
朝から、4人が僕の家に来た? 牧先生はいないんだけど……。
「えっと……、お友達ですか? 朝から?」
背後から怜奈さんが、声をかけて来た。
「ク、クラスメイトです」
「まあまあ……」
やばい、絶対誤解している。
その後、怜奈さんはすぐに準備して看護学校に行ってしまった。
僕は……、頭が痛い。
「え~と、朝からどうしたのですか? つうか、もう遅刻ですよね?」
一応、お茶を用意する。
「うちらさ、授業はもう意味ないじゃん? そんで、昨晩、まゆっちが、才羽の家に遊びに行ったから、私たちも来たの。そんで、さっきの人だれ? モデルみたいだったんだけど? お姉さん?」
遊びじゃないでしょうに。
「家政婦さんですよ。看護学校に通いながら、僕のお世話もしてくれています」
「ふ~ん。いい生活してんだね~」
「だから、私たちにも興味がない……と」
「綺麗な人だった」
すっごい、誤解しているな。
「ゴホン。皆が想像していることは、なにもないですよ?」
「私たちを口説いて来ない時点で、信用できないんだよな~」
全員美少女と言えるけど、僕は異性として興味がないかな。




