第17話 能力を確認することになりました
後始末は、スライム防衛隊に任せて、僕は帰宅することになった。
茜さんと牧先生は、まだやることがあるんだそうだ。
僕もその内、教えて貰おう。
スライム防衛隊の車両で、家まで送って貰った。
「ありがとうございました」
「お礼を言うのは、こちらですよ。今後もよろしくお願いします」
防衛隊の人と挨拶をする。
車を見送った後、家に入った。家は、静かだ。怜奈さんは、寝ているのかな。
僕は意を決して、怜奈さんの部屋の前まで移動した。
(だけど……、何て言うんだ?)
僕は、暫く考えて、ドアをノックした。
――コンコン
「怜奈さん……。帰って来ました。怪我はしていません。これから、こんな日が度々あるかもしれませんが、必ず帰って来ます」
「…………」
返事はなかった。
もう夜も遅い。僕は、シャワーを浴びてすぐに寝ることにした。
◇
朝になって、いつも通りリビングへ。
怜奈さんは、朝食を作ってくれていた。
「おはようございます」
「……おはようございます」
気まずい朝食だな。怜奈さんが怒っているのが分かる。
無言で食べる。
食器をかたずけて貰い、登校の準備だ。
「行って来ます」
「相馬さん……。行ってらっしゃい」
「はい……。それと、庭にスライムが現れるかもしれません。放置でお願いします。見つけた場合は、連絡を入れてください。最低でも触れないでください」
再度の注意だ。
怜奈さんが不思議そうな顔をする。
「……分かりました」
そのまま、マウンテンバイクを漕ぐ。
「スライムが、怜奈さんに魅かれている可能性を、まだ否定できないんだよな……」
商店街に出て、大通りを進む。今日もロードバイクに抜かれた。平地だと本当に速いな。同じ乗り物だとは思えない。
相手にはしない。無意味だ。トップスピードを競う意味もないし。
なにより、危ない。
(そう言えば、同じ学校の生徒なんだな……)
僕は、二日目で相手の顔を見たんだな。「ロードバイクに乗った人」としか認識していなかった。
でも上り坂で追い付いて抜いてしまう。
(スプリンターとクライマーだったかな……。僕は、クライマーみたいだ)
僕はスピードより、ストレングスの値が、高い気がする。
まあ、スライムを摂取した時点で、もう身体能力のテストは受けられない。どんな記録になるかも分からないし。
それと、人間の限界を超えているとは感じない。
少なくとも、100メートルを8秒で走れるとかはない。それだけは分かる。それよりも、超能力――技能だ。
危険な任務に就くことになったんだ、技能の可能性を広げていきたいと思う。
「……握力計でも買うか」
今の自分が、どの程度の筋力なのかを知る必要がある。余りにも急激に体が育ちすぎた。ランニングや腕立て伏せ、スクワットなんかでは、もう自分の立ち位置が分からなくなっている。モンスターの討伐に体力が必要かは、まだ分からないけど。
「高校入学前までは、毎日、20キロメートルのウォーキングと、200回の腕立て伏せと腹筋・背筋、30分間のスクワットを行っていた。医者の提示して来た10倍だけど、普通の高校生ならば、当たり前なのかもしれないし……。また、再開してみるか?」
比較対象がいなく、怜奈さんは途中からついて来れなくなった。
それと、クラスメイトの4人が出来るとも思えない。
現在の比較対象は、あのロードバイクしかいなかった。
考えていると、学校に着いた。
僕は、自転車を置いて、教室に向かった。
教室に入る。
「おはようございます」
「「「「おはよう」」」」
んっ? 今日は、全員の挨拶が返って来た? 多少変わったか?
その後、牧先生が来る。
「お~す。ホームルーム始めるぞ~」
一礼をして、授業開始だ。授業……だよな?
「魔力を使った組手?」
「そそ。昨日の才羽のデータから、フォーメーションを考えないとね。相性の悪い相手に当たった場合に、フロントを変更する必要があるからね。それ次第で、生存率が大幅に変わるんだよ」
牧先生から簡単な説明を受ける。
でも、フロント? 前衛って意味かな? アタッカー? 攻撃部隊?
僕は、前に出るの?
「アタッカーとして認められたってことだよ」
今度は、茜さんからだった。
どうやら、僕は攻撃力を期待されているみたいだ。
(それと、話から茜さんと焔さんが前衛で、攻撃役なんだな。黛さんは、後衛なんだろう。牧先生も。後は、楓さんかな……)
「そんじゃ確認だ。全員移動ね。黛おねがい」
「んっ」
教室のドアを開けた。
「今日は、草原か……」
何処ですかここ? すっごい涼しいので日本じゃないな。
地平線が見えるし。
見つかったら、不法滞在に問われない?
つうか、外国にでも行けるんだ……。
「便利……ですね」
◇◇◇
外履きに履き替える。今日は持って来ていた。
外に出てみると、人の姿は見えなかった。本当に何処だろう……。
「そんじゃ、今日は楓ね。いっちょ揉んでやって」
組み手の相手は、楓さんか。大きな胸が揺れる。これで、全員の能力を確認出来ることになる。牧先生は……、後でもいいか。
「準備はいい?」
準備と言われてもな……。一応足のストレッチをした。
体中の関節を動かす。
「大丈夫です」
僕がそう言うと、楓さんの魔力が膨れ上がった。
そして……。
「まず、弾丸からね」
周囲の石が浮かび上がった?
それが……、消えた。
僕は反射で、右手の魔力を体の正面に展開した。魔法陣みたいなのが、浮かび上がる。その魔法陣の範囲の空気を〈固定〉した。
――ガンガンガンガン……
小石が、紫の魔力で止まるか、弾かれる。
「ふ~ん。勘のいい奴だな。ほとんどの奴は、楓の弾丸を受けると蜂の巣なのに」
「そんで、心を折るんだよね~。初見殺しだよね~」
「……まだ、全然本気じゃない」
「怪我しても治してやるぞ~。全力で行け~」
危ない……。秒殺されるとこだった。石を目に見えない速度で射出するのか? 弾丸みたいだったんだけど? 射出のエネルギーってどうやって作っているんだ?
それが、楓さんの能力?
正面からだったので、反射で反応できただけだ。
「次行くよ~」
大規模魔法だった。
土砂を大量に巻き上げている。
しかも操作しているし。
土砂を大量に含んだ、竜巻みたいなのが襲って来る。あれは、不味い。巻き込まれたら、体中に穴が空いて、上空に飛ばされそうだ。
「あれをやられると、街が壊れるんだよな~」
「まだ、セーブしてる方じゃん?」
「……終わり」
土使い? 土魔法? 少なくとも、風魔法じゃない。茜さんとは、明らかに違う。
何トンの土砂を操っているのかも分からない。少なくとも、魔力操作では、僕の数段上って感じだ。
僕は、紫色と銀色の魔力を展開した。
そして、全力で逃げる!
数トンの土砂が襲って来る。竜巻というか、イカとかタコの足みたいな形をしたのが一本だ。
その土砂に僕の魔力を当てるけど、止められない。死角から来られると、両手では防ぎきれない。範囲が広すぎる。
とりあえず、移動しながら躱して行く。
――ドン、ダン、ガン……
躱しきれない、石礫が体に当たる。だけど、怪我にはなっていない。威力は、さほどでもない?
「このままだと、ジリ貧だな」
新しい発想が必要だ。
躱す、躱す、躱す……。
手加減されているのが、分かる。スピードがない。複数方向からも来ないし。
ここで、地面が滑ることが分かった。
土砂が、堆積されている場所だと、僕の脚力では穴を掘ってしまい、足を取られる。
これも、予定された戦術なんだろうな。
対応策が思いつかなかった、僕の時間切れ負けだな。
バランスを崩して、動きの悪くなった僕に、大量の土砂が襲いかかって来る……。
「ぐっ……」
僕は……、全身に魔力を纏った。
これならば、死角から来られても、防ぐことが出来る。
その後……、僕は土砂に埋まった。
静かになった。
魔力を放出して、土砂から抜け出る。
だけど、その瞬間を狙われた。
石の狙撃が来る。
「まあ、予想していたけどね」
――ガン
その弾丸は、纏った僕の魔力で弾かれる……。
「そこまで! 楓の勝利ね」
牧先生のストップで組手が終わった。
「ふう~」
いきなり、こんな組手は望んでいなかった。
「……初見での楓との組み手を、無傷で終えた奴っていたっけ?」
「……私」
「茜と焔は、散々だったからね~」
「凄いな~。制服に穴すら空いてないよ」
数分間の組手だったけど、死線を潜り抜けたようだ。
いや、マジで死にそうだったけどね。魔力がなかったら、穴だらけか平らになっていた。
それと、次は体操服で組手しよう。汗が酷い。
「これなら、即戦力だね。昨日の茜の話も納得できるよ。何処で、魔力の制御方法を学んだんだか」
魔力の制御って、学べるんだ?
それを授業にして欲しいな。
「学んでませんって。独学になるのかな?」
「ふ~ん? 才能なのかな? 伸びしろに期待だね」
「魔力制御だけは、一人前……。能力は分からない。防御ばっかりだったし。それと、男子だから体力がある。羨ましい」
合格を頂いたけど、朝っぱらから、疲れたよ。




