第13話 高校入学
外に出る。本当に雪だった。上履きで、ザクザクと音を立てて歩く。
実は、雪を踏むのは初めてだった。僕は、雪の降る地域に住んだことはない。県境の山を越えれば、豪雪地帯だとも聞いたことがあるけどね。
「そんで、才羽だっけ? お前だけ二文字なのも気に入らねぇ」
そんなんで、言いがかりつけないでください。生まれは、選べないんですよ。
「いいじゃん、三口で呼べるんだし。黛が一番変になっちゃうじゃん」
「……殺されたい?」
なんだろう、この殺伐としながら、和やかな雰囲気は……。
ここで、焔さんが掌から、炎を生み出した。
「この火は、着火すると消えないぜ?」
中二病!!
すっごい痛いよ、焔さん! それ、女子の使う言葉じゃないよ。
その炎が襲って来た。発火能力?
「ぐっ!」
右手と左手に、魔力を纏わせる。
両手で炎を防ぐ……。僕の魔力は、焔さんの炎を弾く性能を示してくれた。
「へえ……」
「「「……」」」
「そこまで! もういいだろう?」
焔さんが、「ふん」っと鼻を鳴らす。あれだけで、合格だったようだ。
教室に戻り、自分の席に着く。
「まあまあの自己紹介だったね。そんじゃ、後は自習で」
「は~い」
「は……い」
「ふん」
「……帰って寝る」
えっ? えっ?
どうなってんの? 僕の高校生活は?
◇
「え~と、勉強はしないの?」
先ほどから、気軽に声をかけてくれるのは、楓さんだ。
「私たちは、金属スライムを食べたから、頭いいんだ。潜在能力の覚醒かな? 一般的な勉強は、大学卒業まで済んでるの。進学と単位は、国が保証してくれているんだ。まあ、生き残れればだけどね。その後は、一応自由にもなれる」
「金属……、メタル?」
メタルを摂取すると、頭が良くなるんだ? 知られているみたいだな。変異種のスライムは、メタルが主流なのかもしれない。
病気を食べるポイズンが、普通に多数生息していたら、普通のスライムと同じくらい重宝されるだろうに。もしかして、ポイズンは知られていない?
「あはは。痛い人だな~、才羽君! 著作権の問題で訴えられるぞ?」
「ゲームの知識に染まり過ぎ」
話し相手は、女子なので、ちょっとズレている気がする。
「え~と。楓さんと茜さん? 詳細を教えて欲しんですけど……」
「これからさ、特訓を受けて、スライム防衛隊に入隊するの。世間には、秘密裏にね」
「秘密にする理由は?」
「超能力だと思ったんでしょ? 君のその力が、世界中に知られると、大混乱になるんだよ。極一部の人のみが、発現するからね」
「世界的には、知られていない?」
「うん? 知られていないんじゃない? スライムを飼育しているのは、日本だけなんだし。能力を発現できる確率は、各研究所で、年間1~2件みたい。もっといるかもしれないけど、隠しているか、死んでいるかだね。才羽君は、運の良い方かな。拘束されないんだし。それと運良く、この教室に辿り着いているしね」
不思議に思ってしまう。
「世界的なニュースになっても、いいような気がするんだけど……」
「超能力者の量産? 日本人が全員殺されちゃうって。AIがそんな未来を予測したんだってさ」
そんなモノなのかな?
「それよりもさ、どんなスライムを食べたの?」
「何処で見つけたのかが、重要」
「え~と。庭で、紫色と銀色を……。あと、半透明を昨日捕まえたかな」
二人が笑い出す。
「随分と好かれているんだね」
「三匹は、聞いたことがない」
その後、話を聞く。
スライムの突然発生は、適性のある人が、特定の場所に近づくと発生する現象なのだとか。
そして、色により能力が異なるらしい。赤とか黒もいるのだとか。
それと……、二十二歳まで国に協力する義務が発生すると言われた。
協力しない場合は、監視がつくらしい。
「二十二歳以降は……、スライム防衛隊に入隊なの?」
「そこまでの強制はないかな。能力を封印して、生活するって聞いたけど、ほとんどの人は選ばないらしいね」
超能力と呼べる能力を封印か……。
ほとんどいないんだろうな。それは、理解できる。普通の人より、優位に立てるのだから。
その後、牧先生が戻って来て、新しいスマホを貰った。
緊急呼び出し用なんだとか。
「才羽! 忘れてたよ。これから、これを肌身離さず持っていてくれ」
牧先生は、それだけ言って教室から出て行った。
なにこれ?
「捨てるとペナルティがあるからね? 壊したら……、新しいのが貰えるけど」
僕は……、何時自由になれるんだろうか。
それと怜奈さんには、言わないほうが良いらしい。
「隠し事をしながら、生活になるのかな……」
家政婦と一緒に生活していると言うと、『同棲』と勘違いされてしまった。
恋愛ネタには、食いつく年齢なんだろうな。
◇◇◇
今日の授業は、午前中で終わり。初日なんて、こんなもんかな?
その後、歩きで帰る。
スマホで検索して、街の自転車屋を発見した。学校から、商業区のそのお店まで歩いて行く。
お店に着いたので、自転車の種類を確認して行く。
ママチャリを購入しようとしたんだけど、ここで店員が寄って来た。
走行距離と道の説明を求められる。
「途中に砂利道があるのか……。惜しいね」
その後、マウンテンバイクを勧められた。正直高い。高額だ。
「ママチャリでいいんですけど……」
「兄さんは、ガタイが良い。普通のママチャリだと、スピードが出ないと思うよ? 乗った後に不満が出ると思う。それと、ロードバイクも勧めない。メンテナンスしないと、壊れて行くからね」
この人……、僕の筋力とかが分かるみたいだ。
僕が自転車をフルパワーで漕ぐと、スピードが出ないし、壊す恐れがあるのか。否定はできないな。
それで、頑丈なフレームを勧めると。
理屈は合っているな。
その後、マウンテンバイクに籠を取り付けて貰って、購入した。
最近は、親へ負担をかけている気がする。来月、何か言って来たら自重しよう。
自転車を漕いで、帰宅する。風が気持ちいいかもしれない。
雨の日以外は、チャリ通学でいいかな。
◇
自宅に着くと、人が待っていた。
なんだろう?
「この家の方ですか?」
「はい……」
「スライムを保護したと連絡がありました。確認させていただきたい」
スライム防衛隊の人だったか。
そうだ、忘れていた。多分、怜奈さんが昨日か今日に連絡を入れたんだろうな。
2日間放置してしまった。
家に入り、リビングに案内する。寸胴鍋が置かれていた。
フタを開けると、スライムが、干からびていた。
スライム防衛隊の人が、慌てて水をかける……。
ちょっとずつ、スライムに潤いが戻って来た。生きていたか。
「危なかったです。後数時間で死なせていたでしょう」
そうだったんだ……。浸かるぐらいでは、水量が足らないんだな。ポイズンには、悪いことをしてしまったな。メタルは気をつけよう。
その後、スライムは連れて行かれてしまった。売ると兆単位の値段なのに、謝礼金もなしか。
お金が入ったら、怜奈さんにプレゼントしたかったのに残念だ。
せっかく健康な体を手に入れたんだし、バイトしてみたいのもあるな。
◇
夜になり、怜奈さんが帰って来た。
「おかえりなさい」
「ただいま戻りました。急いで、夕食の支度をしますね」
予想以上に遅い時間に帰って来た……。私用? 寄り道でもしていたのかな?
これ……、怜奈さんは今の生活をどれだけ続けられるんだろうか。
まだ数日だけど、オーバーワークが見て取れる。授業だけじゃない、学校の付き合いとかもあるだろうし。
怜奈さんは、夕食と入浴を終えると寝てしまった。まだ数日だけど、疲れていそうだ。
明日は休みなんだし、静かにしよう。
夜中に高校の教科書を読んで行く。
(分かる……。理解できるし、忘れる事もない。メタルの存在が世間に知られたら、大騒ぎになるんじゃないのか?)
スライムは、若返りの効果だけじゃないのかもしれない。
ポイズンは、病弱だった僕の体を健康に変えてくれた。
そしてメタルだ。ギフテッドクラスの知能指数を手に入れられたのかもしれない。全国模試一位なんだし。
そして、魔法……。
「知られていない理由があるんだよな……」
情報統制されているのかもしれない。僕も知らなかったし。
秘密にする理由があるのかな?
そう思った時だった、スマホが鳴った。
呼び出し用の方だ。
→『モンスター発生! Wー08にて防衛中。迎えを寄越すので準備せよ』
なんだこれ?
そう思ったら、車が家の前に止まった。軍用車両だなあれ。タイヤが6本ついているし。
インターホンが鳴る前に、玄関を開ける。
「スライム防衛隊の、堂安です」
「才羽相馬です。地江利高校の一年五組です」
防衛隊員たちが、頷いた。
「初陣かもしれないが、協力をお願いしたい」
モンスターは、ソロで倒したことがあるんだけど、それは言わない。
でも、協力――なんだ?
「あの……、家政婦さんがいまして……。静かにしていただけますか?」
「今は? 必要なら、ご説明します」
「疲れて寝ていると思います。静かにしていれば、起きないと思います」
その後、車に乗せられる。急いでいるみたいだ。
怜奈さんには、後からだな。
「これから、こんな状況が続くのですか?」
「そうなるね。才羽君は、家政婦さんがいるので、昼間か夜中という制限がつきそうだね。上に報告しておくよ」
疑問に思ってしまう。
「あなた達は、変異種のスライムを摂取していない?」
「……変異スライムの発生は、適性のある者の前のみ現れるんだよ。正直、君たちが羨ましいよ」
適正のある人のみなんだ? 僕は、メタルを飼っているけど、他の人が摂取しても知能の改善は期待できないんだ? それならば、理解もできるな。
それにしても、いきなり超能力者だもんね。
でも極秘扱いなんだし、自慢もできない。制限付きなんだよね。
「見えました。モンスターがいます」
僕は、窓の外を見た。
人物紹介
・楓……人当たりの良い人。
・茜……ちょっと、口の悪い人。
・焔……男子っぽい口調の人。
・黛……寝ている人。
・牧……担任の人。25歳くらい。




