第12話 高校入学
さて……、今日から本格的に授業開始だ。
朝食を食べて、登校する。時間もあるので、一応、シャワーも浴びるか。
怜奈さんの方が授業開始時間が遅いので、僕が先に出ることになった。
「行って来ますね」
「いってらっしゃい」
怜奈さんの勧めで、今日はバスに乗ることにした。
通学方法は、まだ決めかねている。歩きでもいいんだけど、怜奈さんの負担になりかねない。早く出ないといけないしね。
そう言えば、怜奈さんには原付バイクがある。買い物に便利だと言っていたな。
平屋の家には、駐車場が二台分あるので、軽自動車を買ってもいいのだけど、怜奈さんは、原付バイクを選んだ。
まあ、僕はタクシーが主な移動手段だったので、怜奈さんがなにを選んでも変わりはないんだけどね。
「晴れの日は自転車で、雨の日はバスかな~」
考えているとバスが来た。停留所は、家から近くていいな。
そのまま、バスに乗り込む。
(色んな制服を着た人が、乗ってんだな)
学校は集中しているのか?
方角が同じだけ?
僕は家と病院を往復しかしていなかったので、ここ最近は新鮮なことが多い。住み慣れた街だけど、知らない情報を得られる。嬉しいな。
僕は、一人席に座った。まだ、座れる人数だ。バスが揺れて出発する。
「席を変わりましょうか?」
「ありがとうございます」
妊婦さんだった。
僕にも席を譲るくらいの常識はある。体力はなかったけどね。
バスが進むにつれて、乗客が増えて行く。結構、乗るんだな。
もう、満席だ。
僕は、両手で吊り輪を掴んだ。痴漢には間違えられたくない。
でもバスが揺れる度に、女子高生がぶつかって来るんだけど?
「ご、ごめんなさい」
「いえ……」
「あ、あの……。その制服って地江利高校ですよね!」
「……そうですけど?」
短い会話をするけど、僕に話を続ける度胸はない。愛想笑いをしてやり過ごす。
その後、足を踏まれたりもした……。また、別な女子高生だ。謝礼って……、要らないよ。席を譲ったのは、失敗だったかもしれない。
もしくは、立ち位置を考えないとな。
途中から、下車する人が増えて来た。
住居区と商業区、学業区が分かれた街だったんだな。一年以上住んではいるけど、街の構造は知らなかったな。
それと、制服から学校が分かるので、調べておこう。この街の高校の数と共に調べておけば、どんな学部が多いのかも分かるだろう。
◇
「ふう~」
最後の停車場で、高校前に着いた。
バス通学も辛いな。帰りに自転車を買ってみようか。
同じバス停で降りたのは……、5人か。
そのまま、昇降口へ向かう。
視線が気になるけど、怜奈さんと一緒の時ほどじゃない。怜奈さんは、美人だからな……。一緒に行動すると目立つんだ。
えーと……、僕は、五組か?
アナログな掲示板に、紙が張り出されていた。大型テレビではないんだな。
「一年五組……」
掲示板を見て、違和感を感じる……。他の四組は、25人前後のクラスだけど、五組だけは、5人?
「特別扱いとかないよな……。でもこの偏りは異常だよな……」
ポツリと呟いて、僕は教室に向かった。
◇
――ガラガラ
ドアを開けて、入室する。
「……おはようございます」
一礼して、教室に入った。入ったんだけど……。
なんでこんなに、机が少ないの?
その教室には、五席しかなかった。本当に5人みたいだ。
「おはよう。最後の一人だね」
「そうだね……、追加の人だね。最後の人おはよう」
女子から、挨拶を返して貰えた。
どうやら、僕以外は、女子4人の教室みたいだ。残りの2人は、挨拶してくれなかった。名前を見た時に気がつくべきだったな。
「机は、真ん中ね」
「あ……、はい」
女子一人は、寝ている。もう一人は、窓から外を見ていた。
席に座り、入学案内のパンフレットを見る。
ここで、女子二人に話しかけられた。
「ねえ? 5人の教室は不思議だと思う?」
「まあ、そうですね。20~30人のクラスだと思っていました。違和感があるというか……」
たまに行けた中学の教室は、そんな感じだった。それに、男子一人だけっておかしくない?
「あはは。そうだよね~」
「楓……。からかい過ぎ」
「ちっ……」
「……」
背後から舌打ちが聞こえた。
振り向くけど、視線は合わせてくれない。
なんだろう? 気に障ることでもあったのかな?
「ねえ……。入学テストの小論文は何て書いたの? 君の回答が、気になってるんだよ」
「スライムの多様性について……、ですか?」
「そそ。結構チェックされているんだよ~」
全員、入学テストは受けているんだよな? 話題作りって感じかな?
まあ、秘密にする必要もない。
「可能性は『ある』としました。理由はないんですけどね。あ……、でも、色が異なるスライムを見かけたことがあって……。単一種である理由は、ないと思いました。確か海底から発見されたはずですけど、探せば変異種もいるんじゃないかなって」
僕の答えに、女子生徒たちが笑った。
◇◇◇
ここで、誰かが教室に入って来た。まあ、担任の教師だよね。
「お~す。授業始めるぞ~。席に着け~」
全員座っていますとは、突っ込まない。
若そうな女性だった。もしかして、この人が担任? 若すぎない?
そして、寝ている人の席まで歩いて行った。
――コンコン
書類で頭を叩いて、起こしてあげるみたいだ。
「黛~。お~き~ろ~。無理やりにでも起こすぞ~」
担任がそう言うと、黛と呼ばれた人が顔を上げた。
「牧先生……。昨日は徹夜だったんだから……」
「ホームルームだけでもちゃんと聞け。授業は、寝ていていいんだから」
頭をぼりぼり掻いているよ。やっと顔が見えた。
正直、4人共に美少女だ。アイドル顔負けなほどに。牧先生は、美女と言って差し支えない。本当に、このクラスはなんなんだろう……。
牧先生が、教壇に立った。自己紹介が始まる。
(担任は、女性か……。アグレッシブな人だな。バイタリティー溢れる自己紹介だった)
「一人だけ、新顔がいるから挨拶な。才羽相馬! 昨日はご苦労さん!」
「は、はい!」
――シ~ン
一瞬静まったけど、次の瞬間に爆笑された。
頭を冷静にする。……昨日?
「おいおい、隠せよ」
「いいんじゃない? 分かってないの丸出しみたいでさ」
「素直過ぎ」
「……」
「えっと、昨日?」
「モンスターを倒してくれただろう? ちょっと、他の四人が別件でさ、人手が足らなかったんだ。助かったよ」
思案する。今ならまだ、誤魔化せる可能性がある。
だけど、沈黙が正解だとも思う。
ここで、牧先生がパソコンとテレビを繋げた。
少し待つけど、何も映らない。
ここで、楓と呼ばれた人が先生のパソコンを操作し出した。
そして……、映像が映った。僕がテレビに映し出される。
「……防犯カメラ映像ですかね。バレてたんだ」
俺が、地下シェルターから出た映像から、モンスターに投石した映像。そして、スライム防衛隊にシェルターの連絡を入れるまでの映像が、編集されていた。
「どうだ~。先生の編集作業も様になって来ただろう?」
いや……、変な効果音とバックで流れている音楽のチョイスが、個性的なんですけど?
『ちゅど~ん』っていう、文字は何なの? 擬音? オノマトペ? 小石がモンスターに当たった音は、そうじゃないでしょうに。
でも口には、出せない。沈黙が正解だと思う。
「ふ~ん。魔法系とも思えるけど、攻撃系なのかな?」
「調べればいいだけ」
「組手すんのが一番だろう。本人分かっていないし」
「興味ない。……寝る」
あれ? 画像編集には、突っ込みなし? 慣れている? この五人は、もしかして長い期間、関わっているのかな?
それよりも、自分の分析をされているので、冷汗が止まらない。
「もしかしてですけど、皆さん超能力者? 魔法使い?」
ここでまたしても、大爆笑を貰った。
◇
「皆……、変異したスライムを摂取したんですか?」
「そそ、そんで能力に目覚めたんだ。それで、スライム防衛隊に協力してんの。ファンタジーだよね」
「スライムの存在そのものが、ファンタジー」
「もう話し合いも終わりでいいだろう? 移動しようぜ」
「……帰っていい?」
牧先生が纏めてくれる。
「要はさ、スライムを食べて変異した動物の個体を倒せる人が、限られているわけだ。そんな才能を持った子供を集めたのが、この教室ってわけ。黛が、中学一年の時に発見されて、他は半年で三人集まったね」
「そそ。このまま行くと十人以上になるんじゃないかって騒がれたけど、結局四人だったの。豊作の年ではなかったって、ガッカリされたのを覚えているな~」
「人手が、足らなすぎ……」
「そんな重要な話……、ここで話していいんですか?」
「んっ? ドアを開けてみな」
言われたので、移動してドアを開ける。
開けたんだけど……。
「何処ですか? ここ……」
一面の雪原なんですけど?
「ああ、この中に空間支配系がいてさ、今この教室だけ隔離してんの。逃げらんないよ。そんで、声も外に漏れない」
どうやら、僕は見つかってしまったみたいだ。
危ない人たちに……。
詳細を聞く。僕は本当は一組だったらしい。それを、一晩で書き換えたのだとか。
「いや~。前日でなくてもいいじゃんって言いたかったわけよ。私も徹夜だったんだよ~」
看護学校の入学式の時の戦闘は、バレていないみたいだ。それと、夜中の公園で犬のモンスターを倒したこともある。
昨日だけが問題だったのかな? いや、安易には判断できない。
「僕に何をしろと?」
「変異した動物。モンスターの討伐……だね」
「スライム防衛隊がいるじゃないですか?」
「倒せない個体もいるわけよ。そんで、倒せる人材の育成中ってわけね」
考える。言葉の矛盾点を探す。
「日本全国に……、何人いますか?」
「才羽君が、1008人目。相当数死亡したけどね……。今は半分生きているかな?」
おいおい、命がいくつあっても足りないじゃん。そんな、秘密結社みたいなことしてんの?
もしかして、国家主導で? 秘密裏に?
「もういいだろう? そいつの実力が見たい」
「そうだね~。そんじゃさ、焔がやる? 茜がいい?」
「私だろ」
「噓でしょ……」
僕は、帰れるのかな……。
怜奈さんの元に。




