深呼吸
震える
準決勝の相手は高知県の宿毛リトルに決まり、旅館でも試合前にもいつもよりも入念にストレッチを行う杏菜が投げて打って福山Phoenixリトルを決勝戦に導く。そう気合いを入れていた。
ユニフォームに袖を通して頬を何回かパンパンと叩いて集中力を高めてベンチに座る。杏菜は久しぶりに試合前のノックには入らずにブルペンで投げ込んでいた。サブキャッチャーの子からは右投げでも左投げでも調子がよさそうだね。ストレートも手元でノビがあるし、変化球のキレも申し分ないとハッタリでも何でもそう言われると嬉しい。
この日のスタメンは1番ピッチャー杏菜、3番キャッチャー虹恋ちゃんと前の試合後に言ってた通りになっていて安堵する杏菜であった。ブルペンで肩を作らせておいて違うポジションで起用するのは水瀬監督ならば往々にして有り得る。
整列をし、挨拶をしてマウンドに向かう杏菜。マウンドをならしながらブルペンではよかったけど、試合に入ったらどうなのかなと少し不安になっていていた。
まずは右投げとして、虹恋ちゃんからのサインはインコース低めにカットボールが要求された。なるほどねと縦に頷きて投げ込むがボールになってしまった。下を向いていいとこ投げたけど取ってくれないかと思っていて上を向くと、そこには虹恋ちゃんがいた。思わず虹恋ちゃんにサイン間違えちゃった?それともボールが走ってない?そう尋ねた。
「サインも間違っていないし、今のカットボールよかったよ。初球から際どいコースに投げれてスゴい。今日の審判キツめだね。特に何か用事あって来たわけじゃないからどんどんコーナーにサイン出していくから頼むよ、杏菜ちゃん」
虹恋ちゃんの言う通り、今のカットボールはストライクコールして欲しかったけどもこの日の審判がキツめかどうかは分からない。だって杏菜1球しか投げてないのに。
ムービングファストボールやスローカーブ、ストレート、パームと全球種見せながらも1イニング10球で仕留めた。このペースでいけば60球で決勝戦には投げられないかなと頭の片隅で考えていた。
1回裏、1番打者の杏菜打席。ボール球を振らされないためにも際どいボールはカットして甘く入ったボールを狙おうとしていた。だが、ボール球だなと見送ったボールがストライクゾーンギリギリに入って呆気なく3球で見逃し三振をしてしまった。
相手ピッチャーも打たせて取るピッチングで、あからさまに杏菜と虹恋ちゃんだけ三振を狙いに来ていた。それに尽く三振してしまう。
右投げ、左投げと交互にイニングが進むにつれて変えていって抑えてはいるものの未だに先制点が取れずに苦戦をしている福山Phoenixリトルだった。気がつけば延長戦に突入して、タイブレークになっていた。
ここまで球数50の杏菜。疲れはあるものの球数制限には引っかからない。ノーアウトランナー1、2塁からのスタート。エンドランと送りバントに気をつけながらアウトコース高めにムービングファストボールを投げると飛び出していたランナーもアウトにしてトリプルプレーをピンチを凌ぐ。
その裏、打席には虹恋ちゃんが回ってきて普段しない送りバントを決めた。その時、相手のサードが悪送球にて1対0でサヨナラ勝ちを収めて決勝戦に駒を進めた福山Phoenixリトル。




