居場所
戦い
紅白戦も雨で流れてしまったものの、秋の大会1回戦が始まる前日にパームボールを左投げでも右投げでもとりあえず習得したい杏菜。よほどの展開にならないとパームボールは投げるのはやめておこう、まだまだキレや精度に関しては自信がなくて紅白戦でも投げるのを躊躇うレベルだからだ。
翌日の対戦相手は夏の大会で準決勝で戦う予定であった広島北リトルになる。当時は相手選手の事情で不戦勝となったが、改めて試合が行われるとなると勝てるか不安になるものの、夏には県大会優勝の実績をひっさげて秋を迎えている。
水瀬監督から、スタメン発表をされていく。6番ピッチャーとして初戦のマウンドを任された杏菜。夏から同様の6番で、勝手に6番が定位置なのかなとすら思っていた。
試合が始まるまでブルペンで投げ込みをしている。ピッチャーを始めたての頃は上からでも下からでもどこからでも投げられればいいと思っていたが、やはりフォームを固めてやった方がいいと思い、横から投げて「水切り投法」と名付けてやっていた。
福山Phoenixリトルは後攻で、まっさらのマウンドなおかつ秋の初戦を任せてくれた水瀬監督の期待に応えたい。そう思ってプレートをならして左投げで1球目を投げ込む。だが、杏菜の期待とは裏腹の結果になる。
初球のストレートをセンター前に打たれ、夏休みに覚えたスローカーブやカットボールもフリーバッティングみたく外野に運ばれる。ならばのムービングファストボールで内野ゴロを打ち取ろうとするものの、芯で捉えられる。
あっという間に塁が埋まって、キャッチャーのサインを見るとパームボールのサイン。覚えたてで自信はないものの高めにいかないでと祈る気持ちで投げ込んだ。だが、ボールがすっぽ抜けてど真ん中に行ってしまい、ランニング満塁ホームランでいきなり4点ビハインドとなる。
弱気にはならない、ベンチを見ない。ピッチャーが打たれてベンチを見るのは自分では抑えられないからほかのピッチャーに代えて欲しいと目で訴えていると思われかねないからだ。
何失点しても自分からマウンドを譲るのはイヤだ、自分で出したランナーは自分で抑えるのがピッチャーの役目だと考えていた杏菜。
投球制限になってしまい、イヤだと足掻いても決められているルールには従わなくてはならずマウンドを降りて宏斗君にマウンドを譲って杏菜はセンターの守備に付いた。
4回裏終わって15対0で、打線も3安打完封負けを喫してしまう。先発の杏菜は自分のせいでチームが負けたと人目を憚らず涙が止まらない。水瀬監督からはチームとして、今出来ることをやった。また明日から頑張ろうと励ましてくれた。
家に帰って、夏の大会に広島北リトルが棄権しなければ杏菜達の福山Phoenixリトルは果たして県大会優勝して全国大会出場出来たのかと考えるとゾッとする気持ちでいた。




