ひそひそと
集団
バッティングセンターとは無縁の世界だった杏菜。ふらっと来て出来るほど世の中そんなに甘くないよねと感じていた。
財布を見ると残り1ゲーム出来るだけのお金が入っていてよくてもダメでもこれで最後にしようとヘルメットを被り、さっきと同じ80キロに入った。
お金を投入しようとしたら誰かの忘れ物なのか、ピンクのリストバンドが置いてあった。つけてやったら見栄えがいいかもと手首にリストバンドを付けてバットを持ってお金を入れた。
さっきは左打席だったが、今度は右打席に入って別のレーンで打つ男の子姿を見て少し膝を曲げて右手を上にして左手を下にする。そして何だかよく分からない巻かれている場所をくっつけて出てきた球に向かって振る。
あれ?さっきよりも当たるし、鋭い気がする。もしかしてこのリストバンドのおかげなのかもと思いつつ次々に出てくるボールを弾き返す。この姿には、15歳の杏菜も驚くだろう。当時9歳だった杏菜では絶対ムリ。じゃあ15歳の杏菜でもここまでは難しいだろう。
何だか不思議なリストバンドのおかげで楽しい気持ちにさせてもらったとリストバンドを外して入口にいる人に渡そうとゲージを出ようとしているその時だった。
胸元にPhoenixと書かれた男の子と男性が杏菜に拍手をしている。これは今、どういう状況なのか分からずにいた。
すると男性が子供達に声をかける。
「今の見たよね。バッティングって言うのはボールを最後まで引き付けて確実にミートする。この女の子はそれを体現出来ている。今のを参考にして」
ん?この女の子って杏菜の事を言っている?最後まで引きつける?確実にミートをする?何を言っているのかさっぱり分からなかった。
ゲージを出ると男性は杏菜に声をかけた。
「今のバッティング素晴らしい。どこかで野球やっているのかな?もしやっていなかったらうちのチームに是非入団して欲しい。申し遅れました、福山Phoenixリトルの監督のものです」
そう挨拶をされた杏菜。
「初めまして、福山杏菜と申します。野球はしていません。なんならバッティングセンターに来たのもフラッと立ち寄っただけで、ルールも何も分からない状況なので……。お金なくなったので帰ります」
そう言うと、お金は出すからもう1回だけお願いしますと頭を下げられた。さすがに大人に頭を下げられて帰るのもどうかと思ってならばと次は左打席に入ってみる。
右打席とは逆で左手を上にして、右手を下にして何だかよく分からないクルクルに手を合わせてキュッと握る。そして来た球を打ち返す。
自分でも驚くほど鋭い打球が前に飛ぶ。このリストバンドのおかげだなと全て打ち返してみせた。才能というよりも感覚で打っているといった方がしっくりくる。
そして福山Phoenixリトルの監督に名刺を渡されて近くの河原で土日に練習してるから興味があればいつでも来るように言われた。
リトルリーグに興味を持った杏菜は家に帰る道中、ずっとどうするか考えていた。




