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兵卒たちの足がずるりと滑り、百キロの鋼鉄が斜面を下って他の兵たちを押し潰そうとした、その時だった。
「どけ! 綱を緩めるな!」
泥飛沫を上げて割って入ったのは、またしても宮崎少将だった。
少将は濡れた軍衣の肩を剥き出しにし、ぬめりを帯びた四一式山砲の砲身下部に、自らの肩を強引に割り込ませた。
「ぬうううんっ……!」
少将の口から、野獣のような唸り声が漏れる。
五十を過ぎた少将の背筋が凄まじい緊張で跳ね上がり、浮き出た血管が紫色のミミズのように躍った。
砲身の最も重い端が少将の右肩に食い込み、湿った軍衣に血が滲み出していく。
「矢崎! 突っ立って見物している暇があるなら、その綺麗な腰の軍刀を捨てて泥を掘れ!」
泥と汗に塗れた宮崎少将が、激痛に顔を歪めながら私を睨みつけた。
「一歩だ! 一歩ずつ踏みしめれば、山頂は必ず足の下に来る!」
「か、閣下! 将官が兵器の搬送に荷担するなど、全軍の笑いぐさです! 階級の秩序が保てません!」
私の教条主義的な叫びは、ズシ……ズシ……という宮崎少将の足音にかき消された。
少将は兵卒たちと肩を並べ、泥の中に深く編上靴をめり込ませながら、確実に前進していた。
規則正しい歩調などどこにもない。一歩進んでは息を整え、泥を掴む不規則な行軍。
しかし、その泥臭い泥濘の行軍によって、失われるはずだった四一式山砲は静かに山頂へと押し上げられていく。
「15分交代だ! 全員、息を整えろ!」
山頂の僅かな平坦地に砲身を降ろした宮崎少将は、荒い息を吐きながら兵たちに休憩を命じた。
軍司令部への報告予定時間は、これで完全に崩壊した。
だが、山砲は一門も失われていない。
私は泥だらけの自分の編上靴を見つめ、握りしめた指先が震えるのを抑えられなかった。
将官が兵卒とともに泥にまみれ、荷物を担ぐという狂気。
私が陸軍士官学校で学び、絶対の正義と信じてきた「軍紀」や「統帥の美学」が、この男の泥まみれの背中の前で、惨めな音を立てて砕け散っていくようだった。
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