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粘土質の急斜面は、連日の雨と数千の編上靴によって完膚なきまでに捏ね繰り回されていた。
斜度三十度を超える激坂は、一歩踏み出すたびに靴底を粘りつく泥が掴んで離さず、体力をじわじわと奪い去っていく。
山道の脇には、立ち枯れた巨木の根が露出しており、そこから粘り気のある黒い樹液が滴り落ちていた。
その樹液が足元の泥の中に落ちると、不気味に泡を立てて消えていく。
私は胸ポケットの作戦計画書を泥で汚さぬよう押さえながら、荒い息を吐いた。
軍司令部が定めた行軍計画では、我が支隊の進軍速度は「一日三十キロ」と厳格に定められている。
だが、このアラカンの密林において、我々は一時間で一キロ進むのが限界だった。
「歩調を乱すな! 司令部の予定表からすでに三時間の遅れが生じているぞ!」
私は泥に足を取られながら、列の先頭に向かって声を張り上げた。
しかし、兵卒たちから返ってくるのは、荒い吐息と、マラリアの発熱を含んだ酸っぱい汗の臭気だけだった。
彼らの首筋からは、熱病特有の粘り気のある汗が滝のように流れ落ちている。
山砲兵第31連隊が担いでいるのは、歩兵支援の要である四一式山砲――通称「連隊砲」だ。
総重量五百四十キログラムにおよぶ鋼鉄の塊を、いくつかのパーツに分解し、兵卒たちが人力で担ぎ上げている。
本来であれば駄馬に載せて運ぶはずだったが、その馬たちはすでに数頭が崖下に滑落して砕け散っていた。
残された食料である大麦の袋は、熱帯の湿気で内部が完全に発酵し、饐えた異臭を放つゴミと化している。
「代替の馬糧を支給されたし」との打電に対し、軍司令部が返してきた答えは「現地の雑草を食ませよ」という無慈悲な却下電文だけだった。
補給の途絶えた山道で、すべての重量物は今や人間の生の肉体だけに押し付けられている。
「中尉殿! 第三砲班の滑落防止縄が限界です!」
悲鳴のような報告と同時に、ズズズと地響きを立てて泥が崩れる音が響いた。
見上げると、重量約百キログラムにおよぶ一番重い「砲身」を担いだ四名の兵卒が、膝をつきかけていた。
濡れた鋼鉄の擦れ音が、肩の破れた軍衣越しに肉を削ぎ落とすような生々しい音を立てる。
「歯を食いしばれ! 帝国陸軍の軍紀に基づき前進せよ! 砲を捨てれば抗命罪だぞ!」
私は叫びながらも、泥滑る斜面に足がすくみ、手を出せずにいた。
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