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危機再び

 


 彼に会ったら謝らなきゃ。それと、私の方の気持ちも……はっきりさせないと。

 また会った時が最終決戦だ。そう思いながら過ごす毎日。


 しかし、彼はあれ以来パッタリと店に来なくなってしまった。町ですれ違うとかも無く。


 まさか、何かあったんじゃ……

 風邪引いたことないって言ってたし、体も丈夫そうだった。

 でも……


 とうとう心配になって聞いてしまった。

「クライド、最近姿見ないけど……どうしたんでしょう?」

「アイツかい?確かにそうね……まぁ、きっとなんか良い仕事を見つけたんだろうよ」

「……」

「なんとかは風邪引かないっていうし、頭は悪いがそんな死人が出るような仕事までホイホイ請けるような奴じゃない。大丈夫さ、気にすることないよ」

 乱暴な言い方はいつも通りだったけど、その声はどこか少し心配そうな音色だった。




 今日も結局、会えなかった。


 窓の外から差し込む赤い夕日が一日の終わりを告げる。


 淡々と店終いの準備。

 一通り片付け終えて店のカウンターでふぅと大きなため息をつくと、どこかからドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。


 どうせまたいつものだ。誰かが暴れてるか、それとも盗賊か。


 前に店を襲撃されてから、どうもこの町周辺で盗賊の動きが活発になっているらしくて。

 先週は移動中の荷馬車が襲われ入荷が滞ってしまって大変だった。そして一昨日は向かいの酒屋が襲われて火事になりこれまた大騒動だった。

 衛兵は過剰なくらい大勢派遣されて町を見廻りしている。


 足音は少しづつこちらに近づいてきている。


 まさか、うちの店じゃないよね?

 だってうち、前に襲われたことあるし。痛い目に遭ったんだからまさかもう一回なんて来ないでしょ……さすがに。ないない。


 そう思い、安心していると……いきなり店のドアが大きく蹴破られた。

 驚きで思わず身動きが取れないでいると、一斉に毛皮の鎧を着こんで武装した男達が次々入ってきた。まさか、そのまさかだった。


 入ってくるなり、彼らはこちらに剣の先を向けながら金目の物を出せと口々に言う。


 その中には前に襲ってきた男もいて。

 何やら借りがどうのこうのとしきりに言っているところから、どうやら前回の復讐も兼ねているようだ。わざわざ武装して仲間を大勢引き連れて。




 とはいえ、最悪の状況だ。こういう時に限ってまた誰もいない。


 あれからヴィルヘルムさんはよく店にいてくれるようになって。

 もし危なくなったら呼ぶようにと言われてるけど、今は夫婦二人で倉庫作業中。

 なんともタイミングが悪い。




 仕方ない、私がなんとかしなきゃ!


 前回のことがあって、こっそり自衛用のナイフを買っていた私。それをポケットから取り出すと両手で握りしめ前に突き出す。キッと彼らをきつく睨みつけながら。


 精一杯の威嚇。これで、どうだ……!




 騒いでいた声は一瞬で静かになった。思ってた通り、彼らはお互い顔を見合わせて戸惑っているようで。


 まさかの事態に動揺しているんだ。よし、効いてる効いてる。

 後はこのまま諦めて引き返すのを待って……




 ……って、あれ?


 大人しくなったのもつかの間、今度はげらげらとおかしそうに笑い始めた。まるでお笑いでも見てるかのような腹を抱えるほどの大笑い。


 なによ、なにがおかしいの……?!


 不意を突いて有利に立ち回るつもりだった。でも、もしかして効いてない……?

 焦りで手汗がじわり。ナイフを持った手が滑りそうになるのを握り直してなんとかごまかす。



 ふと一人の男が、背負った棒状のなにかを重そうに下ろした。


 それは……長い柄の大きな斧。

 薪を割るような斧よりもっと刃が大きく武骨な見た目の。


 思わずまじまじと見入ってしまった私に、男はわざとらしい口調で話しかけてきた。

「おやぁ?これが珍しいかい?斧だよ、斧。綺麗だろう?せっかくだしじっくり見せてあげようか……ほぉら!」

 わざとらしく目の前で振って見せるそれは、窓からの陽ざしを反射してギラギラと光る。


 よく見るとところどころ錆びついていて、すでにかなり使い込まれたもののようだ。

 その黒い錆は光の当たり具合で時おり赤く見えて。つまり……


 ごくりと唾を飲込む。


「知ってるかいお嬢さん。これはね、処刑人が罪人相手に使ってるものさ。本物だよ。こっそり盗ってきたんだ」

「しょ、処刑用……!」

 さあっと全身の血の気が引いていくのが分かる。


 脳裏にはいつだったかテレビか何かで見た、どこかの国の女王の斬首の光景。

 横になって木の台に首を乗せて、処刑人が斧を振り上げて、それで……


「ああ、そうだ。だから一振りでその可愛い首がポーン!さ……!ははははっ!」

 楽しそうにそう言う男の目は笑っていなかった。




 この人達、本気だ……!私を本当に殺す気なんだ……!


 前のナイフのときとは訳が違う。あんなので切りつけられたら、それこそ一瞬であの世行き……


 恐怖で体ががくがく震え、まるで他人の体のように固まってしまってどこも動かせない。

 口をパクパクさせ呼吸するので精一杯。助けを呼ぶ声なんて出せる訳がなかった。


 かといって、逃げ出そうにも店の出入り口には見張りの男が立っている。倉庫に行こうにも、そこまで移動している間に首が飛ぶ。


 つまり、万事休す。絶体絶命だ。




 だ、誰か……!助けて……!


 ふいに思い浮かぶ彼の顔……いや、それは流石にない。前のはたまたまだったんだから。

 それに、あの日突き飛ばして……逃げ出して……未だ謝れずにいて。

 嫌われたかもしれない。少なくとも良くは思われてない、きっと。


 盗賊達の誰かがもっと暴れて大きい音立ててくれれば、倉庫にいる二人が気付くのに……!

 大男のヴィルヘルムさん相手じゃ分が悪いと知っているんだろう。あまり暴れようとしないし、倉庫の方には誰も近寄ろうとしない。変に賢いというか、悪知恵が働いているようで。




「お嬢さん、ここで交渉があるんだけどね……へへっ」

「な、な、何よ?」

「リーダーの愛人にならねぇか?」


 盗賊団リーダー。ここには来ていないようだがおそらくここの男達と似たようなもんだろう。

 見なくとも分かる。ろくでもない奴なのは間違いない。


 危険な目に遭わせて脅して、わざと愛人になると答えるように迫って……なるほど、そういう魂胆か。

 なんだか納得がいった。


 おそらく元々目的は一つだけじゃなかったんだろう、金はもちろん女も。ついでにできれば復讐も、と。

 どこまでも残虐で狡猾な男達だ。


 こうして考えている間にも、彼らは私の返事をニヤニヤと待っている。


 死か性奴隷か。どっちも選べる訳がない。

 確かに殺されたくない。死にたくない。だからここで了承すれば一時的には助かる。

 でも、その後どうなるかなんて……分かったもんじゃない。


「なあなあ、どう?どうだい?なかなかいい提案だと思うんだけど」

「……」

「そろそろ決めてくんねぇ?もたもたしてっと衛兵来ちまうしさ、それにリーダー待たせちまってるんだよ」

「……」

「なぁ、早く!早く早く!」


 結論を急かされて。

 実は衛兵が来るまで待とうかとも思ってた。けど、あの大きな斧はそこまで待ってくれそうもない。


 もうこうなったら……一か八だ。



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