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ダーク・ホーリー 短編集 3、聖誕祭の奇跡(後編)  作者: LLX
1、北の黒い森の魔女の息子(全5話)
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3、領主の館

空高く飛んでいたホーリーが、飛行を楽しむように地上すれすれまで滑空してまた上空へと上がる。

テリアが息をのんで懸命に爪にしがみつく。

巨大な鳥となったホーリーは、風を切って暗闇にサワサワ音だけが広がる広大な草原を越え、明るく火の輝きが目立つ屋敷を目指した。


「あれが!領主様のお屋敷!」


テリアが初めて見る、その城のように大きな館を指さす。

その館は夜の闇でもひときわ明るく、かがり火に照らされている。


「なんて大きなお城!」


ホーリーは、やがて篝火が燃える大きな屋敷にたどり着くと、その塀へと降り立った。

テリアにクイッとくちばしで館を指すと、後は勝手にするがいいとでも言いたげに彼女をポイと庭先に放り出す。


「きゃ……!」


どうしてこんな所に!


叫び声をなんとか飲み込んで木陰に隠れ、テリアは鳴きそうな顔で座り込んだ。

ホーリーは、ククッと声を漏らし飛び立つと、屋敷から漏れる煌々とした明かりの窓を目指し、そのバルコニーへと向かう。

放り出された庭先でテリアはブルブルと震え、身動き取れなくなってしまった。


「ああ、ホーリーは行ってしまった。どうしよう、どうしよう。

なんでこんな事になっちゃったんだろう。」


しゃがんで小さく身体を丸めていると、耳元でフッフッフッと軽い息づかいが聞こえてきた。


「え?」


顔を上げると、大きな犬が一匹、顔を近づけている。


「キャアアアア!!」


思わず上げた叫び声に、犬がけたたましく吠えかかってきた。


ワンッワンワンワンッ


「キャアッキャアアキャア!」


ここは領主の屋敷だけに、見回りの使用人はいるがあとは雇った用心棒だ。

それだけに見回りの男達は、いかにもガラの悪そうな男だった。


「誰だ!お前は!女が1人逃げているぞ!」


「捕まえろ!」


男達が松明を握り、数人が集まってくる。

ヒイヒイ逃げようとするテリアも、腰が抜けて立たない足を奮い立たせた。


「た、助け……助けてえええ!ホーーリーー!」


せっかく逃げおおせたというのに、どうしてホーリーは連れてきたのかわからない。

自分に何が出来るというのか、テリアには魔法も使えない。


あんな悪魔、やっぱり信じるんじゃなかった! 


後悔してももう遅い。


ワンワンワンワンッッ


激しく犬に追い立てられながら、追いつめられてテリアは思わず木に登りだした。

ガブッとドレスの裾に犬が噛みつき、力を入れて引っ張ると、ほころんでいたのかビリビリとドレスがウエストの縫い目から破れていく。


「きゃーん、やだやだ。」


追いついた男も一緒になって引っ張り、ビイッと音を立てて、ドレスは結局ウエストからすっぽり脱げて、ズロース姿になってしまった。


「ああもう!」


恥ずかしいけど、そんなこと言ってられない。

かえって身軽になって、得意の木登りでどんどん上へと上ってゆく。


「降りてこーい!」


ワンワンワン!


下では男達や犬が、口惜しそうにピョンピョンはねている。


「バーカ!誰が降りる物ですか!」


しかし表面上、強がっているテリアも、これ以上どうすることも出来ない。

友人を助けるなど夢のような話だ。

彼女は内心絶望に暮れながら、闇に浮かび上がる屋敷の明かりに、ホーリーの姿を思い浮かべていた。





館の一室では、領主と最近迎えられた美しい妻が、1人の神父と共に食事の最中だった。


「美しい奥方様、今宵も良い女達を集めたようで。

ますます奥方様の美しさにも磨きがかかりましょう。」


神父の姿の中年の男が、ワイングラスを手に奥方に掲げる。

領主の妻は甲高い笑い声を上げながら神父にグラスを掲げ、一口飲んだ。


「ホホホ……まことに神父様の仰るとおり、処女の血はよう効くこと。

肌がまるで10ずつ若返ってゆくようじゃ。」


「まこと、妻が美しいとわしも張りが出る。」


年老いた領主が、年の離れた妻の手にキスをする。

再婚した領主は、この若い妻の言いなりに、良いようにさせている。


妻が気に入っているこの神父の言葉も、あながち嘘ばかりではないような気がする。

年老いても性に衰えない今の自分は、前の妻を亡くした時よりはつらつとして、長く生きそうな気がするのだ。


「連れてきた浮浪の子供は、のちに神への捧げ物と致しましょう。

千の寿命を捧げると、百の寿命を得ると言います。

きっと美しいまま、永久の命を得ることでしょう。」


神父らしからぬ恐ろしい言葉も、今の2人の異常な精神状態ではまったくおかしいとも取れず、ただ言いなりに頷いていた。


バターンッ!


突然、バルコニーの扉が開き、外から冷たい風が音を立てて吹き込んだ。


テーブルや壁にある燭台の蝋燭の火が揺らめき、数本が消えてやや部屋が暗くなる。

思わず立ち上がった3人が目を凝らすと、暗いバルコニーに、闇から生まれ出たような小さな少年が姿を現した。


「誰だ!お前は、魔物か?」


「魔物に違いございません!御領主様!」


「誰か!」


ドアの外で、バタバタと使用人の足音が慌てて駆けつけている。

しかし、肝心のドアはびくとも開かない。

黒い髪、そして黒衣に包まれた白く美しい顔の少年ホーリーは、たじろぐ大人達をあざ笑うようにニヤリと不気味に笑った。


「今宵は……美しい月も顔を背け、瞬く星々も目を閉じる。

なんと美しき漆黒の闇に包まれた良い夜でございましょう。」


うっとりと告げながらホーリーは、食堂へ一歩入ると、手も触れず後ろの扉を閉めた。

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