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ダーク・ホーリー 短編集 3、聖誕祭の奇跡(後編)  作者: LLX
1、北の黒い森の魔女の息子(全5話)
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2、魔女のうわさ


ドーーンッ!!バリバリバリ!


ホーリーのいた木が、真っ二つに裂けて両側に倒れる。

パリパリと身体のあちこちを黄金色に光らせて、何事もなかったようにホーリーがふわりと地に降り立った。


「ふう」


プルッと身体を振り、放電する髪を指で解く。


「いたずらが過ぎたか?」


雷に水を差されて高揚した気分が収まり、フフッと笑って天を仰ぎ、そして少女の方へ歩き出した。

少女はあまりの恐怖に気絶したか倒れている。


「ふうん……」


まじまじ眺めて手をかざし、少女の身体をフワリと浮かせた。

ハッと、気配に気がついたのか、少女が目を開ける。


「えっ、何?あなたは?えっ、キャアッ!浮いてる!」


キャアキャアと、じたばた騒ぐ少女にホーリーが目を丸くする。


「キャアッキャアッキャアッキャアッ!」


じっとそのまま見つめるホーリーに、テリアは悲鳴を上げながら噛みつくように怒鳴った。


「あんた!助けてよ!助けて!何黙ってるのよっ!」


バタバタ手足をばたつかせ、身体をひねってなんとか降りようともがくうちに、くるりと身体が逆さになってしまった。


「ぎゃあああっ」


ドレスがバッと上半身へめくれ、ズロースをはいた、すんなりした足が見事に露わになってしまった。


「キャアッ!見ないで!やだ!いやあ!」


呆気にとられ、クスクス笑うホーリーが、スッと指を回す。

テリアはくるっと回されて、そのままドスンと落ちた。


「キャッ!痛あ!いたた……


ひどい!ひどいわっ、あんたの仕業ね。この悪魔小僧、うっ、うっ、うっ」


少女は叫んでいたかと思えば、雨に濡れながらしくしく泣き出す。

またもう一度、物珍しそうに眺めて笑った。


「うるさいが、面白い女よ。いかがしてくれよう。」


少女はカタカタと、歯を鳴らして震えている。

辺りを見回しても、雨風のしのげる場所はない。


「あ、あんたの家は?このさい悪魔でも何でもいいわ、雨に濡れて寒いのよ。

助けようとか思わないの?やっぱり悪魔ね。」


「お前の口はよく喋る。助け手が欲しければ、しばし言葉に気を付けるがよい。」


「なあに?子供のクセにマセていること!何言ってるのか、さっぱりわからないわ。」


少女の物言いに、呆れたかホーリーがちょんと肩を上げる。


「やれ、くだらぬ。」


プイッとへそを曲げてホーリーは両手を大きく広げると、寝転がるのかぐらりと後ろに倒れていく。

すると、地面に倒れる瞬間、身体がバシャンと水しぶきを上げ消えた。


「あっ!ああっ!」


テリアが慌ててホーリーの消えた水たまりに手を伸ばし、バシャバシャとかき混ぜる。


「ああ……意地悪、意地悪、意地悪……」


泣きながら突っ伏して止まない雨にびしょ濡れになりながら、テリアは呆然とその場にたたずむしかなかった。




 すっかり日が落ちて、あまりの寒気に大きな木に寄り添い、膝を抱えてじっと雨が止むのを待つ。

ホーリーの消えた水たまりは、何故か柔らかに光を残し、心がほんの少し落ち着く。


次第に寒さが収まり、一時をウトウトしてふと気が付けば、いつの間にか雨が身体に当たってこない。

周囲を見回すと、木がテリアを包み込むように、根や枝葉を伸ばしていた。

そう言えば、まわりは雨が降っているというのに、急速に服が乾いている。


「まさか……あの子?」


ハッと顔を上げて流れる涙を袖で拭く。

ふと、テリアは水たまりの向こうににっこり微笑んだ。


いつからそこに立っているのか、ホーリーが後ろに手を組みちょこんと立っている。

黒髪は柔らかに肩へ落ち、黒衣は闇に溶けかかっている。


「あなたが、助けてくれたの?綺麗な子…ね。」


気持ちが落ち着き、静かに語りかける。

ようやく彼は、一歩踏み出し、ほのかに光る水たまりの水面に立った。


「落ち着いたか女よ。

ホーリーは騒がしいことを好まぬ。

もとよりお前などどうでも良きこと、気まぐれも限度があるぞ。」


静かで見かけの小さな、少年にも思えない言葉に、テリアがフフッと微笑む。


「ごめんなさい、もう騒がないわ。だから1人にしないで。ね?え……と、ホーリー?」


「名など、どうでも良い。」


「いいえ、私、恩人の名前を覚えておきたいもの。」


「まだ、恩人になるとはわからぬ。お前は何から逃げていた?」


テリアの顔が曇り、フウッと息を吐いて膝を抱える。

まだ助かったと言えない状況に、また少し落ち込んだ。


「そうよね、私はこれからどこに行けばいいかも分からない。

どうすればいいんだろう。」


「答えよ。答え次第で道は開かれん。」


ポツポツと、雨が止んでヒョウッと音を立てる風に雲が流される。

雲間から、ちらりと星が覗いて瞬いては消える。

テリアはその空を仰ぎ、溜息混じりに語った。


「北の、黒い魔女よ。

領主の新しい奥方が……そう名乗って、各村から女を集めているの。

逆らえば、村を追い出される。でも、領主の城へ行って帰ってきた人はいない。

きっと殺されるんだわ、……みんな…そう、噂しているの。」


「女がいなければ、村は途絶えよう。」


テリアがプルプルと首を振る。


「連れて行かれるのは……こう言っちゃなんだけど、村でも綺麗だとか可愛いとか言われている子ばかり。

えへ、私もね、これでも小さい頃から可愛いって言われていたのよ。

もうすぐ、幼なじみのグレンと結婚しようって……」


ポロポロと、少女が涙を流す。

ホーリーが空を仰ぎ、何かブツブツとつぶやいた。

指を組み、空に向かってその指を差し出す。


「お前を追っていた馬車は、途中一度だけ休み、先程領主の城へ着いたぞ。

女が……3人。」


「そうよ、わたしの友達も1人。

一緒に逃げるつもりだったのに、彼女はとうとう足が動かなかった。

逃げると家族に迷惑がかかるもの、当然よね。」


「北の黒い魔女か……」


「悪い魔女とは聞かなかったのに、あんな魔女だったなんて。」


ホーリーは無言で彼女を見下ろし、そして背中を向けた。


「どこへ行くの?1人にしないで!」


テリアが立ち上がり、慌てて追おうとする。

こんな所に一人置き去りにされるなんて、冗談じゃない。


「領主の妻、面白いではないか。」


「恐ろしい、あんな所へ行くの?」


「ホーリーには、恐怖も心地よい。」


「あんたも綺麗だもの、男の子でもきっとひどい目に遭うわ!」


キュッとホーリーの顔が、嬉しくて、面白くてたまらない顔で笑う。


「退屈しのぎには、またとない趣向よ。

お前も来るがいい、友人を助けるのであろう?」


「え?!え?」


ホーリーの姿が、闇に飲まれて大きな黒い鳥になり、大きく羽ばたいた。


バサッバサッ!


「え!きゃ、きゃあっ!」


彼女の身体を鷲のような爪でギュッと掴み、夜の闇の中を飛び立つ。

軽々とそれは、先ほどの輝く水たまりが一気に遠く、小さな点になって消えた。

気まぐれで、イタズラ好き、

でも、やさしい。

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