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011◆隠れ家にて

 よく見慣れた王都の通りを俺達は歩いていた。普段と違う点は道行く人々が皆、葬儀用のローブを纏っているという事だ。

 住人達の表情は、皆一様にして暗かった。魔王が討伐された喜びより自分達が死んだ事のショックの方が大きいらしい。


「ウィル殿、なかなか人気者だったようでござるね」

「そうみたいだな……あまり意識した事は無かったけど、こんな形で知る事になるとはな……」 


 誰にも聞かれる事が無いように俺達は小声で話す。


「まぁウィルさんもノエル様も生きてますけどね」

「ここまで大事になっているとなんだか申し訳無く感じてしまうな……」

「なんでも勇者一行を模した大きな像と、立派な慰霊碑が作られる予定らしいですよ?」


 マジかよそれ。そんなものができる前になんとか戻りたいものだが……。


「とりあえずこの茶番を仕組んだ奴らにはきっちり代償を払わせないとな」


 どんな理由があるかは知らないが……いや、例えどんな理由であれ俺だけでなく仲間まで殺し、こんな状況を作り出した騎士達には裁きを下さなければならない。



 町中を歩き進む俺達だったが、その後は幸い……といって良いか分からないが、知人を見かけることもなく無事にナギの隠れ家にたどり着いた。


「なんというかわりと普通の家だな」


 獣人族が多く住む区画に、その家はあった。隠れ家というからには、もっとこう鬱蒼とした場所にこじんまりとした家が――などと思ったが、周囲の家と比べても平均的な木造の借家だった。


「まぁ普通が一番目立ちませんから」


 確かにそれもそうか。木を隠すなら森の中とも言うし。


「ここで立ち話もなんですから、中に入りましょう」


 ナギに招かれ、入った室内も特に変わった点は無かった。

 強いて言うなら部屋の一角にやたら色んな物が置かれている事が気になった。


「あぁ、あれですか。あれは皆へのお土産です。ウィルさんとドライお嬢の鞄にも、空きがあれば適当に入れて貰えると助かります」


 俺の視線に気づいたのかナギに説明された。そういえば地中の町を出発する時に、ドライもお土産がどうとか言っていたな。


「もう既に土産の準備が済んでいたとは……流石ナギは手際が良いでござるね~」


 関心しながら荷物の整理をするドライ。俺もわざわざ土産用に大きな鞄を渡されていたのでドライに倣い荷物を詰める。


「それにしても本当に色んなものがあるな……」

「そうですねー。ノエル様には日持ちするお菓子、オリヴィアさんには食器類、フィーアお嬢には新しいブラシ、ユディさんにはお酒。後は――」


 とりあえず俺が知ってる相手だけでもそれなりの量になっていた。それに加えて部下や他の知り合いのものも入れたら、あっという間に荷物がいっぱいになった。


「こんなものですかね。不足分があれば買いに行ってきますが、どうですかドライお嬢?」

「バッチリでござるよ! どちらにせよこれ以上は持っていけなそうでござるし、今回はこれで十分でござろう」


 そこでふと、出入り口の扉から物音が聞こえた。俺は反射的に剣に手をかけ、身構えてしまったのだが……。


「あぁ、警戒しなくて大丈夫ですよ。どうやら私の友達が来たようですね」


 そう言って扉を開けるナギだが、そこには誰もいなかった。

 ……いや、よく見てみるとドアの下の方、ナギの足元に白黒の犬が一匹いた。


「……随分とユニークなお友達だな」

「ははは、そうでしょうね。ちなみにこの子だけでなく町にいるお犬さん達はだいたい友達ですよ」


 この交友関係に関しては流石は犬系の獣魔族……といったところか。


「この子達には情報収集を手伝って貰ったりしてるんですよ」


 どこからか干し肉を取り出したナギは、それを犬に与えながら何やら話しをする。一応何かしら意味のある会話なのだろうが、犬語が分からない俺は成人女性と犬の、犬の鳴き声による会話を黙って見守ることにした。


「わう? わうう? わんわん、わんわううわん?」

「わんわんわん! わん! うー……わんわんわんわん!」


 うん。まったく何を話しているのか理解できない。


「どうやらヒューゴ邸周辺の事について話しているみたいでござるね」


 俺の様子を見て、犬語が分かるであろうドライが解説をいれてくれた。


「ウィル殿、今夜は事をなした後すぐに王都を離れる必要があるでござる。今のうちに仮眠をとるでござるよ。……ナギ、適当に寝させて貰うでござるよー?」

「あぁ、そうだな。……休ませてもらうとするか」

「わうわうわ……あっ、はい。寝室にベッドやソファがあるのでそこらへんどうぞー。私はもう少し情報収集等してますね」


 その後俺とドライは夜に備えて仮眠をとることにした。



 そして日が暮れた頃にナギに起こされた俺達だったのだが、それと同時に少し厄介な情報がもたらされた。


「どうやら今ヒューゴ邸に、セシリア王国の第一王女……ジーナ姫が来ているらしいです」


 ジーナ姫とは幼い頃に面識があった。体が弱っていた彼女の母が、療養のために俺や仲間が住んでいた村に一時期滞在していた際の事だ。

 その時に俺や仲間は、ジーナ姫だけでなく現国王で当時騎士だったアレク様、妹のシルフィー姫、そして今は亡き母君と親交を深めていた。もっとも今となっては立場の違いもあり、話す機会すら無くなってしまったが……。


「……なんでまたそんなところに彼女がいるんだ……」

「それはわかりませんが……今夜計画を実行するべきかどうか、ノエル様にご相談しようかと思います」


 ナギはそう言うと、懐から小さな貝殻を取り出した。

 現物を見るのは初めてだったが、それが何かはなんとなく察しがついた。


「……通話貝(コールシェル)か?」


 通話貝は魔力を用いる事で、対となる貝殻を持った相手と離れた場所でも会話ができるという代物だ。その有用性と希少性からかなりの値打ちで取引される。


「はい。とりあえずこれでノエル様のご意見を伺おうと思います」


 こうして俺達は思わぬ事態を前にノエルと相談する事になった。


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