010◆いざ王都へ
「さて、ここからはいよいよセシリア王国の領内だな。ここから先は具体的にどうする予定なんだ?」
「王都の中に拙者の仲間が潜入している故、とりあえず合流して内情を確認してから動くのが得策だと思うでござる」
ヒューゴは自分の領地内か、城下町にある別宅のどちらかにいるであろう。
勤務地である城は流石に警備が厳重で容易く侵入できないだろうが、城下町や領地なら難なく入れる。暗殺を行うのはこのどちらにいる時だろう。
ただどちらにせよ王都で情報を得ない事には行動するのは難しそうだった。
「とりあえずは情報収集からか」
「そういうことでござる。それでは出発するでござるよ」
王都への道中いくつかの町や農村があるのだが、ドライに先導してもらいながら迂回等をしたおかげで人と出会う事は無かった。
事前に食料等いろいろと準備していた甲斐もあり、快適な旅路だったと言える。
そんな調子で4日程歩いた俺達は、無事に王都の近くにある森までたどり着くことができた。
「そういえば件のお仲間さんとはどうやって合流するつもりなんだ?」
「向こうも鼻が利くでござるから、ここで待ってればそのうち来ると思うでござる」
「もう来てますよ、ドライお嬢」
木陰から1人の女性が現れる。ドライの垂れ耳とは違うが、ツンと立った犬のような耳を持った茶髪でロングヘアーの女性だ。
「おぉ! ナギ、早かったでござるね」
「えぇ、そろそろかなーと思ってたんで。勇者さんはじめまして、ドライお嬢が隊長をしてるシノビ組第3部隊副隊長のナギです。どうぞよろしく」
ナギは人当たりの良い笑顔を浮かべながら手を差し出してくる。俺も自己紹介をしながらその手に応じた。
「ウィルフレドだ、よろしく頼む。気軽にウィルと呼んでくれ。……ところで少し気になったのだが」
ナギを見て……正確にはナギが着ている白いローブを見て俺は質問をする。
「そのローブ、確か葬儀の時に着る礼装だったと思うんだが、誰か亡くなったのか……?」
「あぁ、これですが。今ちょうどウィルさんとお仲間さんの国葬をしてるんですよ」
「えっ……えぇ!?」
ケラケラと笑いながらナギが答える。
あ、いや確かに俺死んだけど……なんだか妙な気分になる。
「別動隊が帰ってくるまでは喪に服すみたいですよ。ドライお嬢とウィルさんの分も持ってきたのでどうぞ。……このローブはフードもありますし、自然に顔隠せてちょうど良いですね」
「ありがとう。確かに今、人前で顔を見せる訳にはいかないな……」
変装道具等も用意していたが、此方の方がより自然だろう。
それにしても自分達の葬儀か……王都にいる知り合い達がどういう反応をしているのか気になるが、流石に今様子を見に行くわけにはいかないだろうな。
「それじゃ、そろそろ仕事の話をしましょうか」
先ほどまでの笑顔がなりを潜め、一転真面目な表情になる。それを見て俺の方も気が引き締まった。
「とりあえず標的は今暫く王都の別宅にいるようですね。一応既に侵入と後処理の下ごしらえはできているので、今夜にでもいけますよ?」
「顔を見られてはいけない以上、あまり長居すべきではないし夜になったらいこう。……ちなみに後処理ってどうするつもりなんだ?」
「ウィルさんには後々奇跡の復活劇……という名の茶番をしてもらう予定なんですけど、普通に暗殺してしまうと後で面倒な疑いを持たれる可能性があります。なので標的が事故死したと思われるように幻術を使って細工します」
復活劇か……確かにノエルは俺が国王になる事を望んでいるようだし、どこかしらのタイミングでやらないといけないのだろうな。少々気恥ずかしいが仕方ない。
「ウィル殿、安心するでござる。拙者と違ってナギの忍術や幻術は超一流でござるよ! なんといってもナギは拙者の目標でござるからね!」
俺が黙って復活劇について考えていると、不安がっていると思われたのかドライからフォローが入った。
「ははは。ドライお嬢、褒めても何も出ませんよ? それにドライお嬢も頑張って修行してますし、私くらいにならすぐ追いつけますよ。……まぁ私としては正直ドライお嬢やフィーアお嬢にまで危ない事して欲しくないんですけどね。せっかくノエル様が平和な国を作ろうとなさっているわけですし」
「平和を維持するためにも力は必要でござるよ! それに拙者達は人手不足なのでござろう? 拙者とフィーアの名前が出て、姉上達の名前が出ないのがその証拠でござる」
「……良いお答えです。立派になられましたね、ドライお嬢。……それに痛いところを突かれてしまいましたね。確かにアインお嬢とツヴァイお嬢にいなくなられると非常に困りますね」
ナギはドライの事を暫く慈しむように見つめた後、困り顔になって笑う。
「そういう訳でウィル殿、拙者はまだまだでござるが少しでも皆を支える手助けをしたいと思っているでござる! ウィル殿もご迷惑でなければ協力してもらえると嬉しいでござる!」
「……あぁ、そうだな」
先の事なんてどうなるかわからないが、ドライの真っすぐな眼差しを見てそれを断ろうという気にはならなかった。
「……ふむ。なるほど。……男性と普通に接しているところを見るに、ドライお嬢は世継ぎの心配をしなくて良さそうですね。問題は上の2人か……はぁ……」
ナギは何やら呟くと、ため息を漏らした。
「どうかしたのか?」
「えっ、あぁ、いえ。なんでもありませんよ。……それよりもここで夜まで待機しても良いのですが、城下町に隠れ家があるのでそちらに行きましょう。今ならローブを着ていれば怪しまれずに済みますし」
「隠れ家なんてあるのか……」
確かにかなり開かれた町ではあるのだが、それでも魔族側に隠れ家まで作られているというのは不用心にも程がある気がした。
「えぇ。町自体まだまだ拡張しているせいで、外壁等で物理的に侵入を防ぐ手段がとり難いとはいえ、こういった点はウィルさんが王様になったら改善するべきでしょうね。私以外にも他国の間者が多数入り込んでいるでしょうし」
「そこらへんの細かい事はノエルに任せるつもりだが……確かにそうした方が良いかもしれないな」
「まぁその件に関してはそういうことで。とりあえず隠れ家の方に向かいましょうか」
そういって歩き出すナギの後を、俺とドライはローブを被り追いかけた。




