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009◆再出発

「……これどうやって着ればいいんだ?」


 温泉から出て体を布でぬぐい、用意されていた着替えを使おうとしたのだが、ジパング風の服なのかどう着て良いのかいまいちわからなかった。

 ちなみにもともと着ていた服は洗ってくれているらしい。


「あぁ、これは浴衣というジパングの着物の一種でござる。とりあえず羽織って腕を通してもらえるでござるか? あとは拙者がやってあげるでござるよ!」

「お、いいのか? それじゃあお願いするよ」


 1人で困っていたところ、すでに薄桃色の浴衣に着替え終えていたドライに助け船を出して貰えた。とりあえず言われた通り俺は紺色の浴衣を羽織ることにした。


「まずは右衿を左にもっていって、次は左衿で閉じて最後に帯をぐるぐる~してぎゅっ! これで完成でござる!」

「……なるほど。この腰布で固定させるのか」

「そういうことでござる! 着替えも済んだし客間に行くでござるよ~!」


 無事に着替えを済ませた俺は、そのままドライの案内で客間へ向かう事にした。

 トンネルを抜け、木でできた床に上がり、横開きの扉を開けると、これまた見慣れぬ内装の部屋の中心に、美味しそうな食事が配膳されていた。


「さぁウィル殿! 冷めないうちに頂くでござるよ!」

「あぁ、そうだな」


 座椅子に座り、食事を前にする。

 山の中にある場所だけあって、山菜を初めとした山の幸が豊富で他には川魚や動物の肉などが豪勢に並んでいた。

 俺もドライも町中で貰いものをちょくちょくつまみ食いしていたが、出された食事の美味しさにあっという間に完食してしまった。


「ふあ~お腹いっぱいでござる~。温泉にも入ったでござるし、後は寝るだけでござるな」


 そういってドライは床の上に寝転がった。


「おいおい、まさか床でそのまま寝るのか?」

「隣の部屋に布団が敷いてある故、本格的に寝る時はそっちに行くでござるよ~。 ……でもこの床は畳というジパングの文化財で、今の拙者みたいに大の字になって寝転がるのが通の楽しみ方なのでござるよ~! よかったらウィル殿もやってみるでござる!」

「ほう……そういうものなのか。ジパングの文化は奥が深いな……」


 勧められるままに、俺も寝転がってみた。干し草を素材につかっているのだろうか? 畳は木製の床等と比べて柔らかく、心を落ち着かせる独特な匂いがした。


「……確かに。これは良いな……。なんだか眠くなってくる」

「そうでござろうそうでござろう! ただこのまま寝るのは風邪をひいてしまうかもしれないでござる。お布団まで行って明日のために休むでござるよ!」

「あぁ、そうだな……。明日以降のためにも今日はぐっすり眠るとしよう」 


 こうして地中の町での一日が終わった。本当ならもっと急いで先に進むべきだったのかもしれないが、休めるうちにきちんと休むのも大切な事だ。山を越えても王国へは人目を避けて数日歩く必要があるだろう。

 いざという時に疲労で体が動かないなんて事になったら笑い話にもならない。




 そして翌日。目が覚めると何故か俺の布団に潜りこんでいたドライを起こし、洗って貰った普段着に着替える。昨日の夕食に引き続き美味しそうな朝食を用意してもらい、それを平らげる。


「王都に着くまであまり贅沢できないだろうし、美味い食事にありつけたのは幸いだった」

「そうでござるね~。まぁそれでも少しは道中の食事を楽しめるように、色々と持っていくでござるよ」


 そういうとドライは鞄を背負い、同様の物を俺に手渡す。わりと大きめに感じたが、見た目に反して重さはあまりなかった。


「軽いな。この感じだと中にけっこう空きがあるだろう? ……もっと小さいやつの方が良いんじゃないか?」

「2人で分けている故、今は大した量ではないでござるが、王都のお土産を用意すると皆に喜んで貰えるのでござるよ。 もちろん任務が優先でござるし、あくまで余裕があればという事で……」

「なるほどな」


 確かに王都には色々なものが集まる。本気で土産を買っていこうと思ったら、今ある鞄2つ程度じゃとても足りないだろう。


「そういえばウィル殿は剣以外とくに荷物を持っていなかったようでござるが、普段はどうしていたのでござるか?」

「あぁ、今回は王国側が色々用意してくれて、一緒に行軍してた兵士達が持ってくれてたよ。普段はまぁ必要に応じて何かしら準備するかな。火は魔法でなんとかなるし狩りや採取もそれなりにできるから、水場さえ確保すれば野営も余裕だな」 

「ほぇ~ウィル殿意外と逞しいでござるね!」

「まぁ山しかないような村で生まれたからなぁ。この町の方がずっと栄えてるぞ」


 仲間と一緒に俺が生まれ育った村は、本当に何も無い場所で、近くの森や川くらいしか遊び場所が無かった。今思うとそういう環境で育ったから、珍しいものとかに惹かれるのかもしれない。


「それじゃあ道中頼りにさせてもらうでござるよ!」

「俺にできる事はやらせてもらうつもりだよ。ドライからすれば拙く感じるかもしれないが、隠密行動もそこそこ経験あるしな」


 パーティー内では先陣を切ったり斥候のような役割をしていたので、人から気づかれずに動く事自体はわりと慣れているつもりだった。


「いやいや! ウィル殿は十分な腕前をしているでござるよ! それに拙者の耳と鼻があれば道中で人と接近する事はほぼ避けれるはずでござる!」

「俺にはできない芸当だな。こちらこそ頼りにさせてもらうぜ」

「お任せあれでござる! それではそろそろ出発するでござるよ~」


 荷物の確認などを済ませた俺達は、地中の町を後にした。

 来た時と同様にコボルトにトロッコの運転を任せ、その後は何事も無く山を抜ける事が出来た。


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