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008◆ドライと露天風呂

 ドライの妹のフィーアとドワーフの女鍛冶師のユディと別れ、その後は特に何事も無く目的地の宿舎へ俺達は辿り着いた。


「……町にも色んな種類の建物があったが、ここもなんというか一風変わった見た目をしているな」

「遥か東にあると言われている、黄金の国ジパングの建築様式を取り入れたシノビ屋敷でござる! 外だけでなく中もきっと物珍しく感じると思うでござるよ~」


 ドライは門番をしていた部下と思われるコボルトに荷物を預けて、一言二言話すと木製の門の中へ入っていく。その後に続くと、白い石が敷き詰められた庭に出た。ところどころに見慣れない形の木があり、その他には不思議な形状の石の置物や小さな池もある。


「なるほど……これがジパング風の庭園か。初めて見るけど風情があって良いな」

「部下が今ちょうど客間で歓迎の準備をしてくれているようでござる。待っている間に良かったら少し案内するでござるよ?」

「おぉ! せっかくだしお願いするよ。こういう異文化のものは興味がある」


 小さい頃にジパングの事が記された書物を少し読んだ事があったが、実物を見るのは初めてだったしおそらくドライの方が色々と詳しいだろう。

 実際、思っていた通りドライの方が知識があった。広い庭を一通り案内してもらいながら、疑問に思った事を聞くと全てに対してドライは事細かに説明してくれた。


「俺も少しは知識があったつもりだけど、流石にドライの方が詳しかったか」

「ふっふっふ。こう見えても拙者、ジパングの書物が大好きで色んな種類のものを繰り返したくさん読んだでござる。いつか本当にジパングに行くのが拙者の夢でござるよ~! ……あ、そうだ! せっかくでござるし、とっておきの場所にも案内するでござる!」

「お、まだ他にも見どころがあるのか。これは楽しみだな」


 ドライは近くにいたコボルトと少し話すと歩きはじめた。しばらく後を追っていると、庭の中に町に来る前通っていたようなトンネルがあった。


「ここから山の外側に行けるでござるよ」

「ほうほう……とっておきっていったい何があるんだ?」

「それは実際に見てのお楽しみでござる♪」


 ドライは人差し指を口元に置いて悪戯っぽく笑うと、後は何も語らずにトンネルの中を進んでいった。仕方ないので俺も黙って後を追い、しばらく歩くとやがて出口が見えてきた。


 トンネルから出て、まず目に入ったのが夕焼けで赤く染まる山の景色。地中にいたせいで分からなかったが、もうすっかり日が暮れてしまいそうだった。

 そこそこひらけた場所に出たようで、そこには小屋ともう一つ、屋根と柱はあるが壁が無い木造の建物があった。内部を見ると中央に上部が開いた木製の大きな箱があり、そこに水がたまって……いや、湯気が出ているからあれはお湯――


「あ、あれはまさか……!!」

「そう、そうのまさかでござる! あれはずはり温泉! ジパング風の露天風呂でござる!」

「おおおおおおぉぉ! すげえええええええええぇぇぇぇ!!」


 かなりテンションが上がって、思わず叫んでしまった。


「さぁウィル殿! 客間の準備を待つ間に温泉に入るでござるよ! 拙者実を言うと、ウィル殿のマーキングとか触手のヌルヌルのせいで早く入りたくて仕方ないでござる!」

「おぉ、入って良いのか! あとその件についてはほんと悪かったな!」

「今からサッパリする故、問題無いでござる! 小屋に手ぬぐいや石鹸があるでござる故、さっそく行くでござるよ~!」


 俺達は意気揚々と小屋へ乗り込み、服を脱いで温泉に入る準備をする。どうやらドライの部下が着替えも用意してくれるらしい。至れり尽くせりとはまさにこの事である。


「とりあえずかけ湯をしてから、隅の方にある洗い場で体を洗うでござるよ」


 ドライは用意していた桶にお湯を汲むと、手足にゆっくりかけて体を慣らしていく。俺もそれに倣い体にお湯をかける。湯尻の方にいるせいか少しぬるめに感じたが、それだけで十分気持ち良かった。

 俺達は身体を軽く温めたあと洗い場の方に移動し、小屋にあった手ぬぐいと石鹸を使い体を洗いはじめた。


「ウィル殿~背中を洗いっこするでござるよ!」


 一通り体を洗い終えたところで、ドライがそんな提案をしてくる。確かに背中は1人では洗い難いし、2人いるならお互いに洗いあった方が綺麗になるだろう。


「おう! いいぞ! ドライはちっこいし、すぐ終わるだろうから先にやってやるよ!」

「ちっこいは余計でござるよー! それではよろしくお願いするでござる」


 背を向けて座るドライ。その背中を俺は石鹸で泡立てた手ぬぐいを使って、上から丁寧に洗ってやることにした。


「あ゛あ゛あ゛~きぼぢいいでござる~」

「うーむ……なかなか良い鍛え方をしてるな」


 ドライの体を洗いながら見て、無駄な贅肉や筋肉が無いしなやかで柔らかい体という印象を受けた。体格的にも筋力をつけてもあまり効果が無いだろうし、これなら柔軟性や瞬発力に長けたドライにあった良い鍛え方だと思う。


「はっはっはー! そうでござろうそうでござろう! もっと褒めてくれても良いでござるよ!」


 褒められて気をよくしたのか、尻尾がふりふりと振られている。その様子を見て俺はある事を考えた。


(尻尾も自分じゃ洗い難いだろうし洗ってあげたほうが良いかな……?)


 そう思った俺は、手ぬぐいではなく自分の手で石鹸を泡立てて、ドライの尻尾に触れた。


「ひゃううぅっ!? うぃ、ウィル殿! 何をしているでござるか!?」


 聞いた事の無い声をあげて、驚くドライ。もしかして怪我でもしてて痛かったのだろうか……?


「あぁ、悪い。もしかして痛かったか? ここも自分じゃ洗うの大変だと思ってな」

「い、痛くはないでござるし、確かにその通りでござるが……」


 何やら口ごもるドライ。痛いのなら止めておこうかと思ったが、そうじゃないなら洗った方が良いだろう。


「まぁすぐ終わるだろうしよくわからんが少し我慢してくれ」

「う……うぅ……分かったでござる……」


 珍しく歯切れの悪いドライの様子を不思議に思いつつも、俺は尻尾を洗う事にした。先端から丁寧に洗っていき、もう少しで根本部分。全てを洗い終えるという直前で、今まで黙って俯いていたドライが立ち上がった。


「ああああああぁぁ! やっぱりくすぐったいし恥ずかしいでござる!! あとはもう自分でやるから大丈夫でござ――あっ」


 急に立ち上がり逃げようとしたせいで、ドライは俺が置いていた石鹸を思いっきり踏みつけて勢いよく転んでしまう。


「っ! 危ない!!」


 このままではろくに受け身もとれず岩盤でできた床に激突してしまう。下手をすれば大怪我をしてしまうだろう。なんとか助けようと思い、俺はドライを受け止めるように身を滑らせ下敷きになった。


「あいたたた……くないでござる……?」

「だ、大丈夫かドライ? 痛むところが無いなら、とりあえずどいてもらえると助かる」

「え? あ! ああああぁぁ!!」


 転んだ拍子に俺の目の前にドライの小さなお尻があった。その事に気づいたドライはすぐさま飛び退いてまた転びそうになる。


「……よっと。ちょっとは落ち着けって」


 あわあわと片足立ちでバランスをとっているドライを腕を掴み、しっかり立てるようサポートする。


「あうぅ……重ね重ねかたじけないでござる……」

「いいっていいって。俺の方こそ何だか悪かったな」

「そ、それこそ気にしないで欲しいでござる! 拙者が勝手に慌ててしまっただけでござるし、ウィル殿が助けてくださらねば怪我をしていたかもしれないでござる! そ、それに、むしろ……その……」


 顔を赤くして、また何やら口ごもってしまうドライ。


「? まぁとにかく怪我をしていないようなら良かったよ」

「そ、そうでござるね! あ、そうだ! 今度は拙者がウィル殿の背中を流すでござるよ!」


 俺に背中を向けて座るように促すドライ。よくわからないが、いつもの調子に戻ったみたいだ。


「やっぱりこうして見ると男性の背中は大きいでござるな~。 姉上達やフィーア、ノエル様とは全然違うでござる」

「へぇ……姉妹以外にノエルもここに来てたりしたのか」

「この場所に関しては元々ノエル様が露天風呂に入りたいと言い出して作られたでござるよ」


 なるほど、言い出しっぺだったのか。相変わらず魔王らしからぬ奴だなと思う反面、良い趣味をしていると思った。


「だから基本的にここの湯に入れるのは、ノエル様から許可を得た者だけ故、けっこう特別な事なのでござるよ? 部下たちも掃除当番の者がたまにこっそり入るくらいで、基本的には他の大衆浴場に行くみたいでござるし」

「俺は許可貰った覚えないんだが、入っても良いのか?」

「ん? まぁウィル殿なら許して貰えると思うでござるよ? 体毛があまり無いようでござるし」


 判断基準そこかよ。いや、まぁ確かに全身けむくじゃらのコボルトと比べれば、たいして毛は生えてないのだろうが……。


「まぁノエル様はそこらへん口煩く言うようなお方では無い故、だいじょうぶでござるよ。そんな事よりお背中洗い終えたでござるから、早く湯船に入るでござるよ~!」


 その後は広い浴槽にドライと2人で入り、温泉と絶景を楽しんだ。

 ドライの部下から歓迎の準備ができたと連絡が来る頃には、すっかり日が落ちて月や星が出始めていた。もう少しこの光景を楽しむのも悪くないと思ったが、俺達は湯船から上がる事にした。


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