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012◆第一王女と女騎士

◇  ◇  ◇




 魔王ノエルの城。


 ウィル一行との戦闘の影響で随分と荒れてしまい、現在絶賛修復中であるこの城だが、一切戦闘の影響を受けずに今まで通りの形を保つ場所も少なくなかった。

 我が今いる自室もそんな場所の1つである。


「……ふむ。なるほど。……それは確かに少し厄介かもしれないな」


 我は手にした通話貝(コールシェル)からナギの連絡を受けていた。

 定時連絡以外での連絡というのは、だいたいが予想外の出来事が起こった時にくる。今回もご多分に漏れず、どうやら侵入先にジーナ姫が居合わせてしまっているという事らしい。


「……いかがいたしましょうか?」


 ナギの性格からして不確定要素はできるだけ避けたいと考えているだろう。友人の忘れ形見であるドライが一緒にいるのだから尚更だ。


「とりあえず暫くは待機していてくれ。今から我が現場の様子を探り、情報を仕入れてから再度連絡する」

「了解いたしました」


 その声を最後に通話貝からの音声が途切れる。


「さて、面倒な事になってなければ良いが……」 


 ヒューゴ邸の内情を探るべく、我は水晶玉を前に意識を集中し魔力を込めた。




 豪勢な食事が並んだ食卓に2人の人物が座っていた。


 1人はこの邸宅の主で、ウィルを殺めた張本人である老騎士ヒューゴ。

 もう1人はそのウィルに想いを寄せる、セシリア王国の第一王女であるジーナだ。そしてその背後に、彼女の近衛騎士である黒髪の女騎士が控えていた。


「……やはり(わたくし)は納得できません。ウィル様達が亡くなられた事と、ヒューゴ伯が語られた当時の出来事について」


 ジーナについては、ウィル達が死んだ事がショックで城の中で塞ぎ込んでいる。という報告をナギから受けていたが、どうやら今はウィル達の死の真相を知るために行動しているようだ。


「ジーナ姫のお気持ちはわかります。ですが、私がご報告した事が事実なのです。勇者殿達は魔王の最後の一撃から我々を庇い亡くなられました」

「……本当にそうだと誓えますか?」

「もちろんです。誓いましょう」


 長テーブルを挟んで座る二人の距離は、物理的なものだけでなく決して埋まらない心の距離でもあるように我には思えた。


「そうですか……。ですが申し訳ありませんが、やはり私には信じられません……。納得できるお話が聞けるまで、此方に滞在させて下さい」

「……わかりました。ジーナ姫にご納得頂けるまで、私も何度でもお話いたしましょう」


 その後の会話もお互い譲らずに平行線のままだった。

 そしてやがて夜も更けていき、一旦話は中断されジーナと女騎士が客間に案内される事となる。


「……カレン、すみません。貴方まで付き合わせてしまって……」


 ジーナは意気消沈とした様子で客間にあったソファに座り、自身に付き従う女騎士に声をかけた。


「ジーナ様、その事についてはお気になさらないで下さい。……私も今回の件に関しては納得しておりませんので」


 我はこの黒髪の女騎士について知っていた。

 

「アニーは……妹は他人を盾にして生き残る事はあっても、他人の盾になって死ぬような子ではありませんから。他の子達だって簡単に死んだりするような事は絶対にありえません」


 女騎士カレンはウィルの仲間の1人である拳闘士アニーの実の姉で、ウィルをはじめとした他の面々とも仲が良い。

 ジーナがここにいるという話を聞いた時に、ジーナの近衛騎士であるカレンも同行している事は予想できていたが、カレンは戦うとなると非常に厄介な相手だ。女性でありながらその剣の腕は王国内で5本の指に入る達人である。


「……私にとってはウィル様だけでなく、アニー様やパメラ様、エメリナ様も昔の弱虫だった私に勇気を分け与えてくれた勇者様です……。そんな皆様が……皆様だけが亡くなってしまわれるなんて……」


 目に大粒の涙を浮かべるジーナ。それを見てカレンも悲痛な表情を浮かべる。


「わかっております、ジーナ様。……彼等が何かを隠しているのは明白です。私が必ずやそれを暴いてみせます」

「私も……私もただ待っているだけではいられません……。ヒューゴ伯から本当の事を聞くまで、絶対諦めません……!」


 おそらくジーナとカレン以外にも、ウィルと仲間達の死に疑念を持っている者は少なからずいるだろう。しかし具体的な証拠が無い以上、どうしようもないというのが現実である。そして時の経過と共に真相は歴史の闇に消えてしまうのだ。

 だがこの2人にとって、ウィル達の存在はとても大きなものであっただろう。それ故に真相を暴くというその決意は固いはずだ。


(暫く2人はヒューゴから離れないであろうな。この状況で暗殺を行うのはリスクが高い。……だが)


 これは同時にチャンスでもある。

 カレンは騎士という立場上難しいかもしれないが、上手く接触できればジーナをこちら側に引き込む事ができるかもしれない。そこまで上手くいかないにしても、ウィルと接触して事の真相を知れば2人の関係は深まるだろう。


 我は本音を言えば『個人的に仲良くなりたい』という理由でウィルを蘇らせたが、表向きの理由である『王国を内部から抑える』というのも達成したい事柄ではあった。そのためにウィルを王国の絶対の権力者である国王にしようと考えたが、それには現王家の存在が障害となる……と思っていた。

 最初こそ我の分体で王都を襲い、邪魔者を全て消した上で劇的に復活した勇者が分体を倒す。そしてそのまま民衆からの支持が厚い勇者が彼等を導く新たな王に――という自作自演策を考えていたが、現王家がウィル達と親交があったと知りそれは止めた。

 甘いと思われるかもしれないが、我にとってはウィルと仲良くなるのが第一で、王国については二の次である。だからここでウィルから嫌われるような策を取るのは本末転倒なのだ。


 ただ都合の良い事に、現王家には跡取りとなる男児がおらず、第一王女のジーナの婿が新たな王になる。そして更にそのジーナがウィルに好意を抱いている。これを利用しない手はないだろう。

 現時点でもジーナのウィルへの想いは十分なものだと思われる。だがもうひと押しして確たるものにするのも悪くない。


(……2人だけの秘密というのは、恋する乙女を更に盲目にさせるかもしれぬな)


 そんな事を考えながら、我は通話貝を手にしナギへ連絡をとった。




◇  ◇  ◇


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